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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
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第九話 宿で一泊ドキッ!

 その日の予定も終え、ヒカルはフォキュアとサルーサに別れを告げ宿へと戻っていた。

 一応翌日の予定に関しては、明朝教会の鐘がなる頃に、フォキュアと広場で待ち合わせという事になっている。


 今後は一人で勇義士の仕事をこなす必要があることも多いだろうが、とりあえず初日ぐらいは彼女も一緒に仕事に付き合ってくれるようだ。


 これにはサルーサも一緒にきたそうな雰囲気を醸し出していたが、中級の勇義士がふたりして見習いに付き合うわけにもいかないとフォキュアに一蹴され、彼も渋々諦めていた形だ。


 まぁヒカルとしても、フォキュアとふたりで仕事ができる事に依存はないし、むしろ嬉しかったりもする。


『鼻の下を伸ばしたくなる気持ちもわかるけど、ちゃんと一人でも仕事をこなせるようになるよう頑張るんだぞ。そうでないと折角の力も宝の持ち腐れだ』


 先生が愚痴のようにいう。先生からしてみれば、折角与えた力は出来るだけ活用して欲しいようだ。

 実際先生がヒカルと融合したのも、その力を活かしてくれると思ったからだろう。


「お帰りなさいヒカル様。ご夕食はどうなされますか?」


 宿に戻ると美人女将が笑顔を振りまいて出迎えてくれた。

 この宿は値段の割に接客レベルが高い。

 いや、単純に見た目美人だからそう思えるだけかもしれないが――


『ヒカルは気が多いな』

『男とはそういうものです』


 もうヒカルは誤魔化さない。目の前に美人がいればテンション上がるのが正常な雄なのだ。


「夕食を頂きます」


「そうですか。ではそちらの奥の食堂へどうぞお進みください。夕食のご用意がありますので」


 美人女将に促され、ヒカルは一階の食堂に脚を進める。

 特に壁などで仕切られていないので、場所はすぐにわかった。


 食堂はそれほど大きなものではないが、間隔を開けてテーブルが並べられているので窮屈な気はしない。


 今の時間はお客が一人だけで、何かスープのようなものを啜ってる。

 あれが今夜のメニューなのだろう。


「お水をどうぞ」


 とりあえず適当に空いてる席に座ると、可愛らしい女の子が一人水をもってやってきた。

 見た目一五歳ぐらいの少女だ。この世界ならば既に成人扱いか。


 ただ――首についてる首輪から奴隷であることは判る。

 奴隷制度はこの世界では普通に活用されているようだ。


 ただこの少女に関しては暗い感じは見受けられない。接客だからといってしまえばそれまでだが。


「ただいまお食事をお持ちしますので」


 丁重な挨拶をし、パタパタと厨房らしきものが見える位置まで戻っていった。


 給仕を行っているのは彼女一人のようだが、席数も全部で四卓程度なので十分なのだろう。


 奥のほうでは少女と男性料理人が仲よさげに話をしている。

 料理人も若い感じか。その首にも首輪。どうやら料理人も奴隷のようだ。

 ただお互い笑顔がみえるあたり、人間関係は良好なのだろう。


 奴隷を採用しているのは給金の問題からなのかもしれないなとヒカルはふと思った。


 何せこの宿は随分と料金が安い。これで使用人など雇っていてはとてもやってられないだろう。


 それとなくフォキュアに聞いた話では、奴隷は衣食住さえ与えていれば特に給金を支払う必要もないようだ。


 その分初期投資は必要だが、それさえ済めば経費も安く住む。

 特に宿屋などであれば食事は余り物でもいいであろうし、衣類は制服みたいなもので事足りる。

 寝る場所も余った部屋を提供すればよい。

 

 そう考えると宿屋を経営してるものが奴隷を活用するのは当たり前ともいえるか。


「お待たせいたしました」


 そんな事をヒカルが思っていると、少女が料理を運んでやってきた。

 テーブルの上にスープの入った木製の器と、黒いパンの入った小型のバスケットのようなものを置いていく。


 そして準備が終わると、ペコリと頭を下げて戻っていく。


 夕食はあの客と一緒のようだ。スープなのは纏めて作りおきができるからだろ。

 これであれば一回の費用も安くすむ。


 スープの具材はじゃがいものような野菜がゴロゴロとはいり、あとは豆類が沢山浮かんでいる。


『この世界でもそれはじゃがいもと一緒だよヒカル』


 先生が教えてくれた。まぁ見た目にも同じなのでそうかなとは思ったが。

 主食となるパンは触ってみるとちょっと固い。


 ちぎってそのまま口に含んでみたが、やはり歯応えが強すぎで味もあまりない。


 だが、他の席の客がスープにつけて食べているのを認め、それに倣って試してみると、パンはちょうどいい感じに柔らかくなり、スープの味も染みこんでいい感じになった。


 パンが二個にスープだけというのは、少々物足りないきもするが、それでも地球で餓死しかけていたヒカルからしたら十分すぎるものである。


 食事を終え、美味しかったです、と告げて食堂を出た。

 部屋に戻ろうとすると女将が、良かったらお風呂もどうぞ、といってきたので拝借することにする。


 そこでヒカルは、そういえば下着の購入を忘れていた事を思い出す。


 ちょっと困った顔を見せていると。


「どうかなされましたか?」


 覗きこむような姿勢で訊かれた。ちょっとドキッとする。


「いや、シャツなどは購入したのですが下着の替えを買い忘れてたなと――」


 すると、あら、それでしたら、と女将が奥に引込んでいった。


 これは待っていろという事だろうか? と思いつつ所在なさげに立っていると、女将が戻ってきて。


「よければどうぞこれをお使いください」


 そういって男性用の下着を何枚か持ってきてくれた。

 ちなみにこの世界でもトランクス仕様が使われているらしい。


「え? これは――」

「はい。実は前の夫が使用していたもので、うちで働いてるものの大きさとも合わないのでどうしようかと思っていたのですが、よければどうぞお使いください。あ、勿論ちゃんと洗ってはいますので」


 前の夫というのがちょっと気にはなったが、確かにサイズは自分とよく合いそうだ。

 

「ありがとうございます。あ、それでいくらでしょうか?」


 ヒカルとしてはそちらのほうも気になる。何せもうあまり持ち合わせがない。


「いえいえ。これはどうせもう使わないものでしたので、引き取って頂ければ私としても助かります。なので料金はとくには頂きませんので」


 笑顔でそういわれ、ちょっと悪いかなとも思ったが、どうせ使用されないものなら再利用してあげた方が親切かもしれない。


「判りました。ありがたく使わせてもらいます。ありがとうございます」


 ヒカルがそうお礼を述べると、あらそんな、と女将が頬に手を添える。


「そんあ、お礼だなんて大したことではありませんのよ」


 といいつつ、なんか笑顔が深くなったなと彼女の顔を見る。頬もちょっと薄赤い。


「あの、ところでヒカル様は年上と年下はどちらがお好みで?」


 突然の質問に、え? と驚きつつ、ちょっと考えて回答する。


「あまり年には拘らないですね。好きになったらいくつでも――」


 まぁ、と女将は口元に手を添え、うふふっ、とどこか嬉しそうに口にしながらヒカルをじっと見つめてくる。


 なんかちょっと照れくさい。


「あ、ごめんなさい時間を取らせてしまって。お風呂でしたわよね。こちらになりますので」


 おかしな質問をしてくる人だなと思いつつも、ヒカルは女将の教えてくれた風呂に向かった。


 浴槽は六人ほどが一緒に入れるほどの大きさであったが、他に客もいなかったのでほぼ貸切状態で湯浴みを満喫した。


 お風呂から出て、さっぱりした顔で部屋に戻ろうとすると女将に、湯加減はいかがでしたか? と訊かれたので、最高でした、と応える。


「そうですか。ところでもうお部屋に?」


「えぇこのまま戻って床に就こうかと」


「そうでしたか。夜伽はどうされますか?」


 え!? と思わず素っ頓狂な声を上げると、女将は、うふふ、と悪戯っぽい笑みを浮かべ。


「冗談ですよ。どうそごゆっくりお休みください」


 なんだと胸を撫で下ろす。悪い冗談だなと思った。

 ヒカルは女将にお休みの挨拶を返し、部屋へと向かう。


『実は残念だと思ったんじゃないのかヒカル?』

『勘弁してください……』


 そんなやりとりを先生としつつ、部屋にはいる。

 結局部屋に入ったのはこれが初めてだったわけだが、感じ的には本当に寝るだけといった部屋である。


 木製のベッドが一つと、衣服や持ち物を入れておける箱が一つ。

 広さもそれにそぐう物だ。だが寝るぶんには問題はない。


 ベッドも少し硬いが、煎餅のような布団で眠り続けていたヒカルである。

 これでも十分上等なものに感じられた。


 そしてヒカルはベッドを眺めながら、ちょっとだけ女将との事を妄想してしまう。


 それを首を左右に動かし振り払い、ベッドに入り眠りについた。

 ヒカルのいた世界に比べれば随分早い時間での就寝に思えたが、色々とあった性か、ヒカルはすんなりと寝息を立て夢の世界に旅だったのだった。





「おはようヒカル」

「あ、うん。おはよう」


 次の日の朝、教会の鐘がなる頃を見計らってヒカルは待ち合わせに場所に向かった。

 ヒカルがたどり着くと既にフォキュアが待っていたので挨拶をしあう。


 フォキュアは昨日と変わらない装備で立っていたが、やはり改めて見ても可愛らしい。


「サルーサはきてないんだ?」


 なんとなく辺りを見回しながら問うようにいう。

 依頼はともかく、ギルドぐらいまではついてくるかと思ったのだが。


「あいつ朝が弱いのよ。別に約束したわけでもないし、待つ必要もないわね」


 なるほどとヒカルはちょっとホッとする。

 悪い男ではなさそうにも思うが、近くにいるとちょっとウザいとも思えるからだ。


 とりあえずいこっか、と言われたので頷いて一緒にギルドに向かう。


 宿はどうだったなどと訊かれたので、それに応えながら進んでいると、いつの間にかギルドの前に着いていた。


 そしてギルドのドアを開け中に入るふたりであったがその瞬間。


「おい! あの狐女が依頼をこなしたってどういう事だよ!」


 そんな怒号がふたりの耳に飛び込んできた――

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