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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第九話 一宿一飯

 ヒカルがレオニーの事について、フォキュアから詰問されていると、二階建ての家屋からぞろぞろと男女入り混じって出てきた。

 雰囲気的にはこの村の人間のようで、ヒカルをちらりちらりと訝しげにみやりながらも、それぞれ家屋のある方向へと去っていった。

 そして最後に出てきた老齢の男が、

「あのぅ、フォキュア様その方は?」

と彼女の背中に疑問を投げかけた。


「あ、村長」


 それにフォキュアが振り返り、この老人に応対する。

 フォキュアの反応から、この老齢の男性が、この村の代表であることは間違いない。

 年齢は六〇そこそこといったところか。色の抜けた白髪を後ろに撫で付け、余剰分の髪は紐で括り総髪にしてある。


 面長の顔立ちで、ハの字型だが豊かな口ひげ、真ん丸な瞳は人当たりが柔らかそうな印象。


 内着とズボンは麻製で、染色はされていない。内着の上からは袖のない上着を羽織っており、こちらは綿が詰まっているのか膨らみがある。


 そんな村長にフォキュアはヒカルについて説明する。


「彼はヒカルといって、私と同じ勇義士のただの『トモダチ』で、いま偶然出会ったところなんです」


 友達という部分を強調しているあたり、先ほどのレオニーの発言をまだ根に持っているのかもしれない。

 何せ、まだレオニーの事は説明できていないのだ。

 どう説明しようかという問題もあったりもするが、なんとも邪険な扱いに、思わず溜め息が溢れるヒカルでもある。


『そこまで気を落とすこともないだろう。この反応は寧ろいい傾向だと思うぞ。どうでもいい相手にはこんな態度はとらないだろうしな』

『え? そ、そうかな……』

『うむ、そのうちちょっと他の雌と会話してるだけで、殴り飛ばされるようになれば完璧だな』

『いや、そえはちょっと――』


 暴力系ヒロインは勘弁願いたいヒカルである。


「ほぅ勇義士……ということは、貴方もこの村の依頼をみて来てくださったのですかな?」


 貴方も、という事はフォキュアはどうやらこの村の依頼の為に来ているようだ。

 

「いえ、俺は別の依頼で動いていたのですが、実はそれで随分チャンバーネの街から離れてしまって、なので、この村で宿でもと思い立ち寄らせてもらったのですが……」

「あぁなるほど、そういう事でしたか。いやおかしいと思いました。依頼料は一人分しか用意していなかったので」


 村長は頬を掻きながらも、得心がいったという表情で語る。


「ヒカルの依頼って?」


「あぁ、グレイルウルフの駆除だよ」

「グレイル……あぁ開放依頼として下げてあった依頼ね。それで森に……て、事は――」


 フォキュアがレオニーに目を向けた。

 その森で何かあったのだろうと考えているのかもしれない。

 少なくとも今日の朝までは当然レオニーは一緒ではなかったわけで、そう思うのも当然と言えるか。


「ねぇパパ、愛人さんが何かみてるよ~」


「へ? パパ? 愛人?」


 村長が目を丸くさせて、レオニーと俺を交互に見て、更にフォキュアも見る。

 それにフォキュアは、ぎこちない笑みを貼りつかせ。


「この子冗談が好きみたいなんです。さっきもいいましたが、私はただのと・も・だ・ち、なんで」

「は、はぁ……」


 色んな意味で、この村に来たのは失敗だったかもしれないと後悔し始めるヒカルであり、顔中からだらだらと汗が滴り落ちてきている。


「しかし話はわかりました。この村には宿というものはございませんが、空き家は一つございます。それで宜しければどうぞご自由にお使いください」


 そういって村長は空き家の場所を指で示してくれた。

 小さな村なので場所はすぐに判った。


「それで代金の方はどれぐらい――」

「いえいえ、今は使用されていない掘っ立て小屋のような粗末な場所です。料金など頂くわけにはいきませんよ。気にせずお使いになってください。それと食事の方はフォキュア様とご一緒で宜しければ、どうぞお召し上がりください」


 村長は見た目通りいい人だったようだ。 

 宿があったならともかく、この流れで食事まで頂ける話になるとは思わなかったので、しっかりとお礼を述べる。

 

 その後村長は、どうぞお気にせず、と口にし、フォキュアには、

「では今晩の依頼の方はどうぞ宜しくお願い致します」

と告げ家の中へと戻っていった。


「さてっと、村長との話も落ち着いたし……今度こそ話を聞かせてもらおうかしら」


 豊かな胸を持ち上げるように腕を組み、フォキュアが言う。

 それに苦笑しつつも、ここまできたら隠しておいても仕方ないかとと考え、フォキュアに説明するため、一旦村長の教えてくれた空き家に向かった。






 村長のいうように、寝床として許可されたのは確かに小屋であり、非常に狭い作りであった。

 一応屋根はついてはいるが、換気のために設けられている正方形の穴には特に戸もガラスも設置されていない。

 尤もこの当たりは温暖なので、閉めきっているよりは心地よいことだろう。

 

 地面はむき出しであったが、近くには藁が積んであったので、これを敷けば寝るには事足りる。

 贅沢はいっていられないなと思いつつ、レオニーの様子を気にするが、特に不満を漏らすこともない。

 

 そしてひと通り小屋の中を確認(といっても狭いので一瞬で終わったが)後、ヒカルはフォキュアにこれまでの経緯を説明した。


「ふ~ん……なるほどね――」


 話を聞き終えたフォキュアは、憐憫な眼差しをレオニーに向ける。


「まだ小さいのに……レオニーちゃんも大変ね」


「う~ん、でも大丈夫だよ! 私にはパパがいるもん!」


 声を上げレオニーはヒカルにぎゅ~っと抱きついた。

 甘えられてヒカルも悪い気はせず、思わず頭を撫でると、レオニーは気持ちよさそうに目を細める。


 そんなヒカルに――フォキュアはジトーっとした目を向けており、それに気がついたヒカルは撫でる手を止め、若干たじろぐ。


「え、え~とフォキュアさ、ん?」


「ヒカル本気なの?」


 今度は真剣な目つきで訊いてきた。

 勿論この本気なのというのは、レオニーを本気で引き取る気なのか? という事だろう。


「ヒカル、子育てなんて簡単な事じゃないのよ? もし一時的な感情で考えているだけなら――もっと別な方法を模索した方がいいんじゃないかなと私は思うけど」


 ヒカルの気持ちを探るように見据えながら、フォキュアが苦言を呈してくる。

 確かにフォキュアのいっていることは尤もな意見であり、それに彼女はヒカルの為にも、レオニーの為にも、もっとじっくり考えたほうがいいのでは? と意見してくれているのだろう。


 だが――


「……フォキュアの言っている事も判る。でも、放っておけないんだ俺。それに母親ともしっかり約束したし、レオニーとも絶対に離れないって約束もした。勿論俺だって約束したからそれで――というわけじゃない。俺はレオニーを守りたいし、一緒にいたいと思っている気持ちも本物だ」


 ヒカルの気持ちは本心だ。本気でレオニーと共にいたいと思っている。

 その気持を素直にフォキュアにぶつけた。


「……ヒカル、一応聞くんだけど――幼い子が趣味とかそういう事じゃないわよね?」

「違うし! てかフォキュアまで先生みたいな事を!」


 先生? と首を傾げるフォキュアに、しまった! と口をふさぎつつ、あ、いや昔そんな事を先生が、と誤魔化したが、それで更に疑いの目を向けられてしまうヒカルである。


『ヒカル……いや、いい』

『途中で止めないで! なんか凄く傷つく!』


「……まぁそういう趣味がないのは良かったけど。でも、ヒカルもさっきの様子だと知っていると思うけど、レオニーちゃんは金獅族……それが露見したら」


「も、勿論それは判ってるさ。だからそれも見つからないようにしっかりと」

「いや、思いっきり私に見つかってるじゃない」


 うぐぅ! とヒカルは自分の胸を押さえ身悶えた。


「……ふぅ、全く仕方ないわね。もう私も事情は知ってしまったし、こうなったら出来るだけ協力するわよ」


 え? と目を丸くさせるヒカルに、にこりと微笑みつつ、フォキュアはレオニーに近づき腰を屈めて頭を撫でる。


「改めて宜しくねレオニーちゃん。私は黄狐族のフォキュア。何かあったら私も頼ってくれていいからね」

「……愛人さんを?」

「いや、だから違うっての」


 可愛らしく小首を傾げ尋ねるレオニーに、フォキュアが苦笑しつつ突っ込んだ。

 

 フォキュアが協力してくれるのは嬉しいヒカルだが、色々不安でもある。


「ところでフォキュア、君が請けた依頼っていうのは?」


 話の区切りがついたところで、ヒカルは気になっていた事を質問する事にした。


「あぁ、うん。実はこの村に、夜な夜なマガモノが現れては、畑を荒らしたり家畜を襲ったりしているようでね」


「え? マガモノが? あ、それで家畜が少ない気がしたのか」


「そうそう。それでね、今はまだ村の人達も夜は家に篭って出ないようにしてやり過ごしているみたいなんだけど、そのうち人を襲う可能性もあるし、それに家畜と畑の事も痛手だから、夜の番を任されたってわけ。ついでにマガモノの発生源も突き止めて欲しいって感じでね」


 なるほどね、とヒカルは頷き。


「それで、フォキュアが請けてここまで脚を運んだってわけだ」


「うん。私も武器の手入れが終わった後は時間もあいてたしね。それに……この依頼本来は割が悪くて他に請けそうな人もいなかったのよ。さっきも言っていたと思うけど、あまり余裕がないみたいで依頼料がね……」


 ヒカルはさっきの村長の言葉を思い出す。確かに一人分の依頼料しか用意していないと口にしていた。


「ふ~ん、そっか。うん判った、だったら俺も協力するよ。寝床を用意してもらって食事までご馳走になるというのに、何もしないわけにもいかないしな」


「え? でも……」

「依頼料の事は気にしなくても大丈夫。ただでさえ俺はフォキュアに沢山借りがあるしな。ここで少しは返させてくれよ」


 ヒカルの言葉に、フォキュアは一瞬目を丸くさせるも、くすっ、と笑い。


「そう、じゃあお願いしようかな」


 こうしてひょんな事から、ヒカルはフォキュアと夜の番を引き受けることとなるのだった――

 


 


 

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