表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
40/59

第三話 試行錯誤

 ヒカルはチャンバーネを出た後、件の森へとやってきた。

 街で請けた討伐依頼をこなすため、というのが一応の名目ではあるが、一人で来たのは別の目的もあったからだ。


 そして今、彼は意識を集中させ、身体をゴキブリに纏わせる。

 但しこれまでのクロガネゴキブリとは異なり、今ヒカルが集めたのは別種のウスラゴキブリだ。

 見た目としてはヒカルのいた世界のチャバネゴキブリに似たタイプなゴキブリである。


 そして無事装着が完了すると、クロガネの時と同じように触覚で周囲の状況を探れるようになった。

 この力のおかげで、ヒカルは自分自身の姿も客観的に知ることが出来る。


(見た目は結構異なるな……)


 それが今の自分の姿を感じ取ったヒカルの感想だ。

 クロガネゴキブリ形態の時は、全体的にガッチリとしたマッチョ系に近い体付きになったのに対し、このウスラゴキブリ元々がクロガネより小さく平たい扁平形の為、纏っても生地の薄い肌着を身につけたような程度でしかなく、本来のヒカルのフォルムはほぼ維持している。


 違う点といえば、全身が当然赤茶色の肌に代わり、見ようによっては筋肉むき出しみたいな状態になっているところか。


 そして勿論その顔は、クロガネゴキブリ形態に比べるとほっそりしてるものの、相貌は昆虫系のソレである。


『ウスラゴキブリはクロガネゴキブリより動きは敏捷。体長の六〇倍ぐらいの速度で動ける。まぁ速さよりも敏捷性に注目したいところだとは思うけどな。但しクロガネタイプに比べると装甲は薄い。尾覚の自動回避の性能は上がっているが、斬られたり突かれたりといった攻撃には特に脆いから注意が必要だ。但しその靭やかさ故打撃に関してはクッションとなって衝撃を和らげる事もできるけどな』


「なるほど……ゴキブリによっても色々と異なるんだな」


 顎をさすりながら先生の言葉に軽く頷く。

 そして次にヒカルはこの形態の活用方法を考え……そして一つ思いついた。


 だが、それを試す前に一つ考えておきたいこともある。


(この状態で使いやすい武器はなんだろうか……)


 そう武器の生成だ。ヒカルはゴキブリにイメージを伝えることで、身体の形状を武器に変化させる事が可能だ。


 クロガネゴキブリでは、ヒカルはまず太刀をイメージし、腕を大太刀に近い厳かな刀に変化させた。

 そして例のハーデル戦においては、現代知識を頼りに銃をイメージし、見事それに近い、いや、ヘタしたらヒカルの知っている銃よりもはるかに強力な物を創りだす事に成功した。


 だが、これらの武器はクロガネゴキブリの形態では効果を発揮するが、このウスラゴキブリ形態では少々厳しい。


 何故なら、太刀にするにしてもこのウスラゴキブリはそれほど強固ではなく、切れ味が落ちるのは明確であるし、銃形態にしてもウスラゴキブリの形では弾丸にする事ができない。


 その為ヒカルは、この形態で使える別の武器を考える必要があるな、と頭を悩ませる。

 そして暫く至高をめぐらした後、一つ思いつく。


『何か閃いたようだな』


 ヒカルにこの力を授けたゴッキー先生は、細長い緑色の宝石のような形態をしていて、普段はヒカルの身体のどこかに身を潜めている。

 

 そしてこのゴッキー先生とヒカルが融合した事により、ヒカルはゴキブリを操る力を身につけたが、代わりにゴッキー先生はヒカルの思考を自由に探ることが出来る。


 一応ヒカルが秘密にしたいことは探らないよう自重してくれているらしいが、わりとヒカルの思考は先生に筒抜けであり、だからこそヒカルが今何かを閃いたことを察することが出来たのである。

 

「多分これだと創れそうな気がするんです」


 ヒカルは脳内でも先生との会話は可能なのだが、特に誰もいない状況においては、普通に喋って対応してしまう。

 そんなところを、もし誰かに見られていたら独り言を繰り返す怪しい男に思われるだろうが。


 さて、と呟きヒカルはとりあえず右腕に集中するようにし、そのイメージを固めた。

 するとヒカルの思考を察したのか、右腕のウスラゴキブリ達が蠢きだし、そして何千というゴキブリ達がヒカルのイメージを元についに顕現する。


 それは腕の先からしゅるりと伸びた、二メートル程の長さの赤茶色の紐状の武器だ。

 

 そう、今ヒカルがイメージしたのは鞭。

 ウスラゴキブリの柔軟性と、胴体の靭やかさを活かし鞭を創りあげたのである。

 

 ヒカルはそれを掲げ感覚で形状を確かめる。先端に近くなるほど細くなる形状に満足気に頷く。

 見事ヒカルのイメージ通りの物が出来上がった。

 

 それを、ヒカルは試しに振ってみる。鞭はヒカルの腕の動きに合わせしなり、そしてスパァーン! と耳心地の良い破裂音を奏でた。


 鞭の速度が音速を超えた為に発生したものである。

 更に数度ヒカルは振るうが、同じように快音をならし、思ったよりも自由に扱うことが出来た。

 しかも伸縮自在であるため、必要に応じて長さは変えられるし、腕から伸びる本数を増やしたりも可能であった。


 勿論片腕だけでなく、両腕の鞭化も可能である。

 そして、更にヒカルはこの鞭を活用するため、一本の幹から伸びる枝に鞭を巻きつけ、そこから長さを調整してみる。

 まるでリールに巻かれているかのようにヒカルの身体が浮き上がり、それが少し楽しかった。

 

 そのままヒカルは別の枝に鞭を巻きつけ、幹を蹴り、振り子のように移動して別の枝に鞭を巻き付ける。

 これを交互に繰り返すと気分はまるでターザンであった。


 正直かなり気持ちがよい。

 

「これは思った以上に使えそうだな」


 ヒカルは地面に着地し、その感想を述べる。

 そして今度はゴキブリを使った別の実験を試みた。


 それはウスラゴキブリとクロガネゴキブリの二重装着である。

 ようは内側にウスラゴキブリを纏い、外側にクロガネゴキブリを纏わせようというのである。


 もしこれが上手く行けば、クロガネの厚い装甲とウスラの柔軟性と靭やかさを併せ持った強靭な戦士に変身できる事になる。


 そして、ヒカルがイメージすると二種類のゴキブリが集まりだし、その想像どおりまず内側にウスラ、そして外側にクロガネがヒカルの身体に纏われていく。


『中々面白いことを考えたなヒカル』


 先生は純粋に感心の声を届ける。

 

 ヒカルが感覚で自分の姿を確認した時、イメージ通りの姿がそこにあった。

 と言っても、ようは重ね着なので見た目にはヒカルが最初に変身したクロガネゴキブリの装着時と変わらない。


 だが、走り、飛び、そして右手に大太刀の蜚丸、左手に新しく考えた鞭と変化させたことで、これまでとの違いが如実に現れた。


 今までと比べると俊敏さでも大きな違いがある。これまでも、ゴキブリの恩恵で瞬間的に時速三二四キロという速さでのダッシュが可能であったが、ウスラゴキブリの効果もあり、その速度は時速三八八キロ、秒速一〇八メートルで動き回れるようになっているのだ。


 その上、これまではその動きはどこか直線的だったのに対し、ウスラゴキブリの靭やかさで曲線的な動きも可能となった。 

 高速で自由自在に動き回れる様は、中々に気持ちいい。


「さて……」


 一旦動きを止め、一つ呟いたヒカルは、そこで一旦クロガネゴキブリを外し、ウスラゴキブリだけの形態に戻した。


『また何か思いついたのかヒカル?』


「えぇ見てて下さい」


 ヒカルは先生にそう応え、今度はウスラゴキブリも開放しヒカルが元の姿に戻る。


 だが――


『ふむ、なるほどこれは――』


「あ、流石先生気が付きました?」


 ヒカルは悪戯っ子のような笑みを浮かべた後、せ~の! と発しその場で一つジャンプしてみせた。

 

 するとヒカルの身体が五メートルほど飛び上がり、そして着地した。

 これがゴキブリを纏った状態ならなんて事はない芸当だが、今のヒカルで考えたら相当凄い。


『部分的にゴキブリを装着するとは考えたなヒカル』


 先生の声が頭に響き、へへっ、と少し得意気に笑う。


 そう、ヒカルは新しく手にしたウスラゴキブリの身体が、小さくとても扁平であるという利点を活かし、今装備しているあるアルラウチュニックやズボンの下にウスラゴキブリを纏わせたのである。


 これがもしクロガネゴキブリであったならその形状から違和感があったであろうが、ウスラゴキブリであれはそれがない。

 見た目にはこれまでのヒカルとなんら変わらないからである。


 しかし、この状態になることで完全ではないまでもゴキブリ能力の恩恵をうける事が出来る。

 例えば今のジャンプ力もそうであるし、動きにしても競走馬程度の速度でなら走り回ることも出来る。


 但し部分着装では、触覚が無いため頼りは当然自分の目と耳である。 

 その為素早い動きは可能だが、あまりに人外な動きは流石に難しい。

 

 また自動防御にしても防具やズボンの下に纏わせているため、今の状態では効果は薄い。

 ただし衝撃に強いという利点は残されているし、完全に変身した状態ほどではないにしても、身体能力が数段上がっているのも確かである。


「さて先生。折角なんで今回の討伐依頼はこの姿でやってみようと思います」


『確か、最近数が増え、森の外に出てくることが多くなったグレイルウルフの駆除だったか?』


 ヒカルは、はい、と応えると、その脚でグレイルウルフを探し森のなかを探索し始める。

 まぁとはいっても、先ほどの変身時に触覚の効果で大体の位置はつかめている。


 ヒカルはその場所に向けてただ歩いているだけではあるが――





「キャイン!」


 ヒカルの鞭がグレイルウルフの胴体に振るわれ、灰色の狼が悲鳴を上げる。


 今のヒカルはその姿こそ人間のままであったが、腕は鞭形態に変化していた。

 ヒカルは折角なので部分着装で武器化は可能だろうか? と試し、そして実現した次第である。


 ただ腕がそのまま鞭と化している状態の為、今はまだいいが、人目に付くところでは流石に使えない形態であるが。


(それにしても……)


 ヒカルは更に数度鞭を振るい、グレイルウルフの集団を退けていくが――倒すことは出来ない。

 ある程度予想はついていたが、鞭そのものの殺傷力は決して高くはない。

 一撃の下に敵を葬りさるような代物でもないので、これだけで討伐を完了するのは不可能である。


 ただ、鞭にはそれ以外の用途として役立つ事はあった。

 まず鞭で打たれた相手はその瞬間には動きを止める。

 音速を超える鞭の一撃は、当たれば電撃が走ったような衝撃を相手に与える。

 それを喰らって平然と立っていられるものなどそうはいない。


 更に――ヒカルは一匹のグレイルウルフに鞭を絡ませ巻きつけた。

 そしてそのまま鞭を振り回し、反対側のグレイルウルフに巻きつけたマガモノを叩きつける。


 同時に鞭を解く事で二匹一緒に吹き飛び地面を転がった。


 鞭はこういった絡めるといった使い方にも優れており、上手く使えば相手の動きを封じ込めるのにも役に立つ。

 

「さてと……」


 ヒカルはそこまで試すと腕の鞭状態を解き、元の腕に戻し、そして腰のアイオスサーベルに手を掛けた。

 本来の討伐依頼を完遂させるために――

気に入って頂けたならブクマや感想、評価などをして頂けると嬉しく思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ