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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第一〇話 夕食での勘違い

 村の護衛の仕事に付く前に、前もって言われていたように村長の計らいでヒカル達は夕食をご馳走になった。

 夕食は村長の家で頂く形となったが、そのときには他の村人も何人か呼ばれていたようであった。

 彼らはフォキュアの事は勇義士であり、仕事でやってきたことはしっていたが、ヒカルとレオニーの事は当然知らないので、ふたりに代わって村長が説明。


 来ていた村人はさきほど扉から出てきた者で、最初は訝しそうにしていたが、話を聞いて納得してくれたようだ。

 そして改めてヒカルからも挨拶し、そのついでにフォキュアの依頼を手伝う旨を告げる。


 それに村長達は大変喜んでいた。


「でも何か申し訳ないですな。依頼料は一人分しかご用意できていないというのに」


「いえ、お気にめさらず。フォキュアとは知らない仲ではないですし、それに泊めて頂きこうやって夕食までご馳走になるわけですから」


 ヒカルがそう伝えると、村長以外の村人も随分と嬉しそうにして、村長と一緒になって食事を勧めてきた。


「いやいや全く。マガモノってのには本当困ってたんだよ。うちの畑も随分とやられてしまったし」


「うちもよう、チキンランが結構狩られそうになって逃げちまったよ。本当参っちまうぜ」


「番として飼っていた狼もどっかいっちまうしな。本当、もう勇義士様だけが頼みだ」


 夕食を頂きながら、村人からそんな話を聞く。

 途中酒を勧められそうになったが、ヒカルはそれを丁重に断った。

 フォキュアもそれは一緒である。


 酒は別に飲めないわけではないのだが、夜の番をする以上を酔っ払うわけにもいかない。


「ところでマガモノは、どんな姿をしていたのですか?」


 ヒカルがふと尋ねると、ピタリと村人の動きが止まり――そしてバツが悪そうにして頬を掻く。


「いや、俺達は直接見たわけじゃないんだ。ただ村の一人は見たみたいでな。二本足であるく不気味なやつだったみたいだ」


「はぁなるほど。でもそれだと賊とかそういったものの可能性もありますかね?」


「いや、それは違うと思うぜ。何せあの足あとは明らかに人間のものとは違ったし。妙な吠える声だけはしっかり聞こえてきてたからな」


 そうなのですか、とヒカルは頷く。二本足で歩き不気味な吠え声、更に家畜を襲ったりするなら、化け物、つまりマガモノを疑っても仕方ないかもしれない。


「まぁその辺の話は予め私も聞いてるけどね。例え盗賊の類だとしても村を襲うなら討伐対象よ」


 フォキュアを一瞥しつつ、それはそうだろうなぁ、と思っていると、ヒカルの裾をくいくいっ、と引っ張る小さな手。


「パパぁ。このお肉美味しい――」


 ヒカルがその手の主であるレオニーに顔を向けると、どこか媚びるような上目遣いで言ってくる。

 その器の中身は既に空であった。

 レオニーがただ料理の感想を言っているわけではないことは、ヒカルにも察することが出来た。


「あの……すみませんレオニーにお代りを頂いても?」


「おお! 勿論だ! 小さい時はたっぷり食べてママに負けない美人さんにならないとな!」


 何か微笑ましい物をみるような笑顔を浮かべ、村の男の一人がレオニーから器を受けとって、そこに料理をよそってくれた。


 ただ――ヒカルとしては一つ気になる言葉があり。


「え~と、あのママってのは?」


「うん? そりゃそこの美人勇義士さんに決まってるだろ。パパっていってんだから当然そっちがママなんだろ?」


「ブフォ!」


 その返答にヒカルが固まり、レオニーとは逆隣に座っていたフォキュアが吹き出して咳き込んだ。


「だ、大丈夫かいフォキュア?」


 思わずヒカルがその背中を擦ってやると、何故か口笛が鳴り出し。


「いやいや仲睦ましい事で本当うらやましいよ。そんなべっぴんでナイスパティの奥さんに可愛い娘さんまでいてなぁ」


 何故か親指を立てていい笑顔を見せる村人。

 だがそこへフォキュアが否を唱える。


「けほっ、けほっ、か、勘違いしないでください! 私達夫婦じゃありません! 村長にもいいましたがただの友達です!」


 そこまではっきり力を込めて言われると、やはりちょっとだけ複雑な気持ちになるヒカルである。


「え? なんだ違うのかい?」

「あぁ私もさっき聞いてはいたがね。ただお似合いにも見えるけどねぇ」


「な、なな! 何を言って!」


 村長の言葉にフォキュアが頬を染め動揺しだす。

 その狐耳もどこか動きに落ち着きがない。


「パパぁ。愛人じゃなくてママになるの~?」


 はむはむと美味しそうに食べていた動きを止めて、小首を傾げながらレオニーが訪ねてくる。

 その姿が思わず愛おしくなるヒカルである。


「レ、レオニーちゃんも! 愛人でもママでもなくて友達だからね! と・も・だ・ち!」


「えぇ~そうなのパパ~?」


「え? あぁうん。そうか、な?」

「そうかな? じゃなくてそうでしょ! なんでそこだけ曖昧なのよ!」

「あ、うんごめん。そう友人」


 そのやり取りを見ていた村人は――何故かニヤニヤしていた。


「いやぁそれにしてもいい食べっぷりだなお嬢ちゃん。どうだいお代わりは?」

「うん! ありがとう~~」


 レオニーが嬉しそうに、にぱぁ~と微笑み器を差し出す。

 その様子に村人もメロメロであった。


「ヒカル……フードだけは気をつけてね」

「うん、判ってる」

 

 ふとフォキュアが耳打ちしてきた言葉にヒカルは顎を引いて応えた。

 現在レオニーは耳を隠すためフードは被りっぱなしである。

 それに関しては村長にも断りを入れてあるが、ただこの世界では、相手が貴族でもない限りそれが失礼という事にはならないようだ。


 しかし、逆にいえば貴族とどうしても顔を合わせる必要があるときは、レオニーのフードを取る必要があるわけで、今後何かしら対策が必要だろう。


『ふむ、それにしてもここのチキンランやスパイラルゴウトの肉は美味しいな。味付けも中々しっかりしている。野菜も新鮮で旨いしな』


『え? 先生味が判るんですか?』

『当然だ。融合したのだから、ヒカルが感じている味は私にも伝わる』

 

 頭のなかでゴッキー先生が舌鼓を打ち、それにヒカルが驚くも、説明を聞き納得。

 ちなみにチキンランというのは、ヒカルが外で見たダチョウと鶏を足したような動物の事であり、スパイラルゴウトは渦を巻くような角を持った山羊のことである。


 扱いとしてはチキンランは鶏の亜種になるらしく、スパイラルゴウトは異世界での山羊の仲間だ。

 これらは一緒に食事をとっている村人が育てているものを、それぞれ持ち寄って料理してくれた形だ。


 チキンランに関しては炙り焼きにし、味付けは塩とあとは村の近くで取れるという玉ねぎが使用されているという。

 これに最初ヒカルは戸惑いを覚えたが、この世界の玉葱は畑で栽培するのではなく、木の実として採取されているようだ。

 

 そしてヒカルの知ってる玉ねぎとは大きさも違い、かなり小さく、基本的には微塵切りにして香辛料として使用されているらしい。


 山羊に関してはどうやら山羊のチーズも作っているようで、固形のチーズに薄切りした山羊の肉を巻いて食べる方式である。


 ちなみに主食はパンであり、畑でとれた野菜を使用したスープとサラダも用意されていた。

 夕食としては中々ボリュームがあるし、それに先生の言うようにどれもとても美味しい。


 口には出さないが、あまり裕福でないと言っていた割に食事には困っていないように思える。

 いや、ここは仕事でやって来た勇義士の英気を養おうと無理してくれている可能性もあるが――


「何か色々振る舞って頂きありがとうございます。とても美味しかったです」

「俺達も何か本当にありがとうございました。いや、それにしてもこんなに沢山の料理を頂けるなんて、突然やってきたというのに何かすみません」

「私もお腹一杯。ありがとうなの!」


 すっかり腹も満たされたところで三人でそれぞれお礼を言う。

 すると村長が笑みを浮かべながら肩を揺らし応える。


「構いませんよ。多少増えてもどうって事はありませんし」


「そうそう。この村は金の面ではあまり余裕はないが、食べ物はこうやって集まって食べることにしてんだ。皆で食べた方が美味いし、それぞれ持ち寄ったほうが結果的に安く済むからな」


「あぁなるほど。うまく考えられているのですね」


 ヒカルは素直に感心した。互いにシェアしあうことで足りない分を補いあうという考え方は理にかなっているようにも思えたからだ。


「じゃあヒカルそろそろ――」

「うん? あぁそうだね」


 フォキュアの目での訴えにヒカルは了承する。

 

「では、これから私達で夜の見張りに立たせていただきますね。村の方はいつもされてるとは思いますが、皆様も戻られてからは戸締まりを忘れず、出来るだけ家からは出ないようにしてください」


 フォキュアの説明にその場の空気が一変。村人たちも帰り支度を整い始め――


「わかりました。何卒宜しくお願い致します」


 そういって村長を含めた全員が頭を下げた。

 ヒカルは、ここまでして貰った以上、なんとしても村を守り、荒らしに来るというマガモノを退治しなければ、と改めて気合を入れ直すのだった――

 

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