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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第一部 ゴッキー先生との出会い編
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第一話 どうやら異世界に来たらしい

「ここ、どこだぁ?」


 目覚めたヒカルは思わずそんな事を呟きながら頭を掻いた。


 どこか記憶がはっきりしない。頭もボーっとし倦怠感に襲われる。


 だがそんなはっきりしない頭を振りながら、自分の記憶を探る。


(そういえば俺アパートで、確かゴキを食って腹痛で――)


 少しずつ記憶もはっきりしたところで再度周りを注視する。

 意識が途絶える直前までいた筈のおんぼろアパートから景色は一変し、どうみてもどっかの森のなか。


 鬱蒼と広がる濃緑色の緑。己の身長より高い樹木達。

 そしてなんかウネウネしてる草花。


「うん、これは異世界だな」


 ヒカルは割りとあっさり納得した。とりあえず病院でないのは確かだし、こんなわけのわからない状況はそれしか考えられない。


 念のため頬は抓るが痛いのでまぁ夢でもない。常識的に考えればあの腹痛が致命傷になって死んだのだろうとひとり納得する。


 何せこういう場面はスマホでよく見ていたサイトの小説でも定番だった。

 貧乏で地デジ対応のテレビすら買えないヒカルであったが、スマホは一応もっていたので料金が払えなくなる直前まではよく読んでいたのだ。


 何せあれはタダだ。小説なんて買う銭があるなら牛丼食ってたヒカルにとってタダほど有難いものはなかったのである。


 それにしても世の中何が幸いするか判らないな、とヒカルは腕組みし唸る。

 何せ数多くの小説を読んだ身だ。

 

 こういった時の対処法はお手のものなのである。


「よっし! じゃあ早速! ステータス!」


――しーーーーーーん……


 ステータスは出なかったのだった。

 恥ずかしさにちょっぴり赤面したヒカルである。


 さてどうしたものか、とヒカルは再び思考の渦に身を沈める。

 こういう時は大体レベルアップとかだが、ステータスがないので意味が無い。

  

 ならばとりあえず森から出てピンチの奴隷でも救うべきか? 等々考える。


「う~んとりあえず」

「ブヒッ」


「うん、そうブヒッ」

「ブヒゥ」


「そうそうブニゥ……ブヒゥ?」


 気の抜けた風船のような音が背後から聞こえた。それに漸くヒカルが後ろを振り向くと。


 ブヒブホと鼻息奏でる豚の化け物。


 うんこれは見覚えがあるな、とまじまじと眺め、

「オークだな!」

と指をさす。


 それに頷くオーク。

 やっぱりぃ~、と喜ぶヒカル。

 

 豚の頭を持ちサイズピッタリの革の鎧を身に纏い、手には剣を持つオークである。


 うんこれぞテンプレ。

 

 だがそんな呑気な思考を巡らしてると、オークがその剣を大きく振りかぶり――


「あ、靴紐が解けてんな」


――ブンッ!


 頭の上を通りすぎてく禍々しい刃。そして割れる空間弾ける森。


 すさまじい轟音が背中を打つ。大気が揺れ肌にビリビリした感触。


 ふと後ろを覗き見ると、森の一部が完全に消滅していた――





「流石に冗談じゃねぇええぇえ!」


 ヒカルは逃げていた。何からって勿論オークからだ。

 こんなの予定と違う! とこれまで読んできた小説の作者にばかやろーと叫びつつ、群がる枝も何のその地面に飛び出した根をハードル競走の如き跳躍で躱しながら、とにかく逃げる逃げる逃げる。


 そして大分走ったところで、いけたかな? と後ろを覗き見ると――


「ぶふぉぶふぉぶふぉぶふぉおおぉお!」


「しつけぇえええぇええぇ!」


 生まれてこの方全力で走った経験などあっただろうか? いやない! はっきりと断言できる。


 そもそもヒカルの生きてきた時代では全力で走ることがナンセンスだ。

 そんなのはオリンピックで金銀銅とメダル取りやがる選手にでも任せておけばいい。


 だが今はそんな事を言っている場合ではない。

 足を止めたらきっと食われる。勿論食欲的な意味で。性欲的な意味なら更に冗談じゃない。


 しかし生まれて初めての全力疾走が豚に追われてるからとは、流石異世界というべきか。しかしだったらせめて美少女獣人にでも追いかけられたい。


 ただ唯一救いだったのは相手が結局のところ豚であるという事か。

 その為足は決して速くはない。ヒカルでもなんとか逃げ切れてるほどだ。

 

 いやもしかしたら豚として見るなら速いのかもしれないが、とも思うがその認識は間違いである。実際は豚は結構速い。寧ろ二本足だから逆に遅くなっていると思うべきかもしれない。


 そして更に走ること恐らく一〇分ちょい。

 ヒカル中々の体力であるが、とにかく森の切れ目が見えてきた。


 チャンス! とヒカルここで更に加速する。森から出てしまえばなんとかなるかもしれないと思ってのことだ。

 平原に出れたならもしかしたら街道ぐらい走ってるかもしれない。


 それであれば、豚に追いかけられてる人がいれば助けてあげるのが異世界人ってものだ、と勝手に異世界の親切願望を抱き走る、走る、走る!


 そして森をついにでたと思ったその直後――希望は絶望に変わった。


 目の前に聳え立つ断崖絶壁。しかも左右かなり先まで続いている。

 つまりこれはほぼ行き止まりなのである。後ろからはあのオークが迫ってきてる状況でこれはヤヴァイ。


 呆然として立ち尽くす。だが時間がない。どうするべきか考える。ただ一つだけこれだけはやってはいけないと思える事がある。

 

(それは振りかえることさ!)


 そう。こういうときホラー映画なんかでは振り返った瞬間頭を叩き割られるなどよくある話。


 だから決して振り返ってはいけないのである。無論それは過去も一緒だ。人は今と未来に生きていくべきなのである。


 その時ふと落とした視線の先に、あるものを見つける。それは穴。 

 そう絶壁の地面すれすれに近い位置にひっそり穿かれた半円状のスペース。


 これは僥倖か! とヒカルは思わず屈みこみ、その穴に身を預けた。

 中々小さな穴だが無理すれば通れないことはない。


 どうせこのまま何もしなければオークに食われるか、ア"ーーーーな事になるだけである。

 そんなのはまっぴらゴメンだ。

 

 ヒカルは気分は狭い隙間に入り込むゴッキーの気持ちになって腹ばい状態で穴に潜り込む。

 途中引っかかる感じもあったが何とかその穴を通り抜けた――

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