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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
28/59

第一一話 初依頼へ

 散々暴言を吐きまくりフォキュアにとんでもない要求を突きつけてきた三人の勇義士。


 そのあまりの横暴さに遂に絶えられなくなり、怒りの声を上げたのは!


 サルーサであった――


 そんなわけで受付嬢のバストに抱きつかれ濡れた瞳を向けられ戸惑うサルーサ。


 唯一の救いは、それに対しフォキュアが何も思ってなさそうなところか。

 サルーサは何か言い訳のような事を言い続けているが、フォキュアは疑問顔だ。


「おいバスト。いい加減仕事に戻れ」


 と、そこへカウンターから渋い声。男の受付担当が彼女に注意する。

 それを聞き、あ! と一声発し照れくさそうにカウンターを乗り越えるバスト。

 よっこいしょっと意外とはしたない。


「それにしてもてめぇもびびっちまって情けねぇな」


「は? いや別に俺はびびってなんて……」

「そういえばサルーサさんはあの連中を知ってたのですね」


 ヒカルが全てを言う前にバストの声がサルーサに投げかけられる。


 あぁ、とサルーサがカウンターの彼女を振り向く。

 その時にフォキュアから小声で気にしないでね、と言われたがそれが余計情けなさに拍車をかけた。


「さっきも話したが連中は以前ギルドの外で新人の勇義士を脅したりしてたんだ。それを見つけて締めた事がある」


「そんな事が……」


「確かあの連中は、開放依頼関係の達成率が高くてこの間中級冒険者の丙に認定されたんだったな」


 ふと、隣にやってきた男性受付がそんな事を口にする。


「あいつらがか? なんとも怪しい話だ。正直そこまでの腕があるとは思えないぜ、きな臭いな」


「……どっちにしろこの騒動も含めて上に伝えて置く必要がありそうだな。バスト、報告書を纏めておけ」


 受付の男性は彼女にそう告げると元の業務に戻っていった。

 その口ぶりからこの受付の中で上の方にあたる人物なのかもしれない。


「うぅ、余計な仕事が増えてしまいました――」


「なんかごめんなさい私のせいで」


「いや、フォキュアが謝ることじゃないだろ」

 

 咄嗟にヒカルが口を出す。

 するとサルーサもぐいっと顔を付きだし。


「そうだぜ。悪いのはルールも守れねぇ連中だ! くそ! やっぱ半殺しにでもしとけばよかったぜ!」


 サルーサはかなり血の気が多い。

 だがあんな連中を放っておくのもどうかとは確かに思う。


「そうですフォキュアさん。それに今日はどちらかと言うと助けられたって感じですし。も、勿論サルーサさんにも――」

 

 受付嬢のバストは両手を頬にあて、うりんうりんと身体を左右に振りながら照れくさそうに言う。


『どうも調子が狂うな。受付嬢ときたらヒカルに惚れるのがテンプレだろ』

『いや、もうそういうの大丈夫なんで』


 先生は少々脳内小説に毒されすぎなところがある。


「まぁとにかくもうあんな連中のことは忘れましょう! ところで皆さんは本日は依頼を請けに?」


「えぇ。今日はヒカルも初めてになるし、私も付きあおうと思ってるんだけど、何かいいのあるかな?」


 フォキュアがバストに伝えると、隣のサルーサはどこか不機嫌そうだ。

 昨日依頼につきあう必要はないと言われてしまったからだろう。


「う~んそうですね……あ! そういえば!」

 

 受付嬢はそういうと、カウンターの中でがさごそと何かを探し始める。


「あった! これです! まだ来たばかりで依頼板としては下げてませんが、結構急ぎの仕事でもあるので」


 そういって一枚大きめの紙を取り出した。どうやらこれが依頼書の原本らしい。


「依頼内容はパラキャロットの採取です」


「キャロット……人参?」


 ヒカルは耳にした名称から連想するものをつい口にする。


「いえ見た目は人参ですが、正式には木の根です」


 木の根? とヒカルが疑問を口にするが。


「パラキャロットはキャロウッドの樹から採れる根ね。この樹はある時期になると地面を突き破って根が外に伸びてくるの。それの形が逆さまになった人参に似てるんだけどね。まぁ名前の由来はその人参に似てるからってわけ」


「確か煎じて飲むと麻痺毒を中和するんだっけな」


「はいそのとおりです。依頼主も薬師の方ですね。ただ採取できるのはあのマガモノの跋扈する森で、しかも採れる期間は僅かですからね。一般の人はとても採りにはいけないので、それで依頼主から催促がきているのです」


 バストの言葉にフォキュアが目を丸くさせ尋ねる。


「催促って来たばかりの依頼なんじゃないの?」


「それが詳細は書いていないのですが、この依頼自体はもっと前からきていたんです。勇義士が受けたようでもあるのですが、失敗したようで、それで再度依頼書が回ってきました」


「失敗ってことはそんなに難しい依頼なのかい?」


「う~ん。確かにあの森に入る必要はあるけど、そこまで奥まった場所じゃないわよね、これの採れるところ。初級勇義士でもパーティー組んでいけば問題無いとおもうけど制限とかあるの?」


「特にはないですね。生えている量の関係で開放依頼ではなく個別依頼になってますが、パーティー組むのは認められていますし……あ、でも変わった条件がついてますね」


「変わった条件?」

と今度はサルーサ。


「はい。依頼は夕刻までに達成させ日が落ちる前に街に戻ることとあります。私はこんなの初めてみますが……」


 なんか子供にお願いするお使いみたいだな、とヒカルは思った。


「ちなみに報酬は成果報酬なので採れた分に応じて依頼主から支払われます。一〇本で金貨一枚といったところでしょうか」


「悪く無いわね。ヒカルと一緒にいくなら丁度いいかな。どうする?」


 フォキュアに尋ねられたが、ヒカルには特に断る理由もない。


「大丈夫。請けるよ」


「そうですか。それでは一応扱いとしては受注者がフォキュアさん、そのパーティーメンバーとしてヒカルさんと――」

「ちょっと待て! この依頼だったら俺もいくぜ! 二人が三人に増えても問題ないだろ?」


 ヒカルは少しギョッ! とした。結局こうなるのかと顔を引き攣らせるが。


「おいサルーサ丁度よかった。ちょっと来てくれないか?」


 ふと横から男性の受付がサルーサを呼びつける。


 すると、あん? なんだよ、と面倒そうにしながら受付の下へ向かうが。


「――てわけでこれちょっと頼むよ」

「はぁ!? なんで俺が!」

「今日他に適任の奴がいないんだよ。報酬は弾むから――」


 どうやらサルーサは何か別の依頼を頼まれているようであり――





「急遽別の用件で動くことになった――」


 戻ってきたサルーサがムスッとした様子でいう。


「そう、じゃあしょうがないわね。じゃあヒカルとふたりで」


「あ、はい判りました」


 フォキュアはあっさりそれを認め、ヒカルとのパーティーを決めてくれた。


 するとサルーサがヒカルの首に腕を回し、不機嫌と顔に書いていそうな笑みを浮かべながら。


「てめぇ俺がいないからってフォキュアに妙な気をおこすんじゃねぇぞ――」


 そう脅すように告げてきた――






◇◆◇


「たく、ムカつくぜあの猿野郎!」


 適当な建物の壁を思いっきり蹴りつけながら、スキンヘッドの男が怒りの言葉を吐き出す。


 それをみていた仲間ふたりも同調するように愚痴をこぼし始めた。


「あの野郎、前に俺たちに勝てたからって調子にのってんだな」


「大体あの猿もそうだが、俺は雌狐の方が腹立つぜ。せっかくの計画を台無しにしやがって!」


「全くだ。折角囮に使えそうな適当な勇義士もみつけたってのによ!」


 そんな三人組を通りを歩いている人々が怪訝な目でみやるが、三人が睨みを利かすといそいそと離れていく。


「随分荒れてるみてぇだなぁ――」


 するとそんな三人に声を掛ける人物。

 かなりの大男で粘りつくような笑みをその顔に滲ませている。


「え? あ、兄貴!」

「ハーデルの兄貴じゃないっすか!」

「驚いた! いつ戻ってきたんですか?」


 ハーデルと呼ばれた男は三人の反応に、嬉しそうに肩を揺らし、そしてマジマジとその姿を眺める。

 

 どうやら男と三人は顔なじみのようだが。


「な~にちょっとした暇つぶしになぁ。ところでお前らはまだ勇義士なんてやってんのか?」


「えぇ当然ですよ。兄貴の教え通り不正はばれないように、奪えるもんは奪えの方針で俺たちも今や中級勇義士でさぁ」


「本当にハーデルの兄貴と知り合ってなきゃ俺たち下の方で燻ってるしかなかったですぜ」


「全くだ。それなのにその兄貴があんな――」


 その瞬間ハーデルの鋭い目が三人を睨めつける。

 二人の勇義士がバカッ! と叱咤するような瞳を発言した男に向けるが。


「な~に気にしちゃいねぇさ。あいつらに見る目がねぇだけだしな。この俺を除名処分なんてなぁ……くくっ、だがおかげで自由がきくようになったぜ」


 表情を変えニタニタと不気味な笑みを見せるハーデルに、三人は、そ、そうですよね、と引きつった笑みを浮かべる。


「ところでお前ら何か面白い話はねぇか? 暇つぶしになりそうないいネタがよ」


「い、いいネタですか?」


 う~ん、と三人共に首を捻るが。


「さっきのはどうなんだぁ? なにかムカついている事があるんだろぉ?」


 その言葉にピンッ! と閃いたように三人が顔を見合わせ。


「そ、そうなんですよ兄貴! 実は生意気な勇義士がいまして――」


 そして三人は事の顛末をハーデルに伝えるが。


「――ほぅ、なるほど。それは随分と面白そうな話じゃねぇか」


 ハーデルは歯牙を剥き出しに、楽しそうに含み笑いを見せた後、ニヤリと口角を吊り上げた――

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