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黒鴉戦記  作者: 雅木レキ
01-《研修生”ジン・サクヤ”》
7/17

004-戦場

---004---

---戦場---



 ふわっとほほに風を感じて、俺は目を開いた。

 どうやら転送が終了した様だ。

 辺りを見渡すが、周囲に敵やフレイヴ教官の姿は見えない。

 急いで転送を行ったからポータルの座標指定を見ていなかった。

 仕方ないっちゃ仕方ないが、やっちまったな……。

 ブロックの指定はターミナルの単位で行うものだから、流石に別のブロックに落ちたってことはないだろう。

 だが、もし座標指定が悪かったら空中に現れてたり、最悪建物にめり込んだりしてたかもしれない。

 いやはや、考えるとぞっとしないな。


 俺は空を見上げた。

 といってもラーヴィスの中だからそれは天井になるのだが。

 偽物と分かってはいるが、そこには澄んだ青空が広がっている。

 こうして見てみると、のどかな風景だ。

 建物の隙間から見える切り取った空の一部分は、まるで揺れ動く絵画の様で俺の心に深く印象づいた。

 こういう風景を守らなきゃならないんだ、俺達は。


 ---俺は。


 ---ふと、遠くで大きな爆発音が響いた。

 それと同時に地面が揺れ動く。

 ラーヴィスは空中に浮いているから、どこかで大きな衝撃が起きると全体が揺れる。

 建造物であるからには地上に住まいを置くのとは訳が違う。

 あまり負荷をかけ過ぎればラーヴィスは堕ちる。

 俺はソロパックを叩きソードを取り出した。


「今、行くからな。……俺、絶対やってみせるよ、レミア。」

 ぽつりと独り言が出た。

 俺は駆け出した。

 ”2度目の日の入”を、あの日の出来事を知っている俺だから、もう二度と繰り返させない……!


〈---同日、市街地〉


 武器を握りしめ、市街地を駆け抜ける。

 俺の目指すところは騒ぎの中心点だ。

 ただ敵が集まっている場所を目指す。

 それで全部ぶっ倒してやる。

 敵の場所を見つけるのは簡単だ。

 逃げている人を見つけて、その人が逃げて来た道を(さかのぼ)れば良い。

 決まってディナイアルは人を襲っているのだから。

 ディナイアルの数は俺の予想よりも全然少なかった。

 それに、俺が見た”黒龍”は存在しない。

 どうやら神偽(しんぎ)クラスの存在はいない。町1つを完全に消滅させうる存在はいない。


 ホッとした様な、拍子抜けした様な感じだ。

 辺りに居るのは遅疑(ちぎ)と呼ばれる小型のディナイアルだけだから、ラーヴィスが墜落する様な致命打は受けないだろう。

 だが、コイツ等でも町の人達の命を奪うくらいの能力はある。

 力無き者を喰らう存在に違いはない。

 俺は見つけた端からソードで叩き斬った。


 ファルスの出力を最大にしていれば遅疑(ちぎ)は一撃で真っ二つになる。

 一体一体が独立して動いているなら火力兵器など無くともこれで十分過ぎる。

 防具を渡されていないからには敵の攻撃に当たれば致命傷になりえるが、だったら先に仕掛けて何もさせなきゃいいのだ。

 遅疑のカタチは様々であるが、大抵小さな小動物の様なカタチをしている。

 目付きが恐いから、ぶった切られたヤツ等を見てもカワイソウなどとは微塵も感じなかった。

 俺は躊躇いなくソードを振るう。


 ---人に襲いかかる寸前の遅疑を何回もブッた斬った。

 ---町の建造物を壊している最中の遅疑を何十も叩き斬った。

 ---道端に存在しているだけの遅疑は容赦なく両断した。


「---あ、と……!」


 どんどんと俺は騒ぎの中心点に近づいていた。

 それに連れて人気(ひとけ)は消えて行き、敵の気配は大きく沢山になっていった。

 遅疑は一体一体は対したことはないが、数が増えれば増える程町へ与えられるダメージは大きくなる。

 俺の斬る遅疑の数は増える一方だ。しかし出現する遅疑の数も比例して増えていく。きりがない。

 そして破壊音、戦闘音はどんどん大きくなっている。

 確実に俺はガーデナー達の戦場へと近づいていた。


「---何体、倒せば……!」


 駆ける俺を遅疑の群れが止める。

 ヤツ等は横一列に整列して俺を待ち構えていた。

 ざっとみて8匹。

 立ち止まり向かい合った途端、ヤツ等はじわりじわりとこちらに滲みよって来る。

 俺はソロパックにソードを収納した。

 そして代わりに、俺の持つもう1つの武器を取り出す。


「……終わりになるんだッ!!?」


 ヒメラギに返し忘れたな。これ。

 彼女の扱っていたブレイドを取り出す。

 ファルスの出力を最大まで引き上げた。

 すると剣に纏わる青白い刃が光を増し、より強い熱を帯びた。

 沢山を薙ぎ払うならコイツだッ!


 ブレイドはリーチが長いし形成される刃も強力。

 しかし、故に取り扱いが難しい武器だ。

 大振りであるからソードより重いしデカいから回りが狭ければつっかかる。

 それに人がいたら巻き込むかもしれない。

 刃の軌道上に生身の人間がいたら、それはもう目も当てられない事態になるだろう。

 だからここまではソードを使っていた。


 しかし、この大通りは広い。

 それにこの場には人もいない。

 条件さえあえば鍛錬を積んでいない俺でもブレイドは扱えるはずだ。


「いい加減邪魔だ!!!」


 俺は思い切り叫んだ。


 ブレイドを振り回し、同時に3匹を真っ二つにした。

 ”レージ”のヤツ等が亜次元亜(※1)空間に干渉しようとする度に現れる、この不完全な存在達は物理的な衝撃を受けたりしてカタチを保てなくなった時点で消滅する。

 俺の斬った3匹も跡形もなく分解され、液状化し、どこへとなく消滅した。

 煙すら上がらないのだ。


 ……後5体。

 規模(・・)にもよるが、基本的にディナイアルは知能が低い。

 今のコイツ等は複数体で動いているが、決して同族同士で連携を取っている訳では無い。

 ただ”完全な存在”である建造物や人間に危害を加えているだけだ。

 ”不完全な存在”であるディナイアル同士は互いの存在を認識出来ない。

 故に互いを傷つけなくて済んでいるだけなのだ。


 俺はブレイドを翳し、縦に切り上げ横一線に薙ぎ払った。

 最初の一撃で1匹を両断し、2激目で2匹をやっつけた。

 後1匹……。


 体勢を立て直すまでも行かず振り向く。

 すると最後の一匹が今まさに俺に飛びかからんとしていた。

 ブレイドは俺には重い。

 取り回せなくは無いが、ソード程自由には動かせないな。

 アイツが飛びかかって来るまでに構え直すことは出来そうに無い。


 巨大なリスの様な容姿を象るそのディナイアルは、俺に鋭く飛びかかって来た。

 俺は躊躇いなくブレイドから手を離し、振り向く動作と共に回し蹴りを繰り出した。

 蹴りは命中。

 足にドンという衝撃が加わり、俺は蹌踉(よろ)ける。

 巨大リスはと言えば、飛びかかって来た時の軌道を逆走するかの様に飛去って行った。

 身を地面に叩き付けられ引きずるが、あの程度のダメージでは消滅してくれないらしい。

 素早くブレイドを拾い上げると最後の遅疑を叩き斬った。



 ------俺は小さく項垂れて呼吸を戻すことに専念した。

 ……結構な運動だったぞ、今のは。

 間入れず動き続けるのは駄目だな。俺じゃまだ厳しい。

 ガーデナー研修で結構鍛えられたつもりだったんだけどな……。まだまだ足りないらしい。

 大きく息を吸い、そして吐く。

 一度心も落ち着けなくては……。


 ------その時、からりとすぐ後ろで物音がした。

 俺は今まで全く気がつくことの出来なかったその気配の存在に、咄嗟に体を動かすことが出来なかった。

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