《5》お着替え
前回のあらすじ
初ヒロイン登場
「ここに来る途中に服などが置いてある部屋を見つけたので着替えにいきましょう」
「……らじゃ………」
俺はキララへと近づいて、右手をさしだす。
キララはそれに指を絡めるように手を繋ぐ。
所謂、恋人繋ぎだ。
ほっそりしていても、柔らかさと暖かみのある手。
「人形として飾っておきたいくらいに可愛らしいですよ」
「……お兄………変態………でも……好き………」
ポッと顔を赤らめて、でも嬉しそうに笑った。
本当に可愛らしい。
「俺もキララは好きですよ」
恥ずかしげもなく言って歩きだす。
「……異性……?」
俺に連れられて歩きながら心配そうに訊いてきた。
異性、か。
俺とキララは血が繋がってる兄妹だ。
だから、両思いだったが、一線は越えなかった。
でも、今は?
たぶん俺の体は半分がフェルテルでできている。
身長や肌色、そしてキララがルクセリアと合わさったような容姿をしていることから間違いはないだろう。
と、考えると、俺とキララは半分しか血が繋がってないのではないだろうか……?
つまりは、俺とキララがそれぞれ別で結婚してその子供が結婚しようとしてるのと同義だから…………
曖昧だが、日本ではダメだった気がしないでもないが、別の国ではよかったような………
まぁ、よかった、そう思おう。案外日本の法律でもよかったかもしれない。
まぁ、ここは異世界何だし日本の法律は関係ないか。
つまり、俺らは異性として付き合って、結婚して、子供を作ってもいいだろう、ということだ。
「はい。異性としてですよ」
「……お兄……!」
嬉しそうに頬にキス。
キスとキララの嬉しそうな顔であと、60年は戦える。
「おっと、いきなりは危ないですよ」
嬉しいけど、お兄ちゃんとしてたしなめる。
いくら好きでも甘やかすのはいけない。
「…えへへ………ごめん………」
緩みきった顔で謝られもと思ったが、可愛いから許す。
可愛いは正義である。
此世の常なり
小部屋には何事もなくたどり着いた。
吸血鬼には真っ暗闇でも昼間のように見える種族なので、警戒はほとんどキララに任せていた。
ルクセリアのせいか感情表現が乏しくなっていて雰囲気でしか分からなかったが、キララも面白そうにしていた。
雰囲気で分かるのはお兄ちゃんスキルだ。
伊達にキララちゃん博士を自称してはない。
敵に悪のキララちゃん博士(父さん)がいたが連戦連勝だった。
不甲斐ない親である。
まぁ、母さんには敵わなかったけれども……
前言撤回。
不甲斐ない父親である。
そして、今は二人でお着替え中だ。
また放置してた俺の力作のマイナスドライバー擬きで開けようとしたら、キララが素手でベリッと蓋を剥がしてしまった。
俺もやってみると、できたので、俺の頑張りは何だったんだろう、と少し落ち込んだ。
そして、ベリベリと木箱を全てを剥がしてみると、まぁ、色々な遺品が出てきた。
フェルテル愛用の裁縫用の針とか、料理道具とか、フェルテルが物質化で作った銅像等々。
永い時を生きているだけあって本当に多趣味だ。
お前何がしたいの?主夫?芸術家?と全力で訊きたい。
まぁ、それは置いといて、勿論着替えもあったけれど、数着くらいで、他は全部趣味系の物だった。
ルクセリアの場合はほとんどゴスロリ服だった。
それと、全ての服の裏に魔方陣が刺繍されていた。
これはフェルテルの妻が縫った物(予想)で状態保存の魔方陣が縫ってある。
というか森人族の物には大抵買ったり、作ったり、したらすぐに状態保存の魔方陣を彫ったり縫ったりする。
そうすると状態保存の魔方陣が働いて傷んだり、壊れたり、破れたりしづらいからだ。
なんか……無駄に便利で生活的な秘術だな……
少し感心。
「………できた………」
背後から声がかかったので振り返る。
すると、俺が最初に見つけた黒のゴスロリ服に蝙蝠を人形みたいに可愛くしたようなリュックサックを背負ったキララがいた。
「その服にしたんですね。
似合ってますよ。
食べちゃいたいくらいに」
「……もう…………お兄………」
口では俺をたしなめてるが満更でもない様子でデレッと照れるキララ。
物理的には居なくなってしまうので嫌だが、別の意味で美味しく頂きたい。
「そういえば、俺の容姿ってどうなってるんですか?
キララはルクセリアと半々なので、やっぱり俺も半々ですか?」
少し気になったので訊いてみた。
俺自身は普通な容姿、所謂フツメンだったので、イケメンで美少年でショタっ子だったフェルテルと半々となると、かなり微妙な容姿になるだろう。
フェルテルを上の上だとしたら、俺は中の中、だから中の上か上の下くらいか?
「……お兄……要素……ナッシング……目の色くらい………だから……名前……言われて………わかった………」
つまり、目の色以外は全てフェルテルと。
だから、キララは俺に名前を呼ばれるまで分からなかったと。
「そうですか……」
………まぁ、そういうこともあるか。
実際に半々というわけじゃないのかもしれないな。
人格はフェルテルに少し影響されてるがほとんど俺、記憶量はほとんどフェルテル、容姿はフェルテル、体の色や体格はだいたい半々くらい、魔力は完全にフェルテル、身体能力もたぶんフェルテルだろう……
そう考えてみると俺はフェルテルよりだな。
まぁ、イケメンで正義の味方であったフェルテルの方が俺より優れてるからかもしれない。
少し釈然としないというか、嫌な感じがするな。
「……どっちにしろ……お兄………好き…………」
その言葉で嫌な感じは吹っ飛んだ現金だな。俺。
「ありがとうございます。
それじゃあ行きましょうか。
出口は何処か分かってるんでしたよね?」
ルクセリアは死ぬまでに、フェルテルの墓に何度か墓参りに来てたそうだ。
「……いえす……右………」
「反対の方向に向かってたんですね」
どうやら俺は運がいいらしいな。
もし、反対の方に向かってたらキララに会えなかったかもしれない。
そう考えると俺は運がいい。
「……ん………」
キララが右手を差し出してきた。
俺はその手を自分の手と繋ぐ。
さて、行こうか。
俺とキララは一緒に歩き出した。