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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第二部 勇義士の黒い悪魔編
18/59

第一話 勇義士ギルドへ

第二部となります

『全く待ちくたびれちまったぜ!』


 柄だけになった魔剣が喚きだした。その柄を見つめるは目深にフードを被った、黒ローブの人物。

 

 右手には禍々しい形状をした杖。

 ローブに隠れており体型は掴めないが上背は高い。


「……酷い有様だな」


 くぐもった低い声で口にする。その声色は男のものだ。

 押しつぶすような威圧感の篭った重苦しい響きである。


『ケケッ、ちょっと油断しちまってよ。てか拾ったのが悪いぜ。やっぱオークじゃだめだ。あんなのじゃ俺の力は使いこなせねぇよ』


「…………」


 魔剣ナルムンクの言い訳がましい弁解はそれからもなお続いていたが、黒ローブの男はそれを黙って聴き続けていた。


『なぁ、当然俺の事はまた直してくれんだろ? あの野郎にお返ししてやんねぇと俺の気がすまねぇよ!』


 怨嗟の言葉をまき散らすナルムンク。

 すると男は柄を取りマジマジと眺める。


『おいおいあんまみんなよ照れんだろうが。まあいいやそれより――』


「失敗作だな」


 フード越しに発せられた押しつぶすような声。

 それにナルムンクが、へ? と間の抜けた声を返す。


 直後、男の手が禍々しい光に包まれ、ナルムンクの残った柄を強く強く握りしめる。


『ナッ!? ま、まさか! どうして! 俺は、俺はまだ、ま、だ、ガッ! ぢ、ぢぐじョおおヲぉおおおーーーーーー!』


 パリーンという高音と共に残った柄は粉々に砕け散った。

 男の手には一欠片の黒水晶のみが残った。

 その水晶を翳すようにして眺めた後、男は踵を返しきた道を引き返し始める。


「ブフォオオォオオ!」


 そこへ横からオークが飛び出し、棍棒のようなものを振り上げた。


「邪魔だ」


 だが男が一言呟くと、オークの全身から闇の炎が吹き溢れ、悲鳴を上げるまもなく燃え尽きた。


 そして男はまるで何事もなかったかのように脚を進め森の奥へと消えていくのだった――






◇◆◇


 森を出てしまえば街まではそれほど苦もなく辿り着くことが出来た。

 街道が走っていたのでそれを辿っていった形である。

 フォキュアの話ではチャンバーネというのがこの街の名称らしい。


 街の規模としてはそれほど大きくもないらしいが、それでもこの近辺では尤も栄えているようだ。


 街の周りはヒカルも物語でよくみていたが、石造りの壁で囲われており、門の前には衛兵がしっかりと立っていた。

 

 壁は高さが一〇メートルぐらいはありそうだ。

 門は木製で街道からそのまま繋がっている。

 馬車なんかも通るためか門は結構大きい。

 

 ちなみに三人で街道を歩いている時にも前後から何台かの馬車とすれ違った。

 小さなものから幌付きのそこそこの大きさのまで様々だ。

 

 そして門の前で衛兵のチェックを受け終えた馬車が、二台横並びで門をくぐり抜けたところで、手の空いた衛兵にフォキュアが声を掛ける。


「勇義士のフォキュアです」

「右に同じくサルーサだ」


「あぁなんだお前たちか。そういえば朝から依頼で出てたんだったな」


 そういいながら、衛兵はフォキュアとサルーサがそれぞれ取り出したプレートのようなものを確認する。


「まぁわざわざ見るまでもないな。通っていいぞ。ただ、そっちの男は何だ?」

 

 衛兵が聞いてきたのは当然ヒカルの事である。

 随分と疑わしいものを見るような眼でじろじろと見られている。


「彼は森のなかで彷徨っているところを――」


 ヒカルの事はフォキュアが上手く説明してくれた。

 衛兵は、あの森を一人で!? と随分と驚いている様子である。

 まぁ魔剣を持ったオークや、化け狸や鹿の怪物みたいのが跋扈している森だ。

 それも当然かも知れないが。


「――というわけで勇義士志望ということで一緒にギルドに連れていきたいのだけどいいかな?」


「勇義士志望か――」


 衛兵はフォキュアの言ったことを繰り返し、ヒカルに視線を走らせ値踏みするような目を向けてくる。


「そんなに強そうにも思えないが、まぁあの森を切り抜けたならそれなりの腕はあるのだろう」


 中々失礼な話だと思うヒカルである。

 自分としては先生のおかげでかなり逞しくなったつもりでもあるのだが、それでも衛兵などを受け持っている連中からしたら頼りなさそうに見えるものなのかもしれない。


「まぁいい判った。勇義士ふたりの認める者なら問題はないだろ」


「いや、俺は別に認めて――」

「サルーサ!」

「わ、わ~ったよ」


 サルーサが茶々をいれようとしたが、フォキュアが叱るようにいい彼の言動を止めた。


「くれぐれも街中でトラブルを起こすんじゃないぞ」


 衛兵にそんな言葉を投げかけられながら門をくぐり抜ける。

 よそ者に対しての警戒心は強いようだった。

 フォキュアが一緒にいてくれてよかった、と心から安堵するヒカルである。


『チャンバーネか。久しぶりに来るがあまり代わり映えしないな』


『前も訪れた事があるんですか先生?』

『そりゃ一万年も生きていればな』


 長生きしている分、先生はわりとあっちこっちを旅して回っていたようだ。

 結構アウトドア派である。ただ、今はヒカルの中で小説を読みあさるインドア派に変わっているが。


 門を抜け街なかを三人で歩く。右も左も判らないヒカルはふたりに付いて行く形だ。

 街に関してはヒカルのイメージした感じがピッタリはまった。

 

 馬車が二台並列しても余裕がありそうな程の往来には甃が敷かれ、道沿いには木造の建物が並ぶ。

 その建造物の多くは二階建てであったり三階建てであったりするのが多い。


 三角屋根の建物も見受けられるが多くは箱型のタイプである。

 そしてそれらの建物の多くは隣り合って隙間なく並んでいる。

 路地の見えるところだけは多少は間隔が空いているが、精々大人が一人通れるぐらいの物である。


 街なかを歩いている人の数は結構多い。遊んでいる子供の姿も見受けられる。

 街の中央には広場が儲けられていて待ち合わせなどによく利用されてるようだ。


 その広場を中心に西側には市場が儲けられていて、ここに住んでる人はそこで食材などを買い込むらしい。

 宿屋などはこの南の通りでも何軒か発見する事ができた。

 

 ただ門は東西南北に一箇所ずつあるので、それぞれの門から走る通り沿いには大体宿はあるらしい。

 

 とは言えヒカルは今は一文無しなので先ずはそれをどうにかしないといけない。


 広場で話をし、先ずは東の通り沿いにあるという勇義士ギルドに向かうこととなった。

 早めに登録しておいた方がいいだろうという判断である。


 時間的にも太陽はかなり西に傾き空の色も変わり始めている。

 少し急いた方がいいだろう。






◇◆◇


「ここが勇義士ギルドよ」


 ふたりの言うギルドは広場から三〇分程歩いた位置にあった。

 箱型の建物なのは街に多くあるタイプと同じだが、木造ではなく煉瓦造りである。


 二階建てで入り口の扉は向かって左側に設置してある。

 その扉の上には板状の看板が掛けられており、異世界の言語で勇義士ギルドと刻まれている。


 ヒカルには不思議と、この言葉が判った。

 いや、よく考えてみればフォキュアと初めてあった時から言葉は判っていた。


 日本語としてではなく異世界語として。初めてあったのが先生でそのときから普通に言葉が通じていたから気にもしてなかったが、冷静に考えたら不思議な話である。


 ただ先生の言葉とフォキュアたちの言葉には違いがあった。

 先生の言葉が判ったのとフォキュア達の言葉がわかったのは別の影響か。


 理由として考えるならば、転生した時にまずゴキブリと会話する能力が身についていて、その後先生と融合した事で異世界語が理解できるようになったといったところなのかもしれない。


 ただ言葉がわかることは得こそあれ損はない。

 あまり細かい事は気にしないでおこう、とふたりの後から建物の中に入った。


 ギルドの中は外から見るよりも広く感じた。天井も高いため圧迫感のようなものはない。

 床はフローリングのようになっていて、掃除が行き届いているのか中々に綺麗だ。


 向かって正面には横長のカウンターが設置されており、中には数人恐らく受付を任されている人物が立っている。

 男もいるが受付嬢のほうが多そうだ。ただ男に関しては中々に逞しい体つきをしている。


 何かあったときのボディーガードみたいなものなのかもしれない。

 またカウンター奥の扉横には眼鏡を掛けた男性の姿も見受けられた。

 その人物に関しては髪を後ろに撫で付け、役所の人間のような真面目な雰囲気を感じさせる。


 見た目には細く、肉体作業には向いてそうにないうえ、受付担当にも思えないので何の役目を担っているのかはヒカルには理解が出来ない。


 何はともあれカウンター前では今も何人かの受付が勇ましい格好をした者達の対応に追われている。結構忙しそうだ。


 左側の壁にはボードのようなものも設置されていて、そこには何か文字の刻まれた板が掛けられていた。


 そしてそのまま右に視線を移動させる。

 上に続く螺旋階段と、奥には四人がけの木製テーブルが数卓置かれていた。


 席はほぼ埋まっていた。

 座っているのは大体が鎧を着ていたり武器を所持していたりするので、彼らもやはり勇義士なのだろう。


 そんな感じで目線だけであたりを観察しつつ、フォキュアとサルーサを先頭に、空いている受付嬢の前まで進む。


 サルーサとフォキュアは依頼が別々なので一旦ここで別れた。

 ヒカルはフォキュアの紹介という事になるので、彼女の斜め後ろについて話を聞きながら様子を眺める。


「フォキュアさんお帰りなさいませ。依頼の完了報告ですか?」


 カウンターを挟んだ先にいる受付嬢は、ウェーブの掛かった金色の髪を肩まで伸ばした可愛らしい女の子であった。

 見た目には十代後半ぐらいか。髪色と同じゴールデンアイがフォキュアとヒカルを交互に捉えたが、とりあえずはフォキュアとの話を優先させている。


 青と白のツートンカラーのドレスは他の受付嬢も着ていることから制服のようなものなのだろう。

 ちなみに男の受付はタキシードのようなものを着衣している。


 露出度はそれほど高くはないが、それでも布地の上からはっきりとしたふたつの膨らみが浮かび上がっており、もしかしたらフォキュアよりも大きいかもしれない。

 尤も胸だけではなく受付嬢は上背もフォキュアよりは高い。

 ヒカルには負けるが、その為話をする時は若干フォキュアが見上げるような形になっている。


「えぇ、依頼の完了報告も勿論なんだけど今日は彼も勇義士として登録したいというからその件もあってね」

 

 フォキュアがヒカルを一瞥しながら受付嬢にそう告げる。

 すると再び受付嬢の視線がヒカルに向けられた。


「フォキュアさんのご紹介という形ですか?」


「それでいいわ。一応経緯を説明すると――」


 フォキュアが受付嬢に森であったことの説明を始める。

 要点だけを上手くまとめた判りやすい説明だった。


 そして話は魔剣オークのことに関してまで言及される。

 それに関しては受付嬢も相当驚いて眼を丸くさせていた――

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