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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第一二話 ウルフェン退治

 ウルフェン――狼男や人狼といった言葉がしっくりくるそのマガモノ達は、村の入口付近で臨戦態勢に移ったヒカルとフォキュアの存在を認めると、月の煌めく夜空に向かって鳴き声を上げた。


 それぞれのマガモノから同時に発せられた七重の遠吠えが波紋のように広がり、ふたりの鼓膜を揺らし相手の敵意を肌に残す。

 そして――それは一瞬。狼の見た目にそぐう俊敏な動きで八匹の化身がふた手にわかれ襲いかかってきた。


 ヒカルとフォキュアの間隔がそれなりに広がっていたのが原因だろう。

 ふたりはともに近接戦を主とするタイプ。そして力押しというよりはその素早さを活かした戦い方を得意とする。

 尤もヒカルに関しては、今の状態になったからこそ、その性質がより顕著になっているわけだが――

 そしてお互いの戦い方が似通っている以上、お互い密着するよりはある程度、間を取ったほうがいいと判断。

 

 この戦い方であれば、上手く立ち回れば前後や左右からの挟み撃ちも可能かもしれない。

 ただ、ヒカルにとって意外だったのは相手の動き。

 しっかり四匹ずつに分かれ、フォキュアとヒカルに向かってきた。

 どうやらそれなりに連携が可能なタイプのようである。


 そしてウルフェンはヒカルに向けて正面と左右に散開し、更にもう一匹は驚異的な跳躍力を見せつけてくる。

 普通の人間ではありえない――三階建ての建物ぐらいであれば飛び越えてしまいそうな大跳躍。

 そのバックには満月。相手が狼男だけにまさにピッタリのシチュエーション。

 だが見惚れている場合ではない。上空に浮かぶ満月と人狼の影が重なりあったかと思えば、左右と正面から迫る研ぎ澄まされた爪牙。

 まさかこういった動きで来るとは思わなかったので、ヒカルも目を丸くさせるが戸惑っている暇はない。


 同時にこられると流石に厄介だと、ヒカルは先ず正面に向けて突っ込んだ。

 左右の相手はどちらを相手にしても挟撃に繋がる。

 黙って様子を見ているのはもっとありえない。

 正面であれば、既に敵が動き始めている以上、左右のウルフェンの急な方向転換は難しく、空中にいるウルフェンは着地点が決っている筈。


 アイオスソードを握りしめ、ヒカルが近づくと同時に、ウルフェンはまず左の爪を横に振るった。

 ヒカルはそれを腰を落とし頭を下げ躱すが、そこへ今度は右手の爪による振り下ろし、だがそれはアイオスソードに込められた力を開放し、盾にすることで受け止め、そのまま服の内側に纏わせたゴキブリの瞬発力を活かし跳ね上げた。

 ガラ空きになった胴体目掛け、掲げた剣を振り下ろそうと力を込める。が、上空から何かが近づく気配を感じヒカルは瞬時に力の噴出先を右足に変え、横に飛んだ。


 刹那――振り下ろされた爪で地面が一文字に抉れた。かなり深い。

 グルル――と唸り、獲物を捉えそこねた狼の炯眼がヒカルに向けられる。

 ヒカルはヒカルで忙しそうに黒目を動かし状況確認。

 最初の位置で、左右から迫っていたウルフェンが今度はヒカルの背後、正確には斜め後方で三角を描くような配置に。

 ヒカルの正面にいた相手も、跳ねるような動きでヒカルの正面に移動したと思えば、同時に横から再びウルフェンが飛びかかってくる。

 

 しかし先ほどと違い、今度は四肢を地面につけた状態からの攻め。

 まさに獣の如き動きは、最初のような高さのあるものではなく、鋭く三日月を描くような軌道。

 だが動きは直線的であるため、ヒカルは横にステップし避けようとするが――しかし相手は宙を蹴るようにして無理やり軌道を変えてきた。

 それでヒカルも合点がいく。最初の跳躍では、軌道から予測するに、今のヒカルのいた場所に着地は不可能だった筈だ。

 だが、それをこの軌道修正によって可能にしていたのだと。


 ただ、問題はこの後の選択。中途半端な対応では、既に動き始めている残りの三匹の攻撃を受けてしまう。

 この相手と戦うのは初めてであるし、ウスラゴキブリで果たしてどれぐらい耐えられるかは未知数だ。

 それに例え内側が無事でも、コートに傷がつくのは好ましくない。

 隙間からヒカルの正体がバレる可能性もあるからだ。


 だから――ヒカルは再び足に力を込め、今度は全力(・・)でウルフェンの攻撃を躱した。

 その瞬間の四匹の様相は少々間の抜けたものであった。

 ヒカルは飛び込んできたウルフェンの背後に回ったが、そのあまりの速さにマガモノが完全に標的を見失っているのである。


 これでも完全体の状態に比べればかなり遅いのだが――それでもこのレベルのマガモノからしたら十分驚異的なのだろう。

 ヒカルはガラ空きなマガモノの背中に向けてアイオスソードを突き出した。

 恐らく人間と急所は変わらないのでは? と予想して繰り出した攻撃だったが、その判断は正しかったようで、ウルフェンは断末魔の叫びを耳に残し、そのまま絶命した。

 刃を抜くとドサリと力なくマガモノの一匹が傾倒する。

 

 すると唸り声を上げ、親の敵でも見ているかのような瞳を、残った三匹が向けてくる。

 仲間意識はそれなりに高いのかもしれない。


「はぁああぁああ!」


 フォキュアの方から気勢が上がる。ちらりとヒカルが視線を動かしたそこでは、例の如く跳躍からの一撃を決めようとしたウルフェンに刃を突き刺し、勢い良く回転する華麗なる獣人の姿。

 旋風狐剣――サルーサが彼女の必殺技だと言うだけあってその威力は絶大だ。

 突き刺した位置から彼女が輪切りにするように回転することで、ウルフェンの身体は見事に上下に分断された。

 あれで生きていられる筈がない。

 

 そして更にフォキュアは、三方から攻めてくる残りの猛撃を全て無傷で躱し、カウンターで一匹の首を切り裂いた。

 濁った鮮血が地面を汚し、その一発で人狼の命が刈り取られる。


 ヒカルは改めてフォキュアの強さに感嘆しつつも、怒りの様相で攻め込んできたウルフェン三匹を迎え撃ち、一匹の体を切り裂いた。

 これで残りはヒカル、フォキュア共に二匹ずつ。

 最初はその連携に少々面食らったりもしたが、一度崩してしまえば脆いものである。


 この調子でいけば後はそう時間も掛からず仕留めることが可能――そうヒカルが考えたその時……


「パパー! 私も手伝うーー!」


 タタタッ、と何とレオニーが村の入口を抜けて戦場まで掛けてきたのである。

 きっと途中で目が覚めて、ヒカルがいないことに気が付き、やってきてしまったのだろう。


 だがその姿と声に――ヒカルの集中力は途切れ、馬鹿っ! と身体を巡らせその意識がレオニーに注がれてしまった。


『ヒカル冷静になれ!』


 そこで先生の警告。その響きにヒカルもハッとするが――そんなヒカルに横からウルフェンの牙が迫った。

 体重を乗せた強襲に、完全に虚を突かれたヒカルは避けきれず、もつれ合うような形で地面を転がった。


「くっ! くそ!」


 ヒカルはそこから何とか上を取り、刃を喉に突き立てる。

 血を吐き出し、ウルフェンは死んだ。


 だが、視線を動かし、ヒカルの相手していたもう一匹がいない事に気が付き、もしや!? とヒカルはレオニーの方へ顔を向ける。

 すると一生懸命駆けけていた彼女の上空から――


「レオニー! 上だ! 逃げろーーーーーー!」


 喉が潰れるぐらいの大声で危険を知らせる。

 しかし、その声に頭をもたげたレオニーの直ぐ上にはウルフェンの牙が迫り――その瞬間悲鳴が上がり真っ赤な鮮血が宙を舞った……

タイトルを試しに変更してみました

旧:異世界で黒い悪魔と呼ばれています

新:異世界で俺の先生はゴキブリです

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