第二〇話 大金星
どうやらヒカルが倒したハーデルは貴族の令嬢を殺した犯人だったようだ。
ハーデルが冒険者をその手にかけ、能力を奪っていたのは彼自身の話から判っていたが、その冒険者の一人が子爵家の娘であり、もう一人は彼女の恋人だったらしい。
つまり期せずして、サルーサは貴族の令嬢を殺した相手を討ち取るという大金星を上げたことになるのだが――
「言っておくが私はこのような勇義士風情がこの事件を解決したとは信じていないからな!」
突如ガラムドが偉い剣幕で怒鳴りだす。
この男はデボラ領を守る騎士らしいが、それだけにプライドが高そうだ。
「しかしガラムド殿、実際武器の破片から殺された二人の勇義士の痕跡は残ってますしね。あの場にいたハーデルがその犯人なのは間違いがないかと」
「だが、その武器は呪いの魔器だったと聞く。このような男がそんな武器を持った男を相手にして勝てるとはとても思えん!」
ガラムド目の前のテーブルを拳で激しく打ち鳴らした。
とにかく苛立ちを抑えきれないといった感じである。
「てか、あの男の武器って呪いの武器だったんだ……サルーサは当然知ってたのよね?」
「ん? あぁ、当然だろ俺が倒したんだからな」
ヒカルからしてみればあまりに白々しい発言なのだが、サルーサはかなり堂々としていて戸惑いの色が一切見られない。
普通はもう少し動揺しても良さそうなものだが――
『この状況で全く動じないのは逆に凄いともいえるかもな。その精神のタフさだけは見習ってもいいかもしれないぞ』
先生の発言にヒカルは思わず苦笑いを浮かべる。
「とにかくおっさん、因縁つけるのはいいけどな。あの場には俺しかいなかった上、死体は転がってたんだ。それなのに俺以外の誰がやったっていうんだ? 説明できるのかよ?」
「おっさ――くっ! 口の聞き方もわからん猿が生意気に! いいか! 現場検証は我らデボラ領を守りし騎士団で行う! それでかならず貴様の詐欺行為を暴いてくれる! ガライそれでいいな!」
ガラムドは蹶然し、サルーサを見下ろしながら怒りの形相で捲し立てる。
だが、当のサルーサは耳の穴を穿り目も合わせようとしない。
「騎士団の方でそれをやって頂けるというなら僕は構いませんよ。どっちにしろうちで動くとしたら報酬が絡んできますしね」
「ふん! 浅ましい勇義士らしい考え方だな!」
「ははっ、まぁこちらも慈善事業ではないですからね」
「ちっ! いいか貴様の嘘は必ず暴いてみせるからな!」
そう言い残すとガラムドは鼻息荒くさせながら、支部長室を後にした。
叩きつけるようにして閉められたドアをみるに相当お冠のようである。
「なんだあのおっさん。騎士だかなんだか知らねぇが偉そうに」
「サルーサも口の聞き方がすぎるわよ。あれじゃあ喧嘩売ってるようなものじゃない」
「馬鹿言うな、先に喧嘩を売ってきてるのは向こうだろ!」
サルーサは両手を大きく左右に広げ、不快そうに眉間に皺を寄せた。
「あの、結局あのガラムドという騎士は何をしに?」
その姿を横目にしながら、ヒカルはなんとなく気になったことをガライに尋ねる。
「うん。まぁ見ての通りでね。彼らは僕達みたいな勇義士をあまり快く思ってないんだ。それで今回の事件も勇義士の手で解決されたというのがどうしても納得出来ないようでね。その連中に会わせろ! て煩かったんだよ。だから君たちにも報告の必要もあったし、直接会って話でもしてくれれば納得してくれるかなと思ったんだけどね」
「……なんか今の雰囲気見ると逆効果ぽかったですけどね――」
フォキュアが半眼で白けた調子で口にする。
「まぁガラムドはこの事件を解決できれば大金星だと息巻いていたらしいからね。それを逆に勇義士に取られてしまって悔しいんだと思うよ」
ガライはそういってケラケラと笑った。支部長としては騎士団に目をつけられるのは厄介そうにも思えるが、あまり気にしてる様子はない。
「それで俺たちへの要件ってのは他に何かあるのかい?」
「いや、さっき話したことで大体終わりかな。まぁメインはしつこいガラムドに会わせる為だから」
「なんか上手くだしに使われたみたいで腹立つな:
「まぁまぁそれぐらいは勇義士として我慢してよ。あぁそれと呪いの魔器を壊したという事でその報酬と、後は子爵家令嬢の犯人を見つけたという事でクリステル子爵家からもお礼が出ていてね。その分も一緒に報酬として出るから受け取っていくといいよ」
おお! マジか! とサルーサは随分と喜んでるようだ。
ヒカルからしたら面白くもない話ではあるが。
それからは最近の近況報告とヒカルについて少し話し、それから三人は支部長室を後にしようとしたが――
「ところでサルーサ。一応確認なんだけどね……間違いなく君がやったんだよね?」
ガライはレンズの奥の瞳を光らせ、確認するようにサルーサに尋ねる。
するとサルーサはガライを振り返り、あったりめぇだろ、と笑顔で返した。
淀みの全くない自分がやったと言わんばかりの台詞。
「……うん、まぁ君が嘘をいうわけがないか」
それにガライも笑顔で見送ってくれた。
彼の嘘を知っているのは今はヒカルだけである。
「はいこちらがサルーサさんの報酬ですね」
下に降りてからはカウンターに向かい、サルーサはバストから報酬を受け取った。
「全部で金貨五〇枚ですよ! やっぱり子爵家のお礼が大きいですね」
「まぁ俺はフォキュアを助けたかっただけなんだけどな。飛んだとこから儲けが転がり込んできたもんだ」
サルーサがホクホク顔でいう。確かに金貨五〇枚はかなりの褒美だろう。
『本来ならヒカルが受け取るべきものだろうにな』
『仕方ないですよ黒い悪魔ですからね』
『……拗ねてるのか?』
『ち、違います!』
「でもフォキュアさんが羨ましいな……」
ヒカルが脳内で先生と念話してると、バストがボソリと呟いた。
ヒカルには聞こえたが、フォキュアとサルーサは聞こえていないと思う、のだが。
「そうだなこれだけ儲かったんだ。バストも今度何か奢ってやるよ」
サルーサが彼女に目を向けて軽く口にすると、バストの表情が一気に明るくなり。
「本当ですか!? や、約束ですよ!」
「あぁ勿論だ。俺は約束は守るぜ」
サルーサの返事を受け更に機嫌が良くなるバスト。非常にわかりやすい。
「サルーサがバストを誘うなんて珍しいわね」
「おっとやきもちかい?」
「ば~か、でもあんたちょっと雰囲気変わった
?」
フォキュアが笑顔で返しつつ、マジマジとサルーサを眺め問いかける。
「うん? そんな事はないだろ? 特に変化はないぜ?」
「そう? う~んまぁそうだよね。ところでヒカル。今日はこれからどうするの?」
フォキュアが振り返り訪ねてくる。そう言われると少し悩む。
そもそも勇義士一日目から中々ヘビーな事をしてしまい、色々と考えさせられるのもあった。
「う~ん今日はちょっと一人で出来る依頼をやってみるよ。いつまでもフォキュアに頼ってもいられないし」
「確かにな。てめぇは全く役に立たなかったわけだしな」
「ちょっとサルーサ!」
サルーサの口ぶりにフォキャアが文句を言う。
それ自体は前と変わらないような気もしたが――
◇◆◇
「それじゃあヒカル頑張ってね」
「あぁ今度は無様な姿をみせないようにしっかり鍛えるよ」
結局ヒカルは件の森で討伐依頼が出ていたマガモの退治に向かうことにした。
フォキュアは武器の手入れをしてもらいに行くらしい。
サルーサは結局あの後別の受付に捕まり何か頼まれごとをされていた。
きっと依頼か何かだろう。
『一人で大丈夫なのかヒカル?』
『余計な心配ですよ先生。それに色々聞いてみたい事もありますしね』
ヒカルは脳内でそんな会話をしながら再びマガモノの巣食う森に向かうのだった。
少しでも自分の力を使いこなせるようにという思いを胸に――
第二部完
~第三部へ続く~
ここまでで第二部が終了となります。
第三部は四月頃からの公開を予定しております。
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