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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第十一話 村の見張り

「でもこの小屋、三人で寝るにはちょっと狭いかな――」


 それはヒカルからしてみれば、何となしにつぶやいただけの言葉に過ぎなかった。

 だが、隣でそれを聞いたフォキュアの顔がみるみるうちに紅く染まり、それを確認したヒカルが思わず口を塞ぐ。


「な、ななっ! 何を言ってるのよヒカル! 大体仕事は夜警なんだからね!」


 フォキュアの荒ぶる声がヒカルの耳に直撃した。

 むぅ~と怒ったような顔も可愛いと思うヒカルだが、失敗なのは確かだ。


『意外と大胆な事も言えるんだなヒカル。いいぞもっとやれ』

『先生その言い方いったい何処で……いや、俺の記憶か』


 変わりつつある先生に、どうしてこうなったという思いを馳せながらも、とりあえずフォキュアに頭を下げた。


「ごめんよ。そんなつもりじゃなかったんだけど口が滑ったというか……」


「口が滑ったって、ま、まぁ別にいいけど」


「愛人さんは一緒に寝ないの~?」


 レオニーが無邪気な声で訊いた。小首を傾げ、どうしてどうして? といった様子だ。

 悪気が全くないせいか、フォキュアも困り顔を見せるが。


「とりあえず愛人はやめて欲しいんだけどな……それでね、私は今日はお仕事でこの周りを見張らないといけないの。だから一緒には寝ないんだよ」


 腰を落とし、レオニーに目線を合わせてフォキュアが説明した。

 一緒に寝るという表現を耳にしたからか、フォキュアの背中からお尻までのラインを見ているヒカルの頬が紅い。

 フォキュアのスタイルが良いのは背中からみてもよく判る。

 ヒカルはふと、ハーデルから助けた時の半裸のフォキュアを思い出し更に熱が上がっていくのを感じた。


「ヒカルどうしたの?」


 レオニーへの説明が終わったのか、立ち上がりヒカルを振り向いたフォキュアが不思議そうに尋ねた。


「い、いやいやなんでもない! それより夜の警護は俺も勿論一緒に付き合うわけだし、俺とフォキュアで交代で休むにはいいんじゃないかな?」


 フォキュアのジト目がヒカルに向けられる。

 それに少しだけたじろぐヒカルだが。


「見張りレオニーもやる! レオニーもお仕事頑張る!」


 レオニーは胸の前に両腕をもっていき握りこぶしを作って、むんっ! と意気込んでみせる。

 レオニーなりに、ヒカルの役に立ちたいと思っての事なのだろう。


「ありがとうレオニー。でも今晩はレオニーはここでお留守番だ」


「え~どうして~私もパパと一緒に頑張る~」


 口を尖らせて不満そうにレオニーがぼやいた。

 のけ者にされたみたいで気分が悪いのかもしれない。

 それでいてこのぐらいの年令は好奇心も旺盛だ。ついついどんなことにでも挑戦してみたくなるのだろう。


「レオニー。これはまだレオニーには危険が一杯なんだよ。パパはレオニーが傷つくのは見たくないんだ。だから今晩はおとなしくしていて欲しい」


「でも~」

「レオニー――」


 ヒカルは腕を組み、眼下の幼女を諭すように強い態度で接した。

 レオニーがしゅんと肩を落とし、うなだれたような状態になる。

 きっと耳も尻尾も力なく垂れ落ちている事だろう。


「レオニーちゃん。ヒカル、え~とヒカルパパの言うとおり結構危険も多いんだ。だから、ね? その代わりレオニーちゃんがおねんねするまではしっかりパパもついていてくれるからね」


 フォキュアが優しく語りかけた事により、レオニーはゆっくりと首を擡げて、本当? とヒカルへ上目遣いで問う。

 

 その可愛らしさに思わず抱きしめたくなるヒカルだが、その気持ちは押し殺しつつ。


「あ、あぁ勿論さ。レオニーが寝るまでは一緒についてるよ」


「嬉しい! パパ大好き!」


 レオニーに飛びつかれデレデレのヒカルである。


「……でもパパねぇ。ふ~ん、わりとしっかりお父さん出来てるみたいね」


 フォキュアにそう言われ照れくさそうに頬を掻く。同時にいつのまにか、レオニーに向けて自分をパパと言ってしまっている事に気が付き、それについても気恥ずかしくなる思いのヒカルだ。


 そしてその後はフォキュアと話し合い、レオニーが眠るまでは、見張りはフォキュアが立つこととなり――ヒカルは藁を敷き詰めその場でレオニーを寝かしつけることにする。

 その藁を敷く作業はレオニーも手伝ってくれた。


 んしょ、んしょ、と一生懸命運ぶ姿に胸をキュン! とさせながらも、簡易寝床が出来上がり、その上でふたり横になる。


 しかし相手はまだまだ幼い娘。やましい気持ちなど湧くはずがない! と思っていたヒカルだが、いざレオニーがぴたりとヒカルに寄り添い、そして腕にしがみついてこられると、妙にどきどきしてしまう。


 勿論これは、こういった事に慣れていない事からくる緊張のせいではあるのだが――


『随分と心臓が乱れているなヒカル。まさか――』

『違う! 断じて違う! これはそんなんじゃありませんからーーーー!』


 ヒカルの心の叫びは当然レオニーに届くことはなく、幼女はヒカルの腕の中ですやすやと眠りについた。






◇◆◇


「ふぅ……」


「あれヒカル? レオニーちゃんは大丈夫なの?」


 小屋から出たヒカルは、フォキュアが見張る村の入り口前まで向かった。

 そこでヒカルを認めたフォキュアが声をかけてきたわけだが。


「うん。今は気持ちよさそうに寝ているよ。それでこっちは大丈夫?」


「今のところはね。村の人の話でもまだ現れるには早いと思うし、ヒカルまだ休んでてもいいよ?」


「それだったらフォキュアが休んでくるといい。俺が見てるからさ」


「私は大丈夫よ。元々夜は寝ないつもりで来てるからね」


「……そっか、だったら俺も大丈夫。眠くないしな」


「そう。でも無理しなくていいからね」


 入口の前でふたり並び、会話が一旦途切れたところで少し沈黙。

 ヒカルはなんとなく顔を上げ空を見上げる。すっかり暗くなってはいるが、空には真ん丸の月がぽっかりと浮かび、煌々と輝く星空も相まってか、夜でも少しは視界が確保されている。


 ここでヒカルは、次の話のきっかけとして月が綺麗だねとでも呟こうとしたが――


「ねぇヒカル――」

 

 先に声を掛けられ、え!? と素っ頓狂な声を上げてしまい、ちょっぴり恥ずかしくなるヒカルである。


「え、え~と何かな?」


「あ、うん。あのレオニーちゃんの事なんだけど、もう少し詳しく教えて欲しいかなって――」


 身体を巡らせフォキュアが訊いてくる。

 その意味はヒカルにも理解できた。先程ヒカルは、レオニーの手前フォキュアには簡潔に説明しただけである。

 そしてフォキュアもヒカルの気持ちを察し、突っ込んだ質問はしてこなかったのだろう。

 だが、レオニーが眠っている今、寧ろしっかり話しておいた方がいいだろう、とヒカルは改めて経緯を説明した。


「――そうか。その連中はつまり、レオニーちゃんやその、残念なことになってしまったけど、お母さんが金獅族だって言うのは知っていたのね?」


「あぁ。どうやらレオニー達を追いかけてあの森に来ていたようだしな」


 ヒカルの返答に、フォキュアは顎に指を添え思案しつつ。


「その連中をヒカルは、殺したのよね?」


 フォキュアの問いかけに片眉だけ吊り上げつつ、あぁ、と口にし。


「向こうは完全に殺る気だったしな。……もしかしてまずかった?」


「まずくはないわ。相手のほうがから命を狙ってきたなら正当防衛として成り立つしね。ただ、死体はそのままにしてきたのよね?」


「それは、そうだな。流石に運ぶわけにもいかなかったし」


「そうよね……あの森ならマガモノが多いから放っておいても死体は片付けてくれると思うけど、ただ――」


「ただ?」


「その連中、金獅族を多分一度は捕まえてるわよね? そうなるとヒカルが倒したのはなんらかの組織の一部でしかない可能性が高いかもしれないわ。だから――」


「また狙われる可能性があるということか……」


 フォキュアの説明で彼女が難しい顔を見せている理由に得心がいった。

 確かに絶滅したと言われていたという種族を見つけるほどの情報、ある程度大きな組織でないと掴むことは難しいのかもしれない。


「フォキュアはその組織というのに何か思い当たる節はあるのかな?」


 ヒカルが尋ねると、フォキュアは一つ嘆息し。


「あるにはあるわ。黒梟という闇で奴隷を売ったりしてる連中よ」


「闇で?」

 

 ヒカルは疑問符混じりにそう発し。


「でも奴隷のやりとりは認められているのではないのかい?」


「あぁそうか。ヒカルは奴隷制度に詳しくないんだもんね。うん、確かにヒカルの言うとおり奴隷制度は存在するんだけどね。ただ、今は奴隷に出来るのは犯罪を犯したものか、借金などで返済に困ったものに限られるのよ。戦争が頻繁に行われていた時代は、侵略された領地や国の民が奴隷として扱われるなんて普通にあったみたいだけどね」


 なるほどな、とヒカルは頷いてみせた。


「ただね……奴隷に対する制度の改正もまだ出来たばかりで、取り締まりにも穴が多いのよ。それで今いった黒梟みたいな連中が不当に……ようは村を襲って攫ってきた人や子供を闇市で売るのよ」


 その説明にヒカルは眉を顰める。つまり襲って無理やり捕らえそれを奴隷として売り捌き、私腹を肥やしているという事だ。

 そしていまは、レオニーがそんな不貞な連中に狙われているのである。


「そんな連中がのさばっているなんてな。それこそ勇義士ギルドでは対策してないのかい?」


「何もしてないってことはないけど、それなりに組織が大きいと中々尻尾も掴めないのよ。それにその規模の相手だとギルドから動ける人員にも限りがあるしね。ある程度実力と経験の伴っているものでないと動ける案件じゃないし」


 それもそうか、とヒカルは肩を竦めた。少なくとも今のヒカルに回ってくるような話でもない。


「まぁでもその話も恐らくってところだけどね。でもヒカル、そういう連中が狙ってくるかもしれないというのは肝に銘じておいてね」


「あぁ判った。勿論レオニーは俺が守るよ。そう母親にも約束したし」


「そうね、しっかりパパとして頑張って」


 フォキュアが悪戯っ子ぽい笑みを浮かべ言った。

 あまり不安になる話ばかりしても仕方ないと、敢えてそういう態度をとったのだろう。


「さて、とりあえず今はこの依頼をなんとかしないとね」

「あぁ確かにそうだな」


 ヒカルもそれに同意し、ある程度移動しながらの巡回に切り替えた。

 基本的には入り口前を重点的にみるが、囲いにそって監視も続ける。


 途中フォキュアが休んできてもいいと言ってくれたが、ヒカルは大丈夫と言って一緒に見張りを続けた。


 そして――それから暫く時が過ぎ……


『ヒカル――』

『えぇ先生』


 柵に沿うように巡回していたヒカルだが、何かの気配に気が付き、フォキュアのいる入り口に駆けていく。

 流石に変身した時ほどではないが、それでも先生と簡易的に纏ったウスラゴキブリのおかげか、近づいてきた気配には敏感になっていた。


「フォキュア!」


 ヒカルが駆けつけると、フォキュアは既に剣を抜き臨戦態勢に入っていた。


「数は八体ね。村の人のいっていた通りマガモノで間違いないわ」


 ヒカルはフォキュアの視線の先に顔を向け、自らも相手の姿を確認する。

 ふたりとの距離は凡そ百歩分――そして徒党と組んで向かってきているのは、ヒカルの知る限り狼男という表現がぴったりな相手であり。


「あれは、マガモノのウルフェンね」


 フォキュアが確認するようにそう呟いた――

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