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僕の妹

作者: 三日月宗近

 家に着き自分の部屋に行くと部屋が荒らされていた。いつもの光景だ。犯人は既に分かっている。妹の仕業だ。

 幼い頃からその傾向があった。僕の大切にしているオモチャやマンガやゲームを壊すんだ。最初は怒って叱った。けど妹は懲りずにまたやるんだ。そしてまた怒って叱る。そんなことが7、8回続いて、僕は事実確認をした。


「お前は僕のことが嫌いってことでいいんだよね?」


 妹は無言で僕を見ていた。せめて首を縦に動かしてほしかった。そうすれば気が楽になったんだ。でも妹は動かずに、ひたすら僕を見続ける。何を考えているのか全くもって分からない。その時からだ。妹を怖いと思い始めたのは。


 僕は次第に無欲になっていった。買ってもどうせ壊されるから。だったら最初からなにも買わない。お金の無駄使いだ。


 何も買わなくなっておよそ5年。中一の夏。その5年の間にも少しずつ僕のものは壊されていった。だけどもうそろそろ壊すものがないだろうなって、そんなことを考えていた日の夜の事だった。


 僕は殺風景な自分の部屋に、布団がないので床にそのまま寝ていた。カーテンがないので月明かりが眩しく、窓がないので蚊に刺されまくる。暴走している若者のバイクの音や、工事の音で最初は眠れなかった。最近は慣れてきたのか眠れるようになった。でも浅い眠りだった。そんな僕の部屋に誰かが入ってきた。ドアがないので誰でも入れる仕様だ。


「うああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 僕の右腕は折れた。泣き叫んでいる僕の横には父のゴルフクラブを持った妹が追撃してくる訳でもなく、失笑するわけでもなく、無表情で僕を見ていた。壊すものがなくなったから、僕を壊しに来たんだ。


 当然、入院した。別に入院しなくてもよかったらしいけど、どうにか頼み込んで入院させてもらった。と、妹に伝えてもらった。本当は、実家から2駅ほど離れた場所にあるアパートを借りて住んだ。親には住所を伝えた。妹には当然伝えない。親に妹には教えるなと言っておいた。腕が治り次第、年齢を偽りバイトを始めた。嫌いな僕が消えて清々しただろう。もう僕も僕のものも壊されない。


 半年後、バイトから帰った僕は見た。何を?見たことあるような荒らされ方をした部屋を。八畳一間の借りた部屋を。僕を家から追い出すために嫌がらせをしていると思っていた。だけどどうやら違うらしい。買ったゲームが足下で木っ端微塵。買ったマンガが粉末状態。こんなことじゃもう驚かない。けど僕は今、驚き、立ち尽くしている。何百といった数の盗撮カメラ、盗聴機が隠れもせずに部屋に飾り付けられている。音が鳴った。部屋の隅に携帯電話が置いてあった。僕のではない。メールが来ていた。


「壊しても無駄だからね

 お兄ちゃん      」


 文末についているハートマークがなぜだか恐かった。怖かった。


 その日から公園が僕の家となった。学校に行き、そのままバイトに行き、銭湯に行き、公園で寝る。これが僕の1日だった。


 一年後。

 今でもまだ見つからずに生活できている。ある日家電量販店で妹がモデルデビューしていたことを知る。バイト仲間に聞けば、歌って踊れて演技も上手で面白い、今人気急上昇中の売れっ子、とのこと。笑顔が可愛いらしい。僕はその可愛い笑顔に恐怖している今日この頃。僕は嬉しかった。そんなに人気なら僕に構っている時間などないはず。僕は自由になった。喜びながら1回実家に帰ることにした。家に着きドアのない自分の部屋へ入った。するとどうだろう。僕の写真が部屋の至る所に貼られ、カッターで切り刻まれていた。予想の範囲内だった。それよりも疑問が残る。僕の妹は何がしたいのか。本当に分からない。意味不明で理解不能だ。もしかすると僕を殺したいのかな。・・・。うん、多分そうだね。きっとそうだね。逃げよう!すぐさま逃げよう!今すぐ逃げよう!どこに?海外に行く金はない。北海道・・・は寒いから沖縄だ。今度は親にも誰にも言わずに行った。


 沖縄で暮らし始めて一月が経った。僕はもうそろそろ中3。受験勉強を始めてもおかしくはない。普通なら。学校に行っていない。高校にも行く気はない。このままフリーターとしてバイトを転々として一生を過ごそう。そんな未来設計が僕の頭にはあった。あるいはバイトすらしなくてもいいかもしれない。食べられるキノコや草、木の実、魚などの見分けが付くようになってきた。野生に身をおいたサバイバル生活もいいかもしれない。鍵を掛けていない家のドアを開けると立っていた。部屋のど真ん中に。金属バットを持ちながら。


「久しぶりだね。お兄ちゃん。」


 可愛い笑顔でそう言った。僕を殺しに来た。でもなんで居場所が分かったのか。


 これは僕の知らない話。妹はテレビでこう言ったそうだ。


「私には兄がいるのですが、記憶喪失のまま病院を抜け出して行方不明になってしまいました。どうかこの顔を見たら御一報下さい」


 僕の今のバイト先の店長が良かれと思い御一報したらしい。


 逃げた。無我夢中で逃げた。逃げて、逃げて、逃げまくった。そしたら逃げ切れた。周囲を警戒しながら、息を殺し、森に身を潜めた。一晩中ひたすらに考えた。結果、死ぬことに決めた。夜が明け、日が登り、朝になる。高い崖の淵で数分間、今までの生き様を振り返る。すると後ろから声がした。


「お兄ちゃん?」

「今からお前の望んだ通りの結末だ。お前に一言。僕はお前のことが特に嫌いでもなかった。今まで会った全ての人に。ごめん、ありがとう、さようなら」


 崖から海へと身を投げた。こうして僕は死んだ。


 明るい灰色の世界。この世とあの世の間にある世界。死んだことを認める世界。1日かけてここで気持ちの整理などをするらしい。一日経ったときに気持ちの整理がついてないものは幽霊となるらしい。そんなことを誰に教えられたわけでもなく、なぜか既に理解している。そんな世界なんだろう。僕は自殺なので気持ちの整理は生前に済ませてある。なので1日暇に過ごす他ない。上下のない世界で横になり、一眠り・・・後ろに誰かいるのを感じた。振り向いた。居た。


 僕の妹。

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