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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第七話 幼女との帰り道

 レオニーが落ち着いたところで、ヒカルは彼女と街に向かうため森の出口を目指した。 

 出口と言ってもヒカルのいた世界とは違い、森のなかに道が走っているわけでもないので、ある程度は記憶を頼りに抜け道を探すことになる。


「結構歩くことになると思うけど大丈夫かな?」


 ヒカルはレオニーの小さな手を取り、暫く森のなかを進んだ後、彼女にそう問いかけた。

 獣人の体力というのがどの程度かは判らないが、レオニーはまだまだ小さい。

 人より体力が優れているとしても、平均の子供より上程度で、そこまで高いということもないだろう。


「うん! 私は大丈夫だよ!」


 レオニーが笑顔を迸らせた。友達と言ったことが効いたのか、今は随分と明るくヒカルに気兼ねなく接してくれている。

 子供故の順応力なのかもしれない。


「そう、でも無理はしなくていいからね。疲れたらちょっとは休んでも平気だら」


「ありがとうヒカルお兄ちゃん。でも大丈夫だよ」


 強がりではなさそうだな――そう思いつつヒカルは更に歩みを続ける。

 ちなみに互いの名前は既に教え合っていた。

 レオニーに関してはレオニー・ライアンがフルネームである。


 森を進み続ける二人。位置的にはそれほど奥まった場所ではないので、森を出るのにそこまでは掛からないかと思うが、整地された道路ではなくこの辺りは凹凸も激しい。

 

 木の根が所々飛び出したりもしていて決して歩きやすいわけでもなく、草木の密も濃いので、それほど平原部と離れていないとはいえ、油断すると迷ってしまう可能性もある。

 おまけにマガモノの存在もあるから油断は出来ない。


 マガモノ自体は、このあたりにはそれほど凶暴なものはいないものの、レオニーが一緒である以上出来れば遭遇は避けたいところだ。


 そんな事を思いながら、ヒカルはレオニーの手を取り森のなかを歩き続ける。

 幸いこれといった敵の姿もなく、段々と木々の間隔も開いていき、地面も平坦さを帯びてきていた。


 視界も広がってきているため、このまま進めば程なくして森を抜けられるだろう。

 ヒカルはレオニーに声をかけようとその顔をみやるが――


「……ヒカルお兄ちゃん。何かいる」


 え? とヒカルが首を巡らせた。ゴキブリを服の下に纏わせている状態では、触覚の力は働かない為、今のヒカルでは微かな気配や匂いにまで気がつくことは出来ない。

 

 しかしレオニーは獣人だ、故に嗅覚や聴覚は人よりも遥かに優れている。

 だからこそ気がついたのだろう。


 ガサガサ――


 すると向かって正面、右側の藪が揺れ動き、中からグレイルウルフが五匹飛び出し行く手を阻いた。


 更に後方からも五匹、左右からも五匹ずつ。

 ヒカルは合計二〇匹のグレイルウルフに完全に囲まれてしまった状態だ。


『この群れ――完全にヒカルを狙って集まったって感じだな』

『でも先生! 俺は全て残らず殲滅してますよ』

『見えてる範囲では確かにな。だが群れとは別に様子を伺っていたのもいたんだろう。変身してなければヒカルはそこまで気がつけないだろうしな』


 そんな事が――とヒカルは顔を歪ませた。

 グレイルウルフは基本的に群れで行動するタイプだ。

 だが中には、単独で行動して相手の様子を探るような知恵を持ったタイプもいるらしい。


 連中からしてみれば仲間をやられた復讐といったところか――と、ヒカルは緊張した面持ちで連中を見回した。


 奴らの目はヒカルと――そしてレオニーに向けられており、レオニーを視ている中にはだらだらと涎を下草に染み込ませているのもいた。

 どうやら復讐というだけではなく、いい餌を見つけたという思いもあるようだ。


「レオニー……俺から離れるなよ。大丈夫俺が絶対に守って――」


「グォオオオォオオオオオン!」


 突然の咆哮に、ヒカルは目を丸くさせた。発生源はグレイルウルフではない。

 むしろもっと近く、鼓膜をビリビリと揺らしたのは――レオニーの咆哮だった。


 そしてその声にグレイルウルフが固まった。

 それは一瞬の間だったが、今のヒカルにとっては機先を制するに絶好の隙であった。


 ヒカルはレオニーを脇に抱えると、瞬時に間合いを詰め、アイオスサーベルで前方のマガモノの壁を一気に砕いた。


 一閃二閃と繰り返し、一撃必殺の攻撃で確実に仕留めていく。


 だが、前方の五匹を片付けた時点で、他のグレイルウルフが我に返り、一斉に牙をむき出しにして、二人に向けて猛進してくる。

 

 だがヒカルは――踵を返し敵に背を向け駆け出した。


「え!? お兄ちゃん逃げちゃうの!?」


 脇に抱えているレオニーが、妙に不満げに声を上げた。

 その反応を意外に思いつつ、いや、と返し。


「これも作戦さ」


 そう続けて、追ってくるマガモノを一顧した。

 やはり全てが同じ速度で追ってくる事はない。

 同じ種類とはいえ個体差は当然あり――集団の中から抜き出した数体があえて速度を落としているヒカルの背中に食らい付こうと迫る。


 そこでヒカルは反転し、迫るグレイルウルフにカウンターで斬り返し――五匹打ち倒して続けて迫った第二勢も次々と斬り裂いた。


「お兄ちゃん凄い! 強い!」


 腕の中でレオニーが嬉しそうに言う。ヒカルにとっては全く怖がっている様子がないのがやはり意外だった。


 この状況、普通の子供ならば震え上がって泣き出してもおかしくなさそうなものだが――


「お兄ちゃん! 私も狩る!」

「へ?」


 思わず間の抜けた声で返すヒカルだが、するりとレオニーが腕から抜け出し、かと思えば向かってきた何匹かのグレイルウルフ相手に腕を振るう。


 あんな小さな身体で無茶だ! と慌てるヒカルであったが、良く見ると腕の部分だけが黄金の獅子の腕に変化し、そして短いながらも鋭い爪が伸びていた。


 変化した爪でレオニーに引っ掻かれたマガモノは、それだけでは死にこそしなかったが、悲鳴を上げて飛び退き、レオニーとの距離を置く。

 

 レオニーはレオニーでガルルッと唸り、正に獣の如き姿勢を見せるが――


「バカッ! 危ないだろうが!」


 叱咤するように声を上げ、ヒカルがレオニーとグレイルウルフとの間に入り、そしてレオニーに引っ掻かれたマガモノに止めを刺した。


 そこから更に前に出て、残りのグレイルウルフも手際よく斬り捨てていく。

 この時のヒカルは、レオニーに被害が及ばないことと、彼女が無茶をしないようにということで頭が一杯だった。


 ふぅ、と片が付くなり額を拭い、レオニーに近づいていき、その低い目線に合わせるようにヒカルは屈みこんだ。


 レオニーはヒカルが怒鳴ってからきょとんとした様子で動きがない。


「レオニーなんであんな無茶をしたんだ!」

 

 ヒカルは少し強い口調で詰問した。彼からしたらレオニーはまだまだ幼い子供である。

 彼女の発した咆哮には助かったが、勝手にグレイルウルフに向かっていっていったことは見過ごすわけにはいかなかった。

 彼女の親に頼まれたという事もあるし、何かあってからでは遅いのだから。


「……でも狩りはママからならっていたし――」


 ヒカルが怒っているようだと察したからか、レオニーは瞳を伏せ、表情に影を落としながら恐る恐るといった様子で応えた。


「ママは、まだ小さなレオニーに狼の狩りもやらせたのかい?」


 レオニーはふるふると首を横に振って、蚊の鳴くような声で、兎とかだけど――と口にする。


「そうだよね。確かにレオニーのその攻撃で一瞬怯みはしたけど、グレイルウルフはそれでも諦めてはいなかった。確かにレオニーが叫んでくれたおかげで最悪の状況からは抜け出せた。それは感謝している。でもそれが強さに直結しているわけじゃない。レオニーはまだまだ幼い。マガモノ相手でも戦えるなんてそんな軽く考えたら駄目だ。もしそれで怪我でも、いやもっと大変な目にあったら――俺は悲しい」


「お兄ちゃん……」


 ヒカルが心底哀しそうな表情を見せると、レオニーも眉を落として申し訳無さそうな顔に。


「レオニー……俺がレオニーに離れないって約束したように、レオニーも無茶はしないって約束してくれると嬉しいな」


「……うん約束する。ごめんなさいお兄ちゃん」


「……うん、わかればいいんだ」


 ヒカルがそういって微笑むと、ぱたぱたとレオニーが駆け寄り、ぎゅっとヒカルに抱きついてきた。

 ヒカルはその背中をぽんぽんっと叩いてあげる。


「でも怪我がなくてよかったよ」


 レオニーから顔を離し、頭を撫でながらそう告げると、レオニーが気持ちよさそうに頬を緩ませた。どうやら頭をなでられるのが好きらしい。


 その愛らしさに和みつつも、一旦立ち上がり、ヒカルは倒したグレイルウルフの毛皮を剥いで回った。


 その様子をじっと見ていたレオニーだったが、肉はいいの? と訪ねてきたりもした。


 どうやらグレイルウルフを食べ物としても認識しているらしい。

 なのではっきりと、マガモノの肉はそのままじゃマズイと教えて上げた。

 

 まさか生で食べるとは思わないが、一応そんな事がないようにと思ってのことだ。


 毛皮を魔晶に取り込み(ちなみにこの魔晶についても不思議そうに見ていた)それから少し歩くと森の切れ目に辿り着き、無事平原に抜け出ることが出来た。


 ただ、抜け出たのはどうも森の南西側だったようで、東のチャンバーネの街までは結構な距離がありそうだ。

 グレイルウルフを探しまわるために結構な距離を歩いていたらしい。

 何せこの森は広い。端から端まで数十キロぐらいは軽くありそうなほどだ。


 ヒカル一人であれば、ゴキブリの力でかなり速い移動が可能だが、レオニーが一緒のためそうもいかない。

 ヒカルとしても、まさかこんな形で仲間が一人増えることになるとは思っていなかったので、最初は位置など気にせず飛ばしていたのだが、それが裏目に出た形だ。

 尤もそれがあったからこそ、レオニーを助けることが出来たのだが。


 ふとヒカルは空を見上げる。もうすぐ紅く滲んできそうだ。門が閉まるまでに辿り着けるだろうかとちょっと心配になりながらも、レオニーの調子を確認するが……ぐ~とお腹がなっていた。

 どうやら体力的な心配より空腹の方が大きそうである。


『先生、こっから街に戻るまでの間に休めそうなところってありますか?』


 仕方がないのでヒカルは先生を頼ることにしたが――


『街道沿いに歩いて行くと川が見えてくると思う。その川にそって南下すれば小さな村があるな』


 困ったときの先生頼みであり、予想通り頼りになった。

 ヒカルはレオニーに、あと少し頑張ろう、と告げ、とりあえずはその村に向かうことにした――

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