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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
36/59

第一九話 支部長ガライ

 フォキュアはヒカルの持ってきた装備に着替えてからも、暫くはかなり落ち込んでいた。

 お嫁にいけないとまでいっていたが、サルーサが熱心に、

「そんな事はねぇ! 少なくとも一人はお前を嫁にもらってくれるやるがいる!」

と言っていたりもした。


 勿論ヒカルも一生懸命フォローし、まぁとにかく肉体的には何もされた形跡がない事が幸いだったと、わりと無理やり納得してもらった感じだ。


 話も纏まった後は、とにかくギルドに報告にいかないといけないという結論にいたった。

 死体と散らばった破片をフォキュアの魔晶に収め、途中襲ってくるマガモノを打ち倒しながらも三人はチャンバーネに戻る。その時には既に日も落ちかけていたが急いたほうがいいだろうということになり、ギルドへ報告に向かったのだが――




「ほんっとぅうぅうううに! 信じられません! あの三人組がそんな事までするなんて!」


 バストは事の顛末を聞き終えた瞬間、怒りを露わにして叫びあげた。

 彼女は朝の出来事をしっかり覚えていたようで、その時の事も思い出しているようだ。


「まぁその三人組だけじゃなかったから、それも含めて鑑定お願いしておきたかったんだけどね」


「はい! 今見てもらっているところです! でも、サルーサさん流石です。見事フォキュアさんを助けてみせるのですから」


「まぁ勇義士として当然だな」


 サルーサが腕を組み得意がる。その姿を白けた目でみやるヒカルである。


「でもフォキュアさんに怪我がなくて本当に良かったです」


 バストがほっとしたような目で彼女を見つめた。

 それに、まぁ一応はね、と微苦笑を浮かべるフォキュア。

 今は大分元気を取り戻しているが、やはり半裸に剥かれていた事はまだ気にしているようだ。

 

 とはいえやはりそれ以上の事が何もなくてよかったとヒカルは心から思う。

 

 バストとそれからも事件の事を話していると、横から受付の男がバストに近づき口を開いた。


「今死体と破片を鑑定しているが時間が時間だ、今日中は無理だろう。だが依頼のパラキャロットの方は確認できた金貨九枚が報酬だ」


 前にもバストに仕事を命じていた受付の男は、そういってカウンターの上に金貨をおいていった。

 そういえば結局採取は九〇本で強制的に終了させられてしまったなと頬を掻く。


「じゃあヒカルの分で金貨四枚と銀貨五枚渡しておくわね」


「はぁ? そんなの渡す必要ねぇだろ。こいつフォキュアに金貨一六枚分の借りがあるんだからよ」


「いいのよ。別に私も余裕がないわけじゃないし」


「あ、でもここから少しは返すよ。申し訳ないし」


 ヒカルは受け取った金貨の数枚をフォキュアに渡そうとするが、彼女は右手をヒカルの前に付きだし否を伝える。


「こんな中途半端に返して欲しくはないわね。返すならそれぐらい稼いで纏めて返して」


 真剣な眼差しで言う。彼女は暗に伝えてきているのだ。

 もっと強くなれ、成長しろと。


 ヒカルは差し出そうとした金貨を握りしめ、判ったよ、と返す。


「ちゃんと稼いで利子つけて返すからさ」


 楽しみにしてるわ、とフォキュアは軽く笑った。


 それをサルーサがどこか面白くなさそうな顔でみてはいた。

 そしてその後はとりあえず時間も時間なので一旦ギルドを離れ、また後日話を聞くという事で解散となった。




「あら、お帰りなさいませヒカルさん」


 宿に戻ると笑顔の女将が出迎えてくれた。いつみても美人だな等と思いつつも、食堂で夕食を頂き、お風呂に入り部屋に戻ろうとするが。


「ヒカルさん結構お疲れなのでは? よかったらマッサージでもしましょうか?」

 

 え!? と思わず驚く。

 うふふっ、と笑う女将にまた誂われているのかな? と思ったがマッサージは本当にやってくれるつもりらしい。


 だが――


「すみません。有難い話ではあるのだけど、また次の機会に――」


 いってそそくさと二階に駆け上がる。背中で、残念、という声を感じたが、とにかく部屋に戻り、ドキドキしながらも床につく。


『据え膳食わねば男の恥というだろうに情けないなヒカル』

『先生そんな言葉まで……でもあれはそういうのじゃないですよ。只の好意です』


 先生にそう返し布団を被ってヒカルは目を瞑る。

 すると流石に色々と疲れたのもあって、直ぐに眠りにつくことが出来た――






◇◆◇


「丁度よかった。今直ぐ二階の支部長室に向かってくれ。客人もお待ちだ」


 翌日、フォキュア、サルーサと合流した後、ギルドに向かった三人に受付の男が言ってきた。

 バストはその隣でどこか不安そうな顔を見せていた。


 だがそう言われていかないわけにもいかない。

 三人はそれに従い階段を上がり、支部長室と表記のある部屋の前に来た。


 フォキュアが代表してノックをすると、中から柔らかい声で、どうぞ、と返ってくる。

 それを聞き部屋にはいる三人だが。


「やぁ待っていたよ。サルーサとフォキュアは久しぶりかな? まぁとにかく席に座ってよ」


 部屋には奥に執務に利用されているようなしっかりとした机が置かれており、その手前、部屋の中央辺りには木製の艶のあるテーブルと、革製のソファーが設けられていた。


 席に促した男はヒカルからみて奥のソファーに座っているが、その隣にももうひとり大柄な男が座っている。


 支部長というのはこの声を掛けてきた男で間違いがないだろう。

 黒縁の眼鏡を掛けていて細目。銀髪で油でしっかり後ろに流し整えられており、身形もキッチリとしている。

 年齢は三〇代そこそこといったところか、見た目だけなら穏やかそうにも思えるが、ヒカルの目からみて隙が全く感じられない。


 そして三人は言われるがまま席に座る。

 

「全くなんだってんだガライ。藪から棒に呼びつけて」

「ちょっとサルーサ! 失礼でしょ支部長に!」


「いやいや構わないよ。それぐらいの方が僕も楽だし」


 そう言ってカラカラと笑いあげる。

 そして視線をヒカルに向けてきた。


「確か君はヒカルくんだったね。君とは初めましてかな。僕はここチャンバーネのギルドで責任者を任されているガライだよ。宜しくね」


 ニコリと微笑んで自己紹介をしてくる。

 ヒカルもどこか毒気を抜かれたような気持ちになりながらも一揖し。


「ヒカルです。よろしくお願いします」

 

 そう挨拶を返す。

 すると瞑目していた隣の男の片目が開いた。


「全くそんなどうでもいい話より、さっさと本題に入って欲しいとこなんだがな」


「あん? なんだこの偉そうなおっさんは」


 サルーサの遠慮なしの言葉に、ちょっと! とフォキュアが咎める。

 それにしても、とヒカルがもう一人の彼に目を向けるが、見た目には全身を甲冑で包まれ妙に威圧感のある物言いと、厳つい顔つき。

 なんとも騎士然とした男である。


「ふん! 思ったとおり勇義士というのは粗暴で礼儀のなってない連中が多いな」


 三人を見据えながら鼻白んだ顔で随分な物言いである。

 第一印象から、正直気分の悪くなるような感想しか与えない男だ。


「まぁまぁお手柔らかに」


 サルーサが更に何かをいおうとしたのを止めるようにガライが先に口を開き更に言葉を紡げる。


「三人共、この方はここデボラ領にて騎士団長を任されているガラムド・マンゴー殿だよ」


 ガライの説明にサルーサは腕を組み閉じた瞼の片側だけを開いて彼を見やるが、特に何もいうことがない。


「あ、あの仲間のサルーサが申し訳ありません。そして初めまして、私は勇義士ギルドで中級勇義士を努めさせて頂いておりますフォキュアと申します」


 流石にフォキュアは騎士団長という事を聞いて気を使ったのか、畏まった挨拶をみせる。

 だがガラムドは不機嫌そうな表情は変えず、フォキュアの自己紹介もまるで耳にしていないような有り様だ。


「そもそも俺たちを呼んだのはなんでだよ? こんなおっさんにあわせるためか?」


 右手を差し上げサルーサもどこかムスッとした様子で尋ねる。

 第一印象から最悪のこの男に腹を立てるのも判らないでもないが、もう少しいい方は無いものかともヒカルは思う。

 実際サルーサを睨めつけるガラムドの願力が凄まじい。今直ぐ切りかかりそうな程だ。


「勿論それもあるんだけどね。本題は昨日の君たちの巻き込まれた事件についてだよ」

 

 ガライのその言葉でサルーサの表情も漸く引き締まった。

 勿論フォキュアもヒカルもだが。


「それで鑑定結果だけど、まぁフォキュアの依頼に文句を言っていたという三人は一旦置いておくとして、実はもう一人が問題でね」


 問題? とサルーサとフォキュアが声を合わす。


「そうなんだ。原型がわからないほどに変わり果てていたけど、フォキュアの話していた内容と鑑定結果から、その一人が元勇義士のハーデルであったことが判明してね」


「ハーデルだって!?」

「ハーデルってもしかしてあの!?」


 その名前を聞いた途端、ふたりが立ち上がらんばかりの勢いで腰を浮かし驚きの声を上げる。


「ふたりともその男を知っているのか?」


 既に戦い勝利したヒカルではあるが、結局あの男が何者なのかは判らずじまいだった。

 その為、興味から訪ねてみると、ふたりは一旦腰を落とし。


「えぇ名前だけはね。でも勇義士を除名された男だしいい噂も聞かなかったから」

「全くだ。寧ろ除名処分ぐらいで澄んでたのが不思議なぐらいだろ」


 フォキュアはともかくサルーサは何かを思い出したように顔を歪めている。

 彼にとってもあまりいい思い出はないようだ。


「中々手厳しいね。まぁとにかく元勇義士のハーデルなんだけど、ここからが問題でね。これはハーデルの使用していたと思われる斧の痕跡から判ったことなんだけど――」


 そこで眼鏡の奥から覗き込む細い瞳を光らせ、一泊置いてから続きを紡げる。


「どうやらハーデルはクリステル子爵家令嬢殺害事件の犯人だったようなんだ――」

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