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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
30/59

第一三話 情けねぇ

本日二度目の更新です

「よぉ随分と楽しそうにしてんじゃねぇか」


「ふたり仲良くお弁当ってか? 俺達も混ぜてくれよ」


「まぁ俺らは弁当なんかよりも、その雌狐を美味しく頂きたいところだけどな」


 サンドイッチの入ったバスケットを地面に置き、ヒカルは即座に立ち上がる。

 それはフォキュアも一緒だ。相手を睨めつけるようにしながら、スラリと腰の小剣を引き抜いた。


 ヒカルも倣って剣を抜く。理由は明白。何せ相手は既に武器を構えてる上、この三人組は朝ギルドで受付嬢やフォキュアに絡んできた連中だ。

 

「依頼が被った……てわけでもなさそうね。あれは個別依頼だったわけだし」


「い~や、依頼だぜ小生意気な勇義士を懲らしめてやってくれってな」


「まぁ依頼者は俺らで」

「請けたのも俺らだけどな」


 ニヤニヤとした薄汚い笑みを浮かべながら、三人がそんなふざけたことを口にする。


「まぁ大人しく黙ってりゃとりあえず手荒な真似はしないでおくぜ、といいたいところだが」


「そっちはそんな気はなさそうだなぁ」


 スキンヘッドと茶髪がギラリと目を光らせ言った。

 それにフォキュアも、当然! と強気に返す。


「あんたらまさか三人いれば私達に勝てるとでも思ったわけ?」


「けひゃ、そりゃ思うだろう。一人はたかが見習い、もう一匹は中級とはいえ雌だ。なんとかならないと思う方が可笑しいぜ」

 

 気味の悪い奇声を発しながら、背中を丸めた男がいう。

 しかし、フォキュアが女だからと舐めているなら痛い目を見ることになるだろう。


「ヒカル大丈夫?」


「当然。ここで女の子を見捨てるなんて格好悪い真似は出来ないだろ?」


 ヒカルがそう告げると、フォキュアが微笑を浮かべた。

 雰囲気的にしっかり信頼は得ている感触である。


「おい、あの見習いは俺がやる。あの女はてめぇらでなんとかしておけ。昨日今日勇義士になったばかりの癖にあの生意気さが鼻持ちならねぇ」


 そう言って、スキンヘッドの男が、柄の長い巨大な槌を両手に握りしめヒカルへと近づいてくる。


 残りふたりは左右に広がり、フォキュアへとじりじりと近づいていった。

 ヒカルとしては、さっさとこのハゲを叩きのめして、フォキュアの加勢に向かいたいところである。


「ふ~ふ~、やべぇなこの雌狐。獣のくせにいい太ももしてやがんぜ」

「全くだ~むしゃぶりつきたくなるぜ」


 フォキュアを相手にしているふたりの如何わしい言葉に、思わず眉を顰める。

 そこへ迫る影、目の前には槌を大きく振りかぶったスキンヘッドの姿。


 そして――ヒカルのいた地面が重圧に押し潰れる。

 円筒状のヘッドの部分は人の頭ほども大きい。変身もしていないヒカルがまともに食らったなら、一溜まりもないだろう。


 この攻撃は盾で防ぐのも無理がある。遠心力を活かした体重の乗った撃砕だ。

 盾で中途半端に防いだ所で剣ごと持っていかれる可能性はある。


 だが、躱してしまえば隙は大きい。ヒカルは晒された脇腹の辺りへ突きを繰り出す。

 だが、鋼の響き。スキンヘッドの男が身にまとっているプレートメイルは予想以上に頑丈だ。


 今のヒカルの突きでは、精々傷を少し残せるぐらいだ。


「ふんっ!」


 スキンヘッドはヒカルに視線を戻すと同時に、土にめり込んだハンマーを、斜めの軌道で掬い上げるように振るってきた。


 咄嗟に後ろ足を引き、地面を蹴って躱す。目の前を唸りを上げて筒型の影が通りすぎた。


 冷や汗が滲む。この男は思ったよりも手強そうでもある。


 ふとフォキュアが気になる、チラリと横目で伺った。

 両手にナイフを携えた男の連撃をひらりひらりと躱し、もう一人の長剣の一撃も危なげなく処理している。


 ヒカルと違い、全く動じず、とてもあの連中に遅れを取るとは思えない。

 やはり素のままのヒカルとフォキュアでは、その腕の差は歴然としていた。


『仕方ないな。とにかく目の前の闘いに集中しろヒカル』


 判ってますよとヒカル。そしてスキンヘッドの男をみやるが、男の目もフォキュアと仲間に向けられていた。


「おい! 雌狐一匹に何を手間取ってんだ!」


「そうはいってもよぉ。こいつ、ヒッ!」


 剣の振られる音と共に小男の情けない悲鳴。そして転ぶ音。


 ヒカルも意識を半分ほどフォキュアに向ける。


「この野郎!」


 横から長剣の男が斬りかかった。ただフォキュアはそれを徼撃(きょうげき)し、剣を弾き飛ばした男の喉元に刃を押し付けた。


「どうするの? まだやるならこいつは容赦なく殺すけど」


 フォキュアが獣の目で連中を睨めつける。冷たい声音は、ヒカルの知るフォキュアとは全く違う類のものだ。

 恐らく本気だろう。後は連中が仲間をどう思っているかだが――


「た、助けてくれよ。頼むよ」


 顔を引き攣らせ、茶髪の男が懇願する。

 三人が黙って引き下がれば、彼女も命まで奪う気はないのだろう。

 勿論それ相応の裁きは受けてもらうことになると思うが。


「威勢がいいなネェちゃん」


 突然の響きに、え? とヒカルが目を剥く。フォキュアの顔にも動揺が走った。

 いつの間に! とその大柄な男を見る。

 こんな目立つ男が、何故気づかれること無くフォキュアの直ぐ横に立っているのか? それ一つとってもこの男は他の連中とレベルが違う。


「がはっ!」


 そしてその瞬間には、男の巨木のような膝がフォキュアの腹にめり込み、くの字になった彼女の首筋に男は握りしめた両手の固まりを振り下ろした。


 一瞬の出来事だった。最後の一撃には声も出ず、フォキュアは地面に倒れ動かなくなった。

 死んではいない、それは判る。


 だが意識は完全に飛んでいる。


「あ、兄貴助かったぜ!」


 茶髪の男が声を張り上げる。兄貴? 仲間か? そんな思いが過るが、今はフォキュアを助けねば。


「フォキュア!」


 叫びあげ駆け寄ろうとする。

 だが今度は男の顔がヒカルの目の前にあった。

 そしてその手にはいつの間にか巨大な斧が握られている。


「うるせぇ鼠だ――」


『ヒカルダメだ! 防……』

 

 先生の声が脳裏に響いた瞬間、これまで味わったことのないような衝撃と共に、瞬時に目の前の景色が遠ざかり、ヒカルの意識は途切れた――





「チッ、やり過ぎちまったか。奪いに行くの面倒くせぇなぁ――」


 ハーデルは自分の一撃で、樹木をへし折りながら随分と遠くまで吹き飛んでいった相手の事を眺めながら、気怠そうに口にした。


「兄貴! いいじゃないですかあんな奴。どうせ生きちゃいませんよ」

「それよりもこの雌狐だ! もう辛抱たまらんぜ!」

「どうする? ここでやっちまうか?」


 ハーデルはそんな三人の言葉を聞きながら、んぁ、と呟き。


「……まぁいいかぁ。あんな雑魚奪えるもんもねぇし」


「で、兄貴どうしますか?」


「……あぁだったら丁度いいところがあるぜぇ。こないだみつけたんだぁ」


 何かを思いついたように顔を歪め、そして舌なめずりをしてみせる。


 その姿に三人もどこか興奮した面持ちで、兄貴に従いますぜ! と同時に声を上げた。






◇◆◇


――い、おい……


 誰かの呼ぶ声にヒカルの意識が少しずつ取り戻されていく。

 そしてその声は段々と大きくなり――


「おい! 起きやがれこらっ! なんでこんなところで寝てるんだてめぇ!」


 頬にパンッ! パンッ! パンッ! と連続的な衝撃。

 流石にそれで完全に意識を取り戻したヒカルは、瞼を開け、その姿を見た。

 赤毛のツンツン髪はまだ知り合って間もないにも関わらず、決して忘れることの出来ない特徴。


「サルーサ?」


 思わず出る疑問の声。何故彼が? そして――


「やっと目覚めやがったかこら! たくっ、仕事を早めに片付けて駆けつけてみれば、一体どうなってやがんだ。大体フォキュアはどこいったんだよ?」


 フォキュ――?


 その瞬間記憶が瞬時に蘇り、ガバリと上半身を起こし、

「そうだフォキュアが!」

叫びあげた。


 その様子にサルーサもただならぬ物を感じたのだろう。

 即座にヒカルの胸ぐらを掴み、背後の幹に押し付ける。


「てめぇ! ここで何があった! 説明しろ!」


 サルーサが吠えるようにいう。

 その顔は真剣そのものだ。険の篭った瞳をギリリとヒカルに向けている。


 ヒカルはそんな彼に、暗い気持ちになりながら先ほど起きた出来事を包み隠さず話して聞かせた。


「馬鹿野郎!」


 怒鳴り声とともにサルーサの右拳がヒカルを捉え、盛大にその身が地面に叩きつけられた。


「てめぇ一緒にいながら何してやがった! フォキュアが連れ去られただと! てめぇそんな状況でここで呑気に眠ってやがったのか!」


 ヒカルとて別に好きで気絶していたわけではない。

 ただそれはサルーサも判っていることだろう。

 でも、それでも文句を言わずにいられないのだ。


 そしてそれはヒカルとて同じだ。自分で自分が嫌になるほどだ。不甲斐なさに涙が出そうになる。


「チッ! やっぱテメェなんざと組ませるんじゃなかったぜ。もういい、テメェはギルドに戻ってこの事を伝えろ!」


「……サルーサは?」


「この辺りを探す。話を聞く分にはそんな遠くにいくとも思えねぇ。だがテメェはくるな! 足手まといだ!」


 背中を見せてサルーサが叫ぶ。

 今のヒカルは何を言われても仕方がない。


「俺はいくぜ。だけどなぁ、もしフォキュアの身に――そんな事になったら……」


 サルーサは首を巡らせ、顔だけをヒカルに向け。


「てめぇをこの手でぶっ殺す――」


 滲んだ怒り、篭もる殺意。思わず肩が震えそうになるほどの迫力。


 そしてその言葉を言い残し、サルーサは得意の身体能力で瞬時に樹の枝に飛び移っていき、その姿が離れていった。


『で? どうするんだいヒカル? このまま言われたとおりおめおめと逃げ帰るのか?』


 意識を完全に取り戻したヒカルに先生からの質問。

 顔が痛む。それはサルーサによるものだ。

 だが身体の痛みと軋みは、あの男から食らった一撃によるところが大きい。


 それでもなんとか動けているのは、咄嗟にアイオスソードの盾で刃を防いだことと、予想以上にこのアルラウチュニックの防御力が高かった故だ。


 そしてこのチュニックはフォキュアからの支援で手に入れることができ、アイオスソードだって彼女の紹介があったからこそ見つけられた。


 フォキュアにそれだけ世話になっておきながら、いやそもそも男として、こんなことで挫けれはいられない。


『当然俺も動きますよ。探しだして必ず救出してみせます』


 そしてヒカルは意識を集中させゴキブリをその身に集めだした――

皆様の応援のおかげで日間のカテゴリ別ランキングに載ることが出来ました。

本当にありがとうございます。

後は総合に載る!なんてことがあれば嬉しいですが題材が題材だけに難しいですよね(汗)

とにかく少しでも読んでくださっている皆様の期待に添えられるよう頑張っていきます!

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