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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
27/59

第一〇話 因縁三人組

 ヒカルとフォキュアがギルドに来た直後、大声で怒鳴り散らしていたのは三人の勇義士であった。


 みたところ彼らはカウンターの前で、昨日対応してくれた受付嬢に文句をいっているようだ。


 三人は、一人がスキンヘッドで筋肉質の男。鉄の板金を組み合わせたような鎧を着ていて背中には大きな槌を担いでいる。

 もう一人は背の小さな男だ、革の鎧を来て腰にナイフを何本か差し持っている。

 男は背中をやたら丸めているせいか更に小さく見えた。

 最後の一人は体型が普通で、ブラウンの髪意外にこれといった特徴のない男だ。

 チェインメイルを装備していて、腰に小剣を一本差している。


 この三人がやたらとギャーギャー喚いているのだが、その会話の内容はあまり無視しておけるものでもなかった。


 何せ、その内容は隣にいるフォキュアに関しての文句であったのだから。


「あんな獣人風情に、あの依頼がこなせるわきゃないだろうが!」


「いえ、ですが事実ですので」


「騙されてんじゃねぇのか? ちゃんと確認とったのかよ!」


「鑑定してるので間違いないです。ですからもうその件は諦めて他の依頼を」


「あん? ふざけんなよ! こっちはその依頼の為に準備進めてきたんだ! どう責任取るきだ!」


 何か聞いていると、彼らはかなり無茶苦茶な事を言っているように思える。


「なんなのあいつら?」


 フォキュアも流石に不機嫌な感じになってきている。自分の名前も出ているのだからそれはそうだろう。


「責任って……あの依頼は開放依頼ですし、依頼が達成された時点で終了です。それなのに責任も何もないではないですか」


「あるに決まってんだろ! あんな狐女に騙されてほいほい報酬渡すテメェらが悪い!」


「おい。もういいからこいつ連れて行こうぜ? 責任はこの女に取ってもらうんだよ」


「ふぁ!? な、何を言って!」

「うるせぇ! いいからてめぇちょっとこっちに――」

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」


 流石に言っている事に筋が通ってなさすぎなので、文句を言おうとヒカルが出ようと思ったところに、いち早くフォキュアが吠え上げた。

 

 そのおかげでヒカルは中途半端に前のめりになったかんじで、少し恥ずかしい。


「あん? て、てめぇフォキュアじゃねぇか!」


「よくものこのこギルドまで顔出せたな!」


「あぁ、さては自分の犯した過ちに気がついて、俺らに金を払いにきたのか? まぁそうだろうな」


 とりあえず体勢を立て直したヒカルだが、いくら聞いてもこの連中については、頭がオカシイという印象意外に持てる感想はなかった。


「なんかもう、さっぱり言っている意味がわからないけど、くだらない事でバストに絡んでるんじゃないわよ!」


 ヒカルは一瞬耳を疑った。一体何をいっているのかとも思ってしまったが。


『バストというのは恐らくあの受付嬢の名前だと私は思うぞ』

 

 先生の言葉に思わずヒカルは受付嬢のバストにも目を向けてしまう。

 うむ、なんとなくぴったりな名前だ。


「くだらないだぁ? てめぇどの口が言ってやがる! 大体もとはといえば悪いのはてめぇだろうが!」


「いやいってる意味がわからないんだが、一体なんでフォキュアが悪いって話になるんだ?」

「あ、ヒカルさん!」


 バストの声が耳に届く。そしてヒカルもようやく口を開くタイミングを掴めた。


「あん? 誰だテメェは!」


「俺は昨日ここに登録したばかりの見習勇義士ヒカルだ!」


「正直ねヒカル……」

『正直すぎるだろヒカル』


 フォキュアと先生に同じことを言われてしまうヒカルである。

 しかし確かに格好つけていえるようなものでもない。


「ちっ! なんだ、見習いかよ! たくっ、下がってろ! およびじゃねぇんだよ!」


 馬鹿にしたような目であしらわれるヒカル。

 それにちょっとムッとしつつ。


「俺は色々フォキュアにも助けられてるんだ。話を聞くぐらいいいだろ」


「あん? この狐女に? ……ちっ、まぁいい聞けば俺達がどれだけ正しいか判るってもんだろ」


 絶対に判らないと思いつつ話を聞く。


「いいか? 俺達はあのマガモノが跋扈する森で勇義士の仲間が何人も犠牲になってるときいてな。そこでここは正義の心を持つ俺達がなんとかしねぇといけねぇと思ってたわけだ」


 スキンヘッドの話に、正義の心を持った連中の態度がアレか、とジト目で三人をみやるヒカル。


「それで俺達は念入りに準備して攻略しようと張り切っていたんだ。だが! この女が邪魔しやがった!」


 その攻略しようと思ってたのが、きっとあの魔剣オークだったのだろうというのは理解できたヒカルだが。


「なんでフォキュアが邪魔したことになるんだ?」


 当然の疑問をぶつける。


「だからよ! 今日来てそこの依頼板みたら、昨日の朝まで掛かってたその依頼がなくなってたから、どうなってんだ! てバストに聞いたんだよ。そしたらそこの雌狐が既に解決したっていいやがる!」


「……いや、てか解決したんだよ。その件は俺も一緒にいたから知ってる」


 背中の丸まった男が苦虫を噛み潰したような顔でいってくるので、それにヒカルも反論する。


「何! つまり貴様もこの雌狐のズルに協力したって事か!」


「なんでそうなるんだ! 大体ズルってなんだよ!」

 

 思わずヒカルの語気も荒くなった。


「そりゃあれだ。だからそこのバストを騙したんだよ。例えば、全く関係ないマガモノの死体をもってきたとかな」

  

 ブラウンの髪の男がそんな事をいうが。


「だからきちんと鑑定した上で判定してるんです。さっきからそう言っているじゃないですか!」


 流石に受付嬢のバストもイライラがつのってきてるようだ。

 嫌悪感を露わにした目を、三人の冒険者に向けている。


「だったらあれだ。盗んだんだ! きっと何もしてないくせに横から証明のための死体を盗みやがったんだよ!」


 スキンヘッドが再び吠える。だがその言葉に、あ……それは、とフォキュアが何かを言いかけるが。


「ですからフォキュアさんのやり方に問題はありません。こちらも正式に依頼を完了したと判断して報酬も支払ったのです」


 バストがフォキュアの言葉を遮るようにいう。恐らく彼女は自分では倒せなかった事を気にしていたのだろうが、それであっても勇義士の規約上何の問題もない。


 だが、フォキュアが正直にその事を話したら、きっとこの連中が鬼の首を取ったようにまた喚き出すと思ったのだろう。


「ふん! どうだかな。大体依頼を完了した様子までみちゃいないだろう。どうせ依頼を達成して浮かれてる初級勇義士でも狙い撃ちしたんだろが」


「そうだ! そうに決まってる!」


「こいつ他の勇義士を犠牲にして強奪しやがったんだ!」


「私そんな事してないわよ!」


 流石にこの意味不明な言い分にはフォキュアも切れた。

 しかしそれにしても――とヒカルが口を開き。


「そもそも初級勇義士で解決出来る案件じゃないだろ。前提からしてどうかしてる」

「うるせぇ! そんなことはどうでもいいんだよ! とにかく俺達がそういったらそうなんだ!」


 ヒカルの疑問にも、答えになってない無茶苦茶な言い分で返す三人。


『ダメだヒカル。この連中は頭から下でしか物事を考えられないタイプだ。だからさっきも受付嬢のすぐ横で武器を構え初めた男達に気が付きもしないんだよ』


『え? そうなんですか?』


『あぁカウンターの男達は殺気すら放ってたよ。フォキュアが間に入ったから一旦矛を収めてるけど、そうでなければ実力行使に出てただろうな』


 ヒカルはさっぱり気づけなかったが、よく考えてみればボディーガードも兼ねてるなら、黙って受付嬢が連れ去られるのを見ているわけもないか、と一人ヒカルは納得する。


「とにかくてめぇは俺達に責任をとる義務がある!」


「はぁ? 何よ責任って」


「んなの決まってるだろ。そうだな先ずは慰謝料として報酬の倍額支払いと、後はそうだな狐の雌でもまぁてめぇも女だ、それなりに俺たちにサービスしてもらわねぇとな」

「おいおい獣姦かよ」

「だが悪くねぇかもなぁ」


 これがさっきまで正義とか何とかいってた連中の言葉か? と頭を抱えたくなる。

 というかこいつら、ここがどこか判って言っているのか? という感じでもあるが、ニタニタとゲスな笑みを浮かべフォキュアを視姦する連中を流石にこれ以上放っては置けない。


『ヒカル少し懲らしめてやるといい。この程度変身してなくてもいけるだろ』


 勿論です先生! と返しつつ、やってやるぜ! とヒカルが行動を開始する。


「てめぇら何やってやがんだコラ!」


 そして――三人の屑にぶつけられる怒声。

 そうそれはヒカル、の声ではなく――


「サルーサ!」

「サルーサさん!」


「…………」


 ヒカルは気恥ずかしそうに踏み出した脚でタバコをもみ消すような仕草を見せた。

 だがヒカルはタバコは一切吸わない。元気な頃は健康には日頃から気を使っていたのである。


「て、てめぇサルーサ」

「馬鹿な!」

「なんでここに!」


「いや、サルーサも勇義士だし当たり前じゃない」


 なんか驚いている三人に冷静なツッコミを入れるフォキュア。


「たく、ギルドについたら、ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒がしいし何かと思えばてめぇらか、この野郎! フォキュアに因縁つけるたぁいい度胸してんじゃねぇか!」


「あ、うぅ……」


 三人の輩はサルーサの姿を見た瞬間、背筋が縮こまり、さっきまでの威勢もすっかりなりを潜めてしまっている。


「しかもてめぇら……前も新人の勇義士脅してやがったよな? あんとき俺が散々傷めつけてやったのにまだこりねぇのかこら! いいぜ、そんなにフォキュアに文句があんなら、俺が相手してやる表にでやがれ!」


 獅子の咆哮の如き、サルーサの喝。

 それに完全に言葉をなくした三人は。


「くっ、わかったもういいよ……」

「お、おい行こうぜ」

「あ、あぁ」

 

 そう言い残し、輩三人はそそくさとギルドから出て行った。


「ありがとうサルーサ。助かったわ」

「うん? あぁまぁ別に大したことねぇよ」


 フォキュアにお礼を言われ照れるサルーサ。


「サルーサさ~~ん! ありがとうございます~~!」


 そしてカウンターからサルーサの胸に飛び込み抱きつくバスト。


「お、おい! やめろって!」

「だって怖かったんです。サルーサさんがこなかったら私……」

「いや、だから、お、おいフォキュアこれは違うからな!」

「え? 何が?」


 とまぁそんなやりとりを見ながら――所在なさ気なヒカルなのである。


『……哀れな』

『放っといてください!』


 


 

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