《7》憤怒の変態
《前回のあらすじ》
主人公の変態の性能は化け物か
咆哮が聞こえ、地面が爆発した。
有り得ないことではあるが、俺とキララの身体は咄嗟に動いた。
「……アースウォール…………!」
「できるかわからないですが、ウォール!」
階段を蹴ってジャンプしその場から地下に飛び退き、キララは魔法で土の壁を、俺はちょっと薄く白い壁を物質化して、天井から崩落してきた土砂を塞き止めた。
そしてキララとアイコンタクト。
それだけで意思は伝わ――――
「ああっ!?『砂山を作るキララちゃん(ろくさい)』がっ!!」
そう。咄嗟のことだったから失念していたのだ!
今頃壁の向こうで土砂に巻き込まれ傷だらけにぃぃぃぃぃぃ!!!!
「……お兄……今は……出ること……先決…………!」
「くぅぅっ!分かりました!
犯人には生まれたことを後悔させて修理してみせますよ!」
おのれ犯人!
許すまじ!
お礼は十分することに決め泣く泣く『砂山を作るキララちゃん(ろくさい)』は今は忘れておく。
だが、必ず復讐を果たしてやる!!
後ろ髪を引かれつつもその場から走り出して出口とは逆側に向かう。
地上に出た瞬間に攻撃されたらたまったものじゃないからだ。
俺は魔王の身体能力を駆使して全力で走る。
キララは余裕がありそうだけどな!
それでも一応かなり速く走れてる。
時速100キロくらいは出てる。たぶん。
そして、行き止まりが見えてきた。
「………ホール…………」
その呪文とともに行き止まりの真上の天井が落ち、光が降り注いだ。
天井にポッカリとあいてる穴の手前で俺たちは一度ブレーキをかけ、キララが体の一部を蝙蝠に変えて穴から外に飛ばす。
「……敵…………ゴーレム………それに………全部……廃墟…………」
キララからフェルテルのいた城が城下町が廃墟という報告を突きつけられ、俺のフェルテルの部分がそれを否定したがった。
嘘だと。
だが、慎吾の部分がキララを否定することを否定する。
それで現実を受け止め、体が崩れ落ちそうになるのを必死でとめる。
どうしても守りたい存在である――慎吾で言うのなら雲母のような存在の――妻と娘がいた場所が廃墟。
となればその二人が無事ではない可能性が濃厚になり、フェルテルが人として折れかけた。
慎吾である部分が何とか持ち直したけれど、やっぱりフェルテルと慎吾を内包する俺としては辛い。
胸が悲しみで溢れそうになる。
「………お兄………行こ………」
キララの心配そうな声に俺はハッとなる。
今は最愛の妹がいるんだ。
兄が守らなくてどうする。
妻や娘が生きていることを願って今を切り抜けなければ……
「すみません。お兄ちゃんはどうかしてました」
今は『夫や父親』(フェルテル)じゃない。
キララの『お兄ちゃん』(慎吾)だ。
それに人格はフェルテルではなく慎吾よりなのだ。
現に溢れんばかりのキララへの愛の方がフェルテルの妻や娘よりも大きい。
それにここが廃墟なだけで他の場所にいるかもしれない。
だから、俺は復讐を優先しよう。
『砂山を作るキララちゃん(ろくさい)』の為に!!
俺とキララは穴から外に飛び出した。
地下と違って明るくてちょっと目がチカチカしたが、すぐに馴れた。
目の前に広がるのは荒野。
苔が生えた城の廃墟。
巨大な切り株。
そしてこっちにゆっくりと向かってきている鈍重な石で出来た五メートルほどの巨大なゴーレム。
「これは…………」
瞬時にこの場所が人によって滅ぼされたことがわかった。
何故なら城に囲まれた巨木である聖樹が切られているのだから。
魔族も魔物も聖樹を破壊することはしない。
してしまったら、森が朽ち果てることを知ってるからだ。
この森は聖樹から降り注ぐ聖気があったから豊かな森だったのだから。
ギリッと歯軋りをする。
たぶん俺は物凄い顔をしているだろう。
「………お兄………」
心配そうなキララの声。
ああ、分かってるさ。
今やることくらい。
「キララ、さっさとあの木偶をぶっ壊しますよ」
ニタァっと笑いかけると
「……らじゃ…………」
キララもニタァっと凶悪な笑みを浮かべた。
お兄ちゃんゾクゾクしますよ。
その笑み。
「………くらえ…………アースニードル…………」
地面から巨大な棘が生え、ドシンドシンと音をたてながら歩くゴーレムへと猛威を振るう。
轟音をあげながらゴーレムの胸らへんにぶつかったが穿つことは出来ずよろめくだけだった。
それに加え障害となるはずの土の棘はゴーレムに蹴り飛ばされ俺たちへ飛んでくる。
慌てずに左右に別れて落下地点から離れる。
ドガァァァンという轟音とともに落下し、周囲に破片が飛び散るが俺には当たらなかった。
棘の残骸と土煙で見えないがキララも避けているだろう。
予定通りだし。
さて、ここからは俺の番だ。
台風が接近してるときにキララのスカートを巻き上げた風をイメージして魔力を物質化。
すると白い風が土煙を晴らした。
うん。キララ関連で思い出せば何とかなるな。
これならかなり戦えそうだ。
今度はキララと見たアニメの『魔法女王マジカル☆レビアたん』に出てくるライバル役の天空乙女騎士ルルエーラの技である魔弾の射手を10発ほどイメージし物質化。
すると俺の周囲に白い銃弾が10発滞空した。
「白き弾劾の銃弾よ。悪を伐ち正義を翳せ!発射!」
白い銃弾が射出され、ゴーレムへと全弾命中。
でもまぁ、掠り傷程度にしかならない。
銃弾が小さすぎるからな。
豆鉄砲みたいなものだし。
でもルルエーラの真似ができてちょっと嬉しい。
何かファンタジーにきてるんだなって感心する。
感慨に耽っていると、目の前でゴーレムが右腕を振り上げて――――
そして降り下ろされた。
「よっと!」
まぁ、こんなデカブツの攻撃が当たるほど体の性能が悪いわけではないので、軽々と避ける。
また白い銃弾をイメージし、今度は先程の倍の20発を物質化。
そして射出。
数を増やしただけなので掠り傷の数を増やしただけに終わる。
降り下ろされていた右腕が持ち上げられ、今度は左腕が降り下ろされる。
これも軽々と左に走ることで避けて白い銃弾をイメージし、今度は50発を物質化。
そして射出。
また掠り傷をつくる。
降り下ろされていた左腕がそのまま横に薙ぐように振るわれる。
ゴーレムの腕の範囲外に走ることで回避し今度は白い銃弾を100発物質化。
そして射出。
また掠り傷を作る。
ゴーレムも焦れてきたのか自分自身の体で押し潰そうとジャンプ、というよりは倒れこんできた。
範囲は広がってもノロマなので避けることは容易い。
ドシイイィィンと轟音を撒き散らしながらうつ伏せに倒れこむゴーレム。
凄く隙がありありなのだが、ゴーレムという奴はコアを破壊しなければ動き続けるし、コアは製作者ごとに区々と大変面倒な相手なんだよな。
固いし重量からくる力強さもあるから凄く怠い相手だ。
弱点としては、ノロマなことと――――
まぁ、これで。
白い銃弾を200発物質化。
そして射出。
破壊。
起き上がろうとしていたゴーレムは糸の切れた操り人形のように地面へと倒れ、ざらざらと崩れ、最後には砂山となった。
コアがある部分の周りが極端に脆いこと。
それがゴーレムの弱点であり、ゴーレムを倒す条件の1つだ。
暫く待つと、地下の出口の方つまりはゴーレムの背後だった方からキララが蝙蝠の翼を生やして飛んできた。
「……………むぅ……………」
合流したキララがじとぉとした目で俺を見てくる。
かなり拗ねているのも確実だ。
原因が分かってる俺としては申し訳ないという気持ちしかない。
本来なら俺が引き付けつつ、キララが地下から背後に回ってゴーレムのもう1つの倒し方の"全身を攻撃する"をして倒すことになっていたのだ。
二人ともが力試しをするために。
だから、キララはわざとアースニードルの威力を弱めて一撃で終わらせなかったし。
わざと前面からアースニードルを出して蹴らせて土埃を回せたし。
俺もわざと一撃の弱い白い銃弾なんかを使っていたのだ。
キララが試したかったのはどれ程魔法が使えるか。
俺が試したかったのは一度にどれ程物質化出来るか、それと物質の条件付けが出来るか、数種の物質を瞬時に物質化出来るか。
俺の方は達成できた。
物質化の条件付けは指向性を持たせる物質と合図で指向性を持たせる物質を射出できる物質。
その2つの条件をつけて弾丸に使った普通の物質化を合わせて3種を瞬時に200発も出来たのだ。
これは達成と言えるだろう。
それに対してキララは…………まぁ……目的の6割、いや、5割くらいしか達成出来てないだろう。
だから、俺がしなければならないことは――――
「キララさん!すみませんでした!私が悪かったです!!なんでもしますからどうかこの愚兄をお許し下さい!!」
誠心誠意土下座で謝ることだけだ!!
二日連続投稿!!
いや、これには深いわけがあるんですよ……
水溜まりのように深く、二階建てのアパート並みに高い訳がっ!!
いや、すみません。
ぶっちゃけた話『通り魔に殺されたら古の魔王として転生しました』より『転生魔王』の方が筆、というか、文字を打つ手が進む進む。
たぶん主人公の違いですね。
変態さがミソなんです。たぶん。
というわけでたぶん『転生魔王』の方が更新捗るかもしれないです。
土日しか執筆できないのでどっちかになると思います。
すみません!