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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
19/59

第二話 ギルド登録

「魔剣を持ったオークを倒してしまうなんて凄すぎますよ!」


 受付嬢が大きな果実を揺らしながら興奮した口調で言う。

 その様子にフォキュアは慌てて両手を左右に振った。


「違う違う! 今いったけど倒したのは私じゃないからね!」


 え? と首を傾げる受付嬢。そこにフォキュアが再度丁重に補足した。

 ちなみに倒した張本人であるヒカルは少しだけ動揺している。


「なるほど……でもだとしたら危なかったですね。フォキュアさんの身に何もなくて良かったです」


「まぁ結果的にそうなんだけどね。でも危なかったのは確かよね、変な黒い悪魔みたいのもいたし」


 フォキュアがため息混じりにいうと、受付嬢はむむむっ、と唸り。


「その黒い悪魔というのは初めて聞くタイプですね。マガモノでしょうか?」


「判らないわね。ただその可能性は高いと思う。とにかく不気味な奴で目も真っ赤で身体も脂ぎってて触覚とか生えてて思い出しただけで――」


 フォキュアは両肩を抱くようにして震えだした。

 そこまで!? とヒカルは落胆する。表情には出さないが。


『全くこの娘にはあの素晴らしさが理解できないのであろうか。見る目のない女だ』


先生の文句が脳内に響いた。

 一万年という時を得て漸く達成できた能力である。それを不気味やら気持ち悪いやら言われれば不機嫌になるのもわからないでもない。


「そのバケモンなら俺もみたぜ。こういっちゃなんだが、あれはニ、三人殺っててもおかしくねぇ危険なやつだぜ」


 横からサルーサが口を出し、フォキュアの話に余計な補足を入れた。

 自分の依頼完了の手続きをしていたはずだが、どうやらそれは終わったようだ。


「サ、サルーサさんも見たのですか! で、でもギルドにはまだそのような被害報告はでていないですね……」


 サルーサに目を向けた受付嬢の頬が紅く染まる。

 もしかしてこの男は意外とモテるのだろうか? とヒカルがチラリと覗き見る。


『普通こういうのは主人公にニコポ、ナデポ、されるもんじゃないのか? ヒカルの立場がないだろ』


『先生妙な知識つけすですよ。あと別に主人公が俺ってわけでもないですし』


 脳内小説読み漁りすぎだろ、とヒカルは嘆息を付く。


「でもヒカルは襲われたんだよね?」


 えっ! と思わず仰け反るヒカル。

 その姿をフォキュアが不思議そうな目で見てくる。


「あ、いや、襲われたというか突然現れてビビって逃げちゃった感じかな~あはは……」

 

 とりあえず苦笑交じりに返しておくことにした。


「ふん、情けねぇな。俺なら即効で斬りかかるぜ」


 物騒だな! とヒカルは心のなかでツッコミを入れる。

 変身した状態では、出来るだけこいつと顔を合わせないほうがいいだろう。


「どちらにしてもその件に関しては報告書を提出しておくことにします。後は魔剣とオークについてですが」


「あぁそれならこの魔晶にいれてあるわよ」


 フォキュアはポーチから例の水晶を取り出し受付嬢に手渡した。


「了解しました。これは直ぐ鑑定に回しますね」


「ありがとう。あ、その一つに依頼のあったコラーゲル草も入ってるから。それと――」


 そこでいったん区切り、首を巡らす。

 澄んだ碧眼がヒカルを見上げ。


「ヒカルもイエーレの素材を渡しておくといいわよ」


 見つめてくる視線に若干照れていると、フォキュアからの勧め。

 確かに素材だけ持ち歩いていても仕方ないのは事実だ。

 

 それに話によるとこういったマガモノの素材はギルドでしか買い取って貰えないらしい。

 特殊な処理を施さないと普通の素材としては扱えず、その処理が出来るのはギルドの人間だけだからだそうだ。


「それじゃあお願いします」


 ヒカルはフォキュアに言われたとおり、彼女から譲り受けていた魔晶をカウンターの上に置いた。


 すると受付嬢がそれらの魔晶を小さなトレイに分けて、後ろに控えていた人物に、お願いします、といって渡す。

 どうやら奥の扉横で立っていた眼鏡の人物が鑑定の役を担っていたようだ。


 扉を空けて中に引っ込んでいったので、そこから繋がってる部屋で鑑定というのをするのだろう。


「さて、それではその間にヒカルさんでしたか? 貴方の登録を済ましてしまいましょうか」


「おう。フォキュアからも説明があったと思うが、まぁこいつは俺やフォキュア程腕もないし、まだまだ頼りがいもねぇが、それでもまぁその辺の柔い野郎なんかよりは小指一本分ぐらいはマシだからな。俺からも一応推薦しておいてやるよ」


 こいつは本当に俺を勇義士にするつもりがあるのか? と思わず訝しげに眉を顰めるヒカルである。


「あんた本当にそれで推薦してるつもり?」


 腕を組み呆れたようにフォキュアが言う。

 確かにとても推薦しようという人間の言い方ではない。


「サルーサさんがそう言われるなら間違いないですね」


 と、思ってたら受付嬢が笑顔を浮かべ音符が飛び出そうな声音で同意してくれた。


「……ま、まぁ登録出来るなら早くさせてもらうといいわね」


「あぁ、はい」


「それではヒカルさん、先ずはお名前をお聞きして宜しいですか?」


「え~と、ヒカル・クロクです」


「へ~、変わったお名前ですね」


 まぁそう言われるのもこういった異世界ではありがちだなと思考する。


 そしてそれから受付嬢からは特技や簡単な読み書きが出来るか、魔法の心得があるか? 等が質問された。

 

 それらの回答を基本受付嬢が羊皮紙のようなものに書き込んでいく。

 ただ読み書きが出来るという回答を聴くと、紙に書いて見るよう言われたので、ヒカルは言われた言葉を出された用紙に記入した。

 異世界の言語も理解できるようになっていたので筆記も特に問題はない。


「うわ~凄いですね。勇義士では読むのはともかく、書くのは出来ないって人も結構多いのですよ」


 褒められたが正直どう気持ちを表現していいか判らないヒカルである。

 彼にとっては小学生レベルの簡単なことなので、それを今更褒められてもしっくりこない。


『ヒカルの知識でいうところの識字率ってのは、貴族以外はそんなに高くないからな。それも仕方ない』


 先生は意外とそういう細かいこともよく知っている。


「ちっ、少し文字が書けるぐらいで調子にのるんじゃねぇぞ」


 サルーサが悔しそうにいった。どうやら彼は文字が書けないらしい。

 それを聞いて少しだけ優越感に浸る。


「フォキュアさんは書けましたよね」

「まぁ少しはね」


 この状況でその回答を聞くと、彼女がかなり優秀な人材に思えてくるヒカルである。


「後は魔法の心得はないということでしたが魔力の測定をされたことは?」


「え? 魔力ですか? それはないですね」


「そうですかそれでは――」


 受付嬢はそういってカウンターの上に彼女の顔ぐらいある水晶球を置く。


「これは魔力を測定する水晶です。この上に手をかざして意識を集中させてみてください。それで魔力量が判ります」


 地球からきた自分に魔力なんてあるのかな? と思いつつ、ヒカルは水晶に手を翳した。

 すると水晶がじわりじわりと輝きを増し、最終的には青白い光が辺りを照らす。


「青い光ですか! 結構強いですね。あ、もう大丈夫ですよ」


 受付嬢にいわれ水晶から手をどけると光が消えた。

 ヒカルはマジマジと自分の右手を見つめた後、あのこれは? と結果の意味を訊く。


「はい。ヒカルさんの魔力量は結構高いみたいですね。普通は白い光なのですが魔力が強くなると青、銀、金の順で色が変化するのです」


「え? それだと下から二番目でそんなに凄そうでは……」


「いえいえそんな事はありませんよ。普通は白い光が淡く輝く程度だったりでそれほど強くは発光しないのです。その白でも水晶全体から発光出来る程度の魔力があれば魔術師としてやっていけると言われています。青い光がこれだけ強いなら、ヒカルさんも魔術師としてやっていける可能性が高いですよ」


 にこやかにそんなことを言われるがいまいち実感の沸かないヒカルである。


『まぁ私と契約をしたヒカルならこれぐらいの魔力は当然だけどな』


 なるほどと合点がいった。先生のおかげというなら魔力が宿っているのも理解が出来る。


「ヒカルは十分凄いよ。サルーサなんてほんの少ししか光らないんだから。勿論白色でね」


「う、うるせぇな! 魔法とかなくたって俺は強いからいいんだよ!」


 強がるサルーサを見てフォキュアがクスクスと笑った。

 そんなフォキュアの事がヒカルは少し気になり。


「フォキュアはどれぐらいなんだい?」


「私は銀ね。でもそこまで強くは光らないわ」


 銀というと上から二番目だ。彼女のスペックの高さに改めて驚かされるヒカルである。


「フォキュアさんの魔力量があるなら魔法とか覚えれば強そうなんですけどね」


「ダメダメ。私達黄狐族は魔力はあっても詠唱とか苦手だし。まぁその分魔法武器を有効利用してるわ」

 

 受付嬢が勿体無いといわんばかりに告げるが、彼女の返しを観る限り、ただ魔力量があるから魔法が使えるというわけでもなさそうである。


「さて、とりあえず大体の事は判りました。後はこれから勇義士の証明となるプレートを作成してお渡しいたします。ですがその前に簡単にギルドについてご説明いたしますね」


 ヒカルはカウンターを挟んで対面する受付嬢に向かって首肯する。


「先ず勇義士ギルドというのは正義と勇気を志した者を勇義士とし、人々や時には国から依頼を受け、それを登録いただいている勇義士の皆様に斡旋する組合です。依頼は雑用的な業務からマガモノの討伐など多岐にわたり存在しますが、勇義士の方はそれらの依頼からご自分にあったものを選んで頂き解決の為取り組んで頂くことに成ります」


 ここまではヒカルの知っている冒険者と殆ど同じであり理解に苦しむことはなかった。

 正義と勇気というのが少し臭くも感じられたが。


「なお勇義士には最初は見習から初めてもらいますが、ある程度依頼をこなすことによりギルドの判断でその実力に見合った(クラス)が与えられます。ちなみに依頼には級の指定というのがある場合がありますので」


 この級というのはヒカルにはあまり馴染みのないものであった。

 だいたい見た小説ではFランクからSランクというものが多かったからである。


「級に関しては級なしの見習の後は、下から初級、中級、上級、特級となっております。また見習いを除き各級で更にギルド内で甲・乙・丙と評価わけもしています。ただ特級に関しては丙でも一〇年に一人出るか出ないかというぐらい条件が厳しいですけどね」


「ちなみに私とサルーサは中級勇義士の乙ね」


 フォキュアの話に頷きつつ。


「そうなんですか。この街には特級の方はいらっしゃるのですか?」

 

 ヒカルが何となく質問すると、とんでもない! と受付嬢が右手と首を振る。


「特級ぐらいなられると王都などの大きな街に配属される事が多いのです。この街では一番上のクラスで上級勇義士の甲乙丙が一人ずついるだけですね」


 なるほど、とヒカルは軽く頷く。

 確かにそれほどの人材であれば仕事内容も特殊な事が多いのかもしれない。


「さて依頼に関してですが、指定なしの場合はそこの依頼板などでも特に何も表記がありませんが――」


 受付嬢がそういってボードに下げられている板を指さした。

 やはりこれが依頼関係だったらしい。


「そこの条件に例えば中級以上と書いていた場合は、最低でも中級以上の勇義士でなければ依頼をうける事は出来ません。勿論そこに更に甲・乙・丙の指定があればそれにも従って貰う必要があります。また中には人数指定のもありますので依頼板はよく確認するようにしてください」


「わかりました」


「それとこれはすぐには必要のない情報と思いますが、そこのボードに掛けられているのは中級までの依頼のみです。上級以上のものになると特殊な依頼が多く、情報の漏洩を防ぐため直接のご案内しかできなくなります。また中級でもそういった秘匿案件はそのボードには掛かりません。そして当然ですがそういった依頼を受けた勇義士がそれを外部に漏らすような事があった場合処罰の対象となります」


 まぁそれは当然だろうな、とヒカルは頷く。


「ここまでで何かご質問は御座いますか?」


「いえ、大丈夫です」


「なんか懐かしいわね。私達もこれ聞かされたわ」

 

「あぁ俺なんて半分以上聞き流してたけどな」


 あんたねぇ……とフォキュアが呆れた声で呟く。

 だがサルーサはなんとなくイメージ通りだ。


「ま、まぁサルーサさんはそれでもしっかり理解されてますからね」


 この受付嬢、サルーサへの反応が早いなとヒカルは苦笑し、そして受付嬢の説明は続いた。


「依頼の内容に関しての説明を続けますが、依頼には個別依頼と開放依頼があります。個別依頼というのは依頼を請けた本人やパーティしか仕事に関われないもの。開放依頼というのは誰でも依頼に望めるタイプです。例でいうと護衛などは個別依頼でそれに対しマガモノの討伐などは開放依頼になることが多いです。個別依頼の場合は請けた本人が達成証明を持ち帰る必要がありますが、開放依頼の場合は指定されている部位や物を持ってくれば誰でも依頼達成として扱われます」


「ちなみに私の請けたコラーゲル草の採取は開放依頼だったんだけど、あのオークの事があって誰もやりたがらなかったのよね」


 フォキュアが肩を竦めるようにして口を挟んだ。

 魔剣のオークに関しても開放依頼だったようだが、魔剣が関わってる事は不明だったため、特殊扱いでもあったようだ。


「さて勇義士についてここからは注意事項となりますが、まず勇義士は依頼者の個人情報を決して口外してはなりません。また依頼主からギルドを通さず直接依頼を請ける行為も禁止しております。これは過去に依頼者の情報を売ったり、また勝手にギルドを通さずに依頼を請け多額の報酬を請求したり、依頼内容を逆手に脅迫まがいのことをしたりした不届き者がいたからです」


「勇義士の風上にも置けない奴らだな」

「そうね」


 サルーサが眉間に深いシワを刻み、フォキュアも表情を曇らせた。

 どこの世界にもルールを守れない不貞な輩というのはいるものである。


「確かにお二人の言うとおりですね。ですので今は依頼者に当ギルドの職員が確認にいったりもしているぐらいです。そういった行為をしたとしてもすぐに判るようにと。勿論それが発見されれば理由の如何に関わらず処罰の対象となりますのでヒカルさんもご注意ください」


「わかりました」


「それではこれが勇義士の証明となるプレートです。これも念のためですが譲渡などは出来ませんのでご注意を。また紛失や盗難にあった場合は直ぐにご連絡ください。その場合は新たに再発行手続きをとりますので。但しその場合は再発行の手数料として金貨一枚を請求させて頂くこととなります。ですので決して紛失されないよう大切にお持ちください」


 金貨一枚というと、この世界では結構な大金な気がするな、とヒカルは受け取ったプレートをマジマジと眺める。


 片手に収まる薄い銀のプレートで、角に一つ小さな穴が空いていた。

 そしてプレートの表面にはヒカルの名前と級が異世界の言葉で刻まれている。


「その穴に鎖を通して首に欠けてる勇義士も多いわね」


「あぁなるほど。そうすれば失くさないかもですね」


「馬鹿。首なんて引きちぎられたらどうするんだよ。それだったら腕に巻き付けとくほうがマシだぜ」


「まぁその辺は人それぞれだけどね」


 ヒカルはとりあえずその件は後で考えることにする。


 すると奥の扉が開き先ほど鑑定にはいっていた職員が戻ってきた――

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