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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第一部 ゴッキー先生との出会い編
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第九話 生身での戦闘を終えて

「肌色意外はまるで原始人だな――」


 自らの腕で初めて(・・・)倒した敵を見下ろしながら、ヒカルがボソリと呟いた。

 

 小人というだけに改めてみてもやはりどれも背は低い。グリーンの名の通り肌も黄緑色で、顔が大きく目が窪みがかり顎と口が前に若干突き出ている。


 全体的にはヒカルの知る限り猿人に近い様相だ。


 そしてそれぞれの手には簡素な武器が握られていた。

 一体は最初に倒した敵と同じ斧で、恐らくその辺の枝で比較的頑丈そうなのを選び、加工して柄にしてるのだろう。

 

 加工といっても褒められるような出来でもなく、取り敢えず握って使えればいいぐらいの代物だ。

 そして先端には鉄、ではなく黒曜石を砕いて磨き上げた物を太めの蔦で括りつけている。

 磨製石器に近い形だ。


 もう一体が持っているのは槍で、これも柄は樹の枝を加工して、先端を鋭くさせた黒曜石の刃を蔦で縛り付けたものだ。

 先端は中々に鋭いが、刃はないため完全に突く専用の武器となっている。


 二体ともに仲間のゴキブリの協力もあって、結局武器を使う暇さえ与えられなかった為、其々の武器は痛みなく残っているが、流石にこれを拾って使おうとは思えなかった。

 そもそも彼らの武器はヒカルが使うには少々小振りすぎる。

 

 さっきの二体も似たようなものなので、これであれば今のナイフを借りたままにしておいが方がいいだろうとヒカルは考える。


 それにしても、とヒカルは顎を擦りつつ、脚を前へと進めていく。

 彼女の事が気がかりだったからだ。


 そして歩きながらも思考を巡らせる。

 最初にオークを倒した時、そして今回リトルグリーンを倒した時もそうだが、全く忌避感がないのだ。

 

 それでもオークはまだ見た目が豚である為と納得するつもりだったが、リトルグリーンに関しては肌の色と背の小ささを除けば猿人ぽくもあるが人に限りなく近い。


 そんな相手を殺したのに気持ち悪くもならなければ冷静に状況を確認したりもしていた。

 そんな自分が信じられなかった。


 自分の心が心配になるほどだ。

 だが、その時脳裏に先生の声が響く。


『ヒカル、これはいってなかったけど、お前は私と融合した事で一部の感情に変化が出ている。といってももう判ってると思うけど、相手を殺すことに特に何も感じないのはその影響だ』


 え? と思わず声を漏らす。

 そして心で、どういう事ですか? と問いかけた。


『ヒカルの感情に私達みたいな虫の気持ちも紛れてるってことだ。ただ融合は私とだからな、基本的な部分は殆ど変わらないんだが、狩り、まぁつまり相手を殺すということに関して私は他の虫と一緒、躊躇いなんてものはないし後悔もない。人間はそこに葛藤や後悔ってのがあるみたいだがな』


『つまり俺が今敵を殺しても何の感情もわかないのは、ゴッキー先生の感性が混じったからって事ですか?』


『そうなるな。私もこれはよめなかったが、さっきヒカルから感じ取った感情で判ったよ。これはもしかしたらヒカルに言わせたら副作用の一種と思うかもしれないしな。一応教えておく』


 ゴッキー先生は軽い感じにそう伝えると、そのまま会話が途切れた。

 また読書に戻ったのかもしれない。


 先生は別に悪いとも思っていないだろう。そしてヒカルもそれで気分を害する事もない。


 副作用的なものがある可能性は十分承知していた。場合によっては死ぬかもしれない命だった。

 だが受け入れなくてもこんな化け物が闊歩する森のなか、先生の力なくては生き延びることは不可能に近かっただろう。


 それに殺すことに躊躇いがないというのは別に悪いことではない。勿論それが無差別なものにかわったら別だが、幸い道徳心までも失ってることはないだろう。


 それは彼女を助けたいとヒカル自身が思えた事から明白だ。


 だから――今はとにかくそれを受け入れよう。

 そう決意しヒカルはフォキュアの様子を確認するため先を急いだ。






◇◆◇


 結論で言えば特に心配する必要もなかった。


 ヒカルが彼女を視認できる位置まで近づくと、フォキュアもこちらに気づき、大木に背中を預けたまま悠々とした様子で、やっ、そっちも終わったんだね、とあっさり訊いてきたからだ。


 その足元にはリトルグリーンの亡骸が三体転がっていた。

 一体は首をはねられ、一体は心臓(このマガモノの構造が人と同じならだが)を貫かれ、もう一体は胴体が切り株のように上下に分かれ、汚い臓物を地面にばらまいていた。


 匂いでいったらオークよりはマシではあるが、それでもやはり酷く臭い。


 思わず顔を歪めつつも、彼女の足元の有り様をみながら凄いなと呟く。


「別に大したことはないよ。そもそもこいつら私がここに来た時は地面を転がってたり身体を掻きむしったりしててね、一応私が近づくと気づきはしたけど、完全に反応が遅れてたから正直拍子抜けな感じ?」


 ヒカルは虫達にフォキュアが来たら離れろと命令を発していた。どうやらそれは上手く機能してくれたようである。


 あまり複雑なのは無理らしいが、これぐらいの命令ならば理解し実行してくれるようだ。

 戦闘で相手にダメージを与えるとまではいかないかもしれないが、これはこれで使い道がありそうだな、とヒカルはこの経験を心に刻みつける。


「こっちも似たような物だよ。なにかやたら慌てていたし、何か他のマガモノに襲われたとかかな? この辺りは多いんだよね?」


 ヒカルはあくまで僥倖に恵まれた態を貫くことに決め込む。

 この世界のゴキブリが人からどう思われているかはわからないが、それでも一致団結して他の生物を襲うという事は普通では考えられないことだろう。


 もしそれが出来るとしたら、ヒカルがあの洞窟に侵入した時点で襲われてもおかしくなかったからだ。


 だから出来るだけ不自然な光景は見せないほうがいいと判断したのである。

 そして付け加えるなら彼女が虫を苦手としてるんじゃないか、という思いもある。


 その場合ゴキブリの大軍をみてまた気絶でもされたら厄介な事になるだろう。


「う~んやっぱそうなのかな? でも全く気配とかないんだよね」


 気配――変身したヒカルならそれも可能だが、耳意外は自分とほぼ同じで、しかもこんな女の子がそんな物を感じられることに驚いてしまう。

 

 出来るだけ表情には出さないが、それが勇義士の実力というものなのだろう。


 尤も彼女が並みの少女などでは決して無いことは転がる死体を見てもわかるが。


 素人目でも、そのどれもが一撃のうちに斬り捨てられたのは判ったし、切り株状態のそれに関しては一体どうやったらそんな事が出来るのか全く想像も付かないほどだ。


 何せ彼女が手にしてるのは小剣、いくら小さなリトルグリーン相手と言っても普通に考えれば刃渡りが足りない。


 そんな事を不思議がってると、さてっ、とフォキュアが口にし幹から背中を外した。


「そろそろいこっか。早くしないと日が暮れちゃうし」


 ヒカルはそこで考えるのを中断し、彼女の顔をみながらひとつ頷いた。


 そして再度彼女のいう街を目指して歩きだす。


 暫く彼女の後ろをついていくと傾斜は段々と緩くなり視界も大分開けてきた。

 その内に傾斜は平坦に近くなり、そして丘の頂上まで辿り着く。


 この位置までくると見晴らしは大分良くなっていた。

 青空が広がり太陽の位置も確認ができる。


「太陽は西に落ちますよね?」

 

 そしてふとそんな事を訊いてしまうヒカル。

 

 当たり前じゃない、と変な顔で返されてしまった。


 おかしな事をいう男だと思われたかもしれないと少し気恥ずかしくなった。

 先生に訊いておけば良かったとも思う。


「ここからは、この丘を南側に向かってあの川の流れが緩くなってるとこを渡るわよ」

 

 彼女がそういって指さした方向には確かに川が一本横切っていた。

 南側にむかってという話でいけば上流側が北に当たるのだろう。


 彼女が渡るといった先にはここと同じような丘が確認できる。

 川は上流から緩やかに蛇行しながら下り丘と丘の間を流れている形で、その水量は中々に豊かだ。


 ヒカルはそれを認めた上で改めて太陽の位置を確認した。

 陽は既に中天を過ぎ若干西寄りの方に傾いている。


 時間でいったら午後の1時か2時を回ったところなのかもしれない。


「大丈夫? いける?」


 ふとフォキュアがそんな事を訊いてきた。

 どうやら旅の疲れを心配してくれているらしい。


 口調はキツイとこもある少女だけど優しいとこもあるんだな、と口元を緩めると、な、何よ! とドギマギしてるような様子で語尾を強めてきた。


 思わず頭を撫でたくなる衝動にかられるが、そこは我慢する。


「大丈夫。まだまだいけるよ」


「そ、そう、結構やるじゃない」


 碧眼を若干逸らしながら口にし、それじゃあ、と軽快に身を翻した。

 短いスカートも綿のようにフワリと浮かんで可愛らしく沈む。


「じゃあ行くわよ。しっかり付いてきてよね」


「了解ですお嬢様」


 冗談交じりに言葉を返すと、むぅ~、と首を巡らせ眉根を下げ軽く上目に睨めつけてきた。


 だけどその顔も心から可愛らしいと思うヒカルなのであった――

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