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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
21/59

第四話 装備新調

 防具屋の店主であるキリングから、そのチュニックの説明をうけ、フォキュアが納得したように顎を引いた。


「へ~アルラウネから。それは珍しいわね。でも確かにそれなら判るかも」


「それってそんなに珍しいものなのかな?」


 ヒカルはその名前には詳しくはないのでフォキュアに問いかける。


「そうね。ヒカルの彷徨っていた森だと北の最奥でたまに発見されるけど、マガモノ自体も結構手強いし、アルラウネの潜む場所は他にも凶悪なマガモノが跋扈してるしね。そういうわけだから勇義士への依頼も中級の甲や乙がパーティ組んでやっとって感じよ」


『アルラウネか。蔦が集まって小さな人間のような姿をしたマガモノだな。あまり積極性はなく、マガモノだが人間には自分からは近づこうとしない。ただし人間が近くにいるのが判ると大気を操作して周囲から囁くような音を発し、人を道に迷わせる性格の悪いマガモノでもあるな。戦闘が免れないと察した場合は植物を操ったりしてこれもまた厄介だ』


 フォキュアと先生の説明をヒカルはほぼ同時に聴くことになった。

 まぁそのおかげで大体の事は判ったが。


「アルラウネから採れる繊維で作った服は、薄くても強靭でしかも軽い。単純な防御力なら質のいい鋼鉄の鎧に負けるが、衝撃に強いし、革よりも頑丈だ。それにアルラウネの特性である石化無効の効果もある」


 ヒカルはカウンターで広げられたチュニックを興味深そうに眺めた。

 確かに話を聞くぶんには希望に沿った代物といえる。


「でも石化を仕掛けてくるのはよっぽどの相手よね」


「強力な魔法か、もしくはマガモノのバジリスクあたりか。まぁまだまだお前が心配する相手ではないよな」


 フォキュアとサルーサの発言を聞く限り、どうやら相手を石化する魔法やマガモノというのは存在するらしい。バジリスクに関しては聞いたことがあるような気もするが、ただ見習勇義士のヒカルが遭遇するような敵ではないようだ。


「でもそれだけの物なら値段は結構張るのではないのかな?」

 

 ヒカルは一番重要な点を店主に訊いた。予算が合わなければ話にならない。


「そうだな。まぁフォキュアの知り合いということなら多少は負けてもいいが」

「おい! 俺の知り合いってのはどうなんだよ!?」


 しかしサルーサの訴えを軽く聞き流し、キリングが値段を告げてくる。


「まっ、金貨二〇枚ってとこか」


 ヒカルはその場で項垂れて肩を落とした。


「ぜっんぜん足りねぇ……」


「ぎゃははは! そりゃそうだ! こんないい品物が金貨一、二枚で買えるはずないよな!」


 サルーサがばんばんとヒカルの背中を叩きながら、何故か愉快そうに笑い出す。

 背中が痛いと目を細めるヒカルだ。


「なんだ予算が金貨一枚かニ枚か。それならそうといってくれ。それだと当然これは無理だな。だったら素直にレザーアーマーとかにしておくんだな」


「はぁ確かにそうだよな……それはお金をためてから考えるしかないか……」


「ためてから? まぁ目標を持つのを否定はしないが、これに関しては多分すぐ売れると思うぞ。今日出来上がってきたばかりだがらまだ店頭に並べてなかっただけで、明日には展示するしな。そうすれば寧ろ取り合いになってもおかしくねぇと思ってる」


 キリングの回答に再びその品物に目を向けた。確かにそれだけの物なら直ぐに売れてもおかしくないなと少し惜しくなるヒカルである。


『勿体無いな。これなら変身の邪魔にもならないしぴったりなんだがな。いっそ後で仲間に協力してもらって盗み出すか?』


 いや流石にそれはちょっと、とヒカルは苦笑する。本気で言ってそうだから怖い。


「……ねぇヒカル。これちょっと試しに着てみたら?」


 フォキュアの提案に、え? と目を丸くさせる。ヒカルのいた地球でなら気軽に試着は出来たが、買えないのを判っていてそれが出来るのか? とキリングに視線をやる。


「まぁそうだな。着てみるぐらい構わねぇよ。減るもんじゃねぇしな」


 割とすんなりと了解を得たことに驚いてると、フォキュアがそれを取り、はい、と手渡してくれた。


 ヒカルは、じゃあ、とアルラウチュニックを受け取りシャツの上から袖を通す。

 着てみるとまるで誂ったように身体に収まった。

 丈の長さも丁度いい。


 仕立直しは短くするほうが楽なので大きめに作られていたそうだが、それがヒカルにはぴったりはまった形だ。


「ふ~んいいじゃない。似合ってるわよ」


 フォキュアにマジマジと見られながら褒められ照れるヒカル。

 ただ色が黒と言うのは少し気になるところではあったが、これはアルラウネから採れる繊維の関係でどうしてもそうなるらしい。


「ねぇこれまかるとしたらどれぐらい?」


「あん? おいおい二〇枚でも結構なもんだぜ。本来は二五枚はとるとこだ。それにどっちにしろ金貨の一枚、二枚なら話にすらならないぞ」


「もちろんそこまで無茶は言わないわよ。でもほら、馴染みとしてもう少し負けてくれるとしたら」


 フォキュアは可愛らしくウィンクし、更にキリングの腕をとって媚びるように訊く。

 気のせいかサルーサの歯ぎしりの音が耳に届くが、ヒカルもキリングの腕に押し付けられた胸に目がいき、羨ましいと思ってしまう。


「ん、ま、まぁそうだな。フォキュアの頼みなら金貨一六枚まで負けてもいいが、だが――」

「オッケー、買うわ」


 キリングが話を言い終える前に、フォキュアが決断の意を示す。

 すると、ふぇ? とキリングが間の抜けた声を返した。

 

 ヒカルとサルーサも目を丸くさせる。


「だから私が買うってば。一六枚でいいんでしょ?」


「ちょ! ちょっと待て! それはあくまでその男が買った場合だ! フォキュア、お前が使うなら流石に仕立て直しで――」

「大丈夫よ。使うのはヒカルだもん」


 え!? と思わず叫び声を上げるヒカル。

 するとサルーサが、おい! と声を荒らげ。


「フォキュア! まさかお前、この野郎に、今日初めてあったばかりのこいつにそれをプレゼントするってのかよ! なんでだ! なんでそこまで! ま、まさかお前――」


 フォキュアに詰めより、喚き、指を突きつけわなわなと震える。

 ヒカルはヒカルで戸惑ったまま言葉が出ない。

 まさかフォキュアがお金を出すとは思いもしなかったのだ。


「ちょっとなんであんたが怒ってんのよ! それにただで上げるわけじゃないわよ。貸しよ貸し」


「はぁ? 貸し?」


「そうよ。ヒカルはこの装備一目見て気に入ったのよね?」


「え? あ、いや、まぁそうだけど」


「だよね。そういう感覚って結構大事だしそれに勇義士やるなら自分にあった装備が一番だしね」 

 そういってウィンクするフォキュア。可愛い……と素直にヒカルは思った。


「それに今買わないと売れちゃうでしょ? なんか勿体無いし、だからこれは貸しにしておいてあげる。返済は……そうね勇義士として稼いだぶんからでもいいし、何か行為でしめしてくれてもいいしそれは任せるわ」


 行為という言葉に悪戯っ子ぽい笑みを混ぜてフォキュアがいう。

 その言葉に思わずヒカルは頬を紅潮させた。


「おいてめぇ! その顔! いま変な事を考えただろ!」

 

 目ざといサルーサは速攻ヒカルに詰めより、険の篭った声をぶつけてくる。

 それに両手を振って、違う違う! と返すヒカルだが。


『ヒカル。行為の一言でそこまで妄想するのはどうかと思うぞ』

『先生そんなことまで覗かないで!』


 思わず泣きたくなるヒカルである。

 

「まぁ買ってくれるならこっちも誰が使おうと文句はねぇがな。その坊主が使うってなら男に二言はねぇ。金貨一六枚でいいぞ」

 

 フォキュアはキリングに金貨を支払い、そして本当にヒカルにそれを手渡してきた。


 申し訳なく思いながらも、お礼を述べる。


「なんか申し訳ないけどありがとう。出来るだけすぐに返せるよう仕事頑張るよ」


「うんその意気だよ。でもだからって無茶はしないようにね」


「あぁ」


「じゃあ折角だから着てみたら?」


 フォキュアに促され改めてヒカルは新しい装備に袖を通す。

 アルラウチュニックは試着したときと同じようにヒカルにぴったりでとてもしっくりくる。


 ただ黒というのはどうしても変身後の姿を思い浮かべてしまうが――


「うん。やっぱり似合うわね」


「でも上等すぎだろ。見習いなのにこんないい装備」


 サルーサの文句はともかくフォキュアに褒められるのは素直に嬉しいヒカルである。


 そしてその後は防具屋を辞去し武器屋に向かったヒカルだが。


「……やっぱここか。俺はここで待ってるわ」


 防具屋からそれほど離れていない位置に武器屋があった。

 建物の作りも防具屋と変わらないようで看板には武器屋ミッツとある。


 サルーサがなぜ入りたがらないのかは判らないが、そこにフォキュアと一緒に入った。

 すると――


「あ~ら、フォキュアちゃんいらっしゃ~い。て、いやだ誰この子~いい男ね。うふっ」


 店のカウンターに立っていたのは筋肉むきむきで何故か上半身が裸、そしてロン毛の男だった……いわゆるオネェ系というやつである。


 瞬時に背筋へ悪寒が走るのを感じた。サルーサが入りたがらないのも納得である。


「彼は今日勇義士になったばかりのヒカル。まともな武器をもってないから探しにきたの」


 フォキュアが説明するとふ~ん、と彼女とヒカルを店主が交互にみて。


「ねぇもしかしてフォキュアちゃんのコレ?」


 と手でハートマークを作る。少しドキッとするヒカルだが。


「嫌だミッツってば。そんなんじゃないわよ」


 右手を振りあっさり否定。ちょっとがっかりな気分でもある。


 そしてこの店主の名前がミッツであるとも知った。何故かはわからないがしっくりくる。


「ヒカルも取り敢えず手にとってみてみたら? 武器は自分で握ってみないとわからないしね」


「嫌だフォキュアちゃんってば。握るだなんて、イ・ヤ・ラ・シ・イ」


(何故俺にウィンクする!)


『ロックオンされたなヒカル』

『嫌なこと言わんといてください!』


「言ってることはよくわからないけど、ここは種類も豊富だから気にいるのもあると思うわ」


「あら初ねフォキュアちゃん。もしかしてまだ処女(バージン)?」


「な、何を言ってるんですかミッツさん!」


 顔を真っ赤にさせて語気を荒らげるフォキュア。

 その反応になんとなく更にドキドキしてしまうヒカル。


 とりあえず気を紛らわす為と本来の目的のため店内を物色する。

 とは言え武器と言っても何がいいかといったところか。


 店内は流石に武器屋というだけあって置いてある種類は豊富であった。

 壁にかけてある戦斧やウォーハンマー。

 複合武器であるハルバートのようなものも見受けられる。


 ただ壁に横向きに掛かっているのは、どれも大きかったり柄が長かったりと持ち歩くには不便そうだ。

 片手で扱えるようなものでもないし自分にはちょっと向いていないかなと考える。


 他にも弓やクロスボウも何種類かあったが、ヒカルは弓の経験がなく、クロスボウは矢のセットに手間が掛かる。


 フォキュアから借りてるナイフのようなものでもいいかなと見てみたりもしたが、あって便利かとは思うがメインで使うには心許ない。


 そんな中、一つ気になる武器を発見した。

 それは全長が一〇〇センチ程度の剣で、鞘から抜くと切れ味の良さそうな片刃の刀身が姿をあらわす。


 他の武器と違ってまるで日本刀のように刃が薄い。少し反りが入っているのが特にそう思わせる。

 ただ薄いからと脆いってわけでもなさそうだ。

 

 柄は片手用なのか短めで黒塗り。そして金色の鍔は持ち手を守るガードとなっている。


「あらあら結構おめが高いわねん。それは最近入荷したばかりの魔法剣で、アイオスサーベルよん」


 魔法剣? とヒカルは問うようにいう。

 そういえばフォキュアも魔法武器がとか言っていたと思うが。


「魔法剣は魔法武器のひとつね。ミスティック鉱石を利用して作られてるのが多いのよ。魔晶は耐久力に難があるから装備には使えないけど、ミスティック鉱石は他の鉱石と組み合わせて魔法の効果を付与出来るの。ただ魔晶と違って魔力を込めないと効果は発動できないという違いはあるけどね」


 なるほどね、とヒカルは頷き。


「良かったら振ってみてもいいわよん。魔力を込めてみれば違いもわかるしねん」


 ミッツにいわれ、ヒカルは剣を振ってみる。中々に軽いが――


「魔力を込めるというのはどうすれば?」


「あの魔力測定の時と一緒よ。水晶にやったみたいに集中してみて」


 言われてヒカルは手持ちの剣に意識を集中させる。するとガードの部分から光の盾のようなものが広がった。


「うぉ! これは!?」


「それがそのアイオスサーベルの魔法効果なのよ~。ガードが広がって防御範囲が増すわん」


 これが魔法の効果か、と改めてヒカルはその盾に目を向ける。

 大きさとしては自分の胸部を隠せる程度。

 盾を持ち歩かなくてもいいのは便利かもしれない。


「でもやっぱこれだと高いですかね?」


「う~ん、そうね。フォキュアちゃんの知り合いだし、あ・た・し、のタイプだし。おおまけにまけて、金貨一枚と銀貨五枚でいいわん」


 ヒカルは顎に指を添え思考する。

 現状手持ちのお金は金貨一枚と銀貨が九枚だ。

 予算としては足りる。

 支払うと残りは銀貨四枚になるが、宿は既に三日ぶん取ってあることを考えれば無茶な値段でもないが。


「できれば着替えとしてシャツやズボンも考えているんだけどそれはいくらぐらいかな?」


 ヒカルはフォキュアに尋ねると、そうね、と一考し。


「この後は、じゃあ一緒に市場にいこうか。まだ時間は大丈夫だと思うし。そこの安いお店教えてあげる。多分ヒカルが今着てるみたいなシャツで銅貨二枚。ズボンでも銅貨三枚で買えるわ」


 フォキュアの答えを聴き、それならばなんとかなると判断し。


「判りました。これ購入します」


 こうして武器と防具は無事決定した――

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