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黒鴉戦記  作者: 雅木レキ
02-《その名は”黒鴉”》
16/17

012-何故、こうなった

---012---

何故、こうなった



 ……ある時、ふと気がつけば俺は軍服を来ていた。

 それも、赤いサガのものではない。

 青い、”少尉”以上の階級、権限を持つ選ばれた者が着る服だ。


 この服を着る者は様々な状況下に置いて、場合によっては上部からの指示を待たずして自身で行動を決定することが要求される。

 というか、自分の行動を決定”出来る”様になるのだ。所謂”階級待遇”ってヤツだな。

 当然だが、それは元々の命令に違反しない範囲で行える。

 要するにただ単に咄嗟の判断を”自分に命令出来る”ということだ。

 大したコト無いって? いやいや、とんでもない。

 自分の自由が利くというのは、軍に所属している身として非情に強力な権限である。


 ……しかし、何故こうなった。



 ……気がつけば俺は講習を受けていた。

 周囲を見渡せば、俺と同じく同期に”少尉”以上の階級に昇格した実力者が揃っている。

 全員落ち着いた様子で講習を受けている。

 俺はと言えば全く落ち着かない。相応の実力の伴った猛者の中に、何故俺が混じっているんだ?

 場違いな感じが歪めない。俺は周囲のヤツ等に特別見られている様な気がして、なるべく気配を殺して身を縮ませていた。


 さて、この青い軍服を着ることには特別な意味がある。

 その”意味”を学ぶため、権限を与えられる階級まで昇格した時点でこうして講習を受けることが義務付けられている。

 自由というのは強力故、危険な権限だ。

 自身の階級以下の兵の命を自由に操れる。言い方が悪いかも知れないが、実際そうなのだ。

 青服は赤服に対して咄嗟の指示を与えられる。戦場での間違った判断は死に直接繋がる場合もある。


 講習の担当者の言葉なんて殆ど頭に入ってこなかったが、要点だけは抑えた。

 掻い摘んで要約するとそんなところか。

 つまり、講習を受けることでその意味を再確認させられているのだ。


 ……何故だ。

 何故俺はこんなところで、こんな服を着て、こんなヤツ等と共に、こんな状況に陥っている……。

 何故、こうなった……?



 ……講習が終わると、俺は独り呆けていた。

 同期のヤツ等が部屋から出て行ったが、俺は動けないでいた。

 部屋を出るのは最後だ。今動いたら目立ってしまう……。

 いつになく俺は小心者になっていた。

 ならざる追えないだろう。

 だって、周りは全員ある程度場数を踏んで段取りを持ってしてこの地位に辿り着いた努力家達だ。

 俺は昨日までガーデナーでさえ無かったんだぞ? なんでいきなり”少尉”なんだ!?

 ……全てが唐突で、掻い摘んででも状況が把握出来ない。


 そんなこんなで呆然としていたら、突然艦内アナウンスで俺の名が呼ばれた。

 ”どこをほっつき歩いている。指定された場所まで来い”と言う旨の内容のアナウンスなのだが、妙に高いツンツンした女の子の声が艦内に響いた。

 ……艦内全てに放送する意味はあったのだろうか。

 一応講習の過程で少尉以上の階級取得者に配られるらしい、専用端末(※1)を渡されている。

 ネフティスと呼ばれるこれには盗聴防止策が施された通信機能がついている訳なのだが、それによって呼び出すという発想は無かったのだろうか。


 ……なににせよ、何故か呼び出しを喰らった俺は指示通り指定の場所までやってきた。

 ここで俺は気がつく。いや、今からして思えば何故気がつかなかったのだろうか、俺は。

 ……今、俺が立っているこの”指定されたポイント”だが、ここは軍事司令棟のど真ん中。

 ------福総司令(※2)官の部屋だった。




「------ようこそ、ジン・サクヤ少尉。」


 ……部屋に立ち入るなり、中に居る男に手招きをされた。

 入り口からは、部屋の中央に大きな机が見える。

 書類だろうか。何か沢山の文字が書かれた意味有り気な紙が積まれたその机の向こう側にどっかりと腰を据えて座っている人物が見える。

 あの人が”福総司令官”ってヤツなのだろう。

 パッと見だが、以外にも見た目は感じのいいお兄さんと言った感じだ……。


「……? どうした? 入って来たらどうだ。」

 言葉にハッとする。

 手招きしているのに、俺は場から動けずにいたのだ。

 初対面、いきなりミスったか……!?

「……し、失礼、します。」

 返事を返すが、声が裏返ってしまう。

 ……当たり前だろ。こんな”エライヤツ”を目の当たりにしたのは生まれて初めてだ。

 当然普段の生活でこんな身分の高い人間と会話する機会も遭遇する機会も無いし、そもそも俺の人生でそんな機会があるとは思ってもみなかった。

 なのに、今俺は軍部の最高権力に近しい人間と1対1で向き合っている。

 緊張しない訳が無いだろ……。向こうがその気になれば、俺なんてちっぽけな人間は社会的に抹殺されてしまうのだ。


 「そんなに緊張しなくてもいい。……いや、無理も無いのか? ……ここに呼ばれた理由を、君は判っていないだろう。講習中やけにそわそわしていたからね。」


 俺は副司令の言葉にビクリと身を振るわせた。

 み、見てたのか? とすると怒られるのか? 俺?

 俺は何か一言でも、言い訳でも良いから言葉を発しようと自身の語録をあさるのだが、何も浮かばず口をぱくぱくさせるばかりである。

 自分のボキャブラリーの狭さを恨めしく思ったのはコレが初めてだ。

 俺の慌てっぷりはピークに達しようとしていたが、目の前の優男はそれに気を悪くすることも無く言葉を並べる。


「君が呼ばれた理由の説明を行おうと思ってね。今回は態々呼び出したんだ。……私は反対したさ。艦内アナウンスなんて使わなくとも、ネフティスを使えば呼び出せるのにね。」

 副総司令官はフッと笑った。

 目の前の男は大層偉い立場の人間だが、堅物な感じはしない。

 むしろ緩やかな物腰で、俺は幾分か身体の硬直が溶けて来ている気がした。


 「さて、始めまして。挨拶が遅れたが、私がこのラーヴィスの軍事副司令官、そして大将も兼ねて勤めさせて貰っている『サヴァン』だ。宜しく頼むよ。」

 ……席を立ち、サヴァン大将は俺に歩み寄り手を差し出した。

 握手を求められているのか……?

 突然のことで、俺は咄嗟に動けず固まってしまう。


「……あまり、私の評判は宜しく無いかな?」

「い、いえ!! 滅相も無いッス!!!」

 反射的とは言え、凄く失礼な返しだった様な気がした。

 サヴァンの表情が曇ったから、焦ったのもあるが……。

 駄目だ、ほぐれて来ているとは言え突然の事象にはパニックになってしまう。

 俺は素早くサヴァンの手を握り、ブンブンと握手を交わした。

 そりゃもう、好意的であることを示す為に全力で手を振るった。


「あ、ああ。好意的なのは判った。嬉しいよ。……さて、本題に入ろう。」

 サヴァンは俺との握手の後、席に戻る。

 表情は至って真剣だが、何処となく穏やかな感じがする。

 ……威圧する様では無く、相手を見透かす様なその瞳に俺は吸い込まれる様だった。

 威圧はしないが、決して揺るがない信念の様なものを感じた。この人はただ者じゃない。そんなこと、すぐに理解出来た。


「まず確認させて頂こうか。君は以前ガーデナーの、サガ入隊候補の研修生だった。採用試験を受け、その上で不合格だった。記録には資質はあるが勝手にポータルを使い、許可無くファルス実装武装を居住区で使ったからだとある。」

「……ッ。」

 何も言えなかった。

 単に相手の立場が高いからでは無い。

 サヴァンの瞳に浮かぶ静かなチカラが言って来るのだ。

 ”全てお見通しだ”と。


「……ここまでの君の行動を聞けば私でも君を”サガ”に採用しようとは思わない。故に、私は君を最初から少尉として迎える。」

「……あ、あの。」

 恐ろしかったが、俺は言葉を発した。

 どうしても聞きたい疑問があったのだ。


「……なんで俺、入隊出来たんですか? なんでいきなり”少尉”なんですか? 俺、兵士には相応しく無いって言われて不合格になった訳で、仮にやっぱり入隊出来るとして何でいきなり”少尉”に?」

 上手く言葉が出ない。

 クソ、ビビり過ぎだ。


「……さて、質問には1つずつ応えよう。まず階級の理由だが、通常の兵(サガ)士としては不適正だからだ。故に君には”サガじゃない”兵力になってもらう。」

「サガじゃない、ガーデナー?」

 ……通常兵士として不適正ってのは、やっぱりアレだろう。

 フレイヴに言われた通り、”命令が守れないモノは軍には要らない”ってヤツだろう。

 それは理解出来る。


「まぁ、そんなところだ。君が入るべき場所はサガじゃない。」

 俺の汚点の話しなんてどうでも良い。それより、気になることが有る。

 ”サガじゃないガーデナー”? そんなものがあるのか? そもそも、”サガ”とは一定階級以下の通常防衛任務に当たる兵士、言わば”お巡りさん”の俗称である。

 階級が上がれば普通に”階級のガーデナー”と呼ばれる訳で、”サガじゃない”という言葉の意味がわからない。


「君が入るべきは、『”R”epression of "O"ther dimensions ”A”ttack』。通称『RoA(ロア)』と呼ばれる部署だ。」

「"ロア”……!?」

 ……ッ! 確か、前に聞いたことのある単語だ!

 俺は静かに高揚感を感じた。何故かは知らないが、RoAと言う言葉に特別な意味が有る様な気がした。惹かれたのだ。

 ……ただ、咄嗟に思い出せない。

 どこで聞いた? 何時聞いた? 誰が言った言葉だ?

 ……駄目だ、記憶が曖昧過ぎて絞れない……。


「ロアは”少尉以上の特殊権限を持つ物”から選ばれ、成り立つ部隊だからね。君を所属させる為にも、君は少尉であって貰わねば困る。」

 問答する俺に構わず、サヴァンは話しを続ける。

 俺は思考を切り替え、サヴァンに向き直った。いくら俺でもこの人相手に失礼するのがどれだけの愚行かと言うコトくらいは心得ている。


「ジン。唐突な様だが、君はそもそも、ディナイアルがどういったものであるか知っているかな? 応えれるかな?」

「……いや、ディナイアルくらい知ってます。俺達の敵で、人を襲って。」

 俺は反射的に言葉を発した。

 慌てて手を覆った俺を見て、サヴァンは小さく微笑んだ。

 それから小さく人差し指を見せ、左右に振ってみせた。


「君の認識しているそれは、ディナイアルの”あり方”だ。君は彼等の根本を知らねばならない。特に”RoA”はね。」

「根本?」

「ディナイアルとはなんなのか、その目的は? 存在の発端は? どこから現れ、何処に消える? 彼等はそもそも何故生まれる? それが根本だよ、ジン。」

 ……言っているコトが判らない。

 というか、正しく言うなら”納得出来ない”。

 ディナイアルは敵で、俺達を襲って来る。だから倒さなきゃならない敵だ。

 アイツ等の発生原因とか、成り立ちとか知った事じゃない。

 出て来たらぶっ倒す。それで良いんじゃないか?

 俺は敵の素性を知るコトに必然性や必要性を感じられなかったのだ。


「……さて。纏めて話したいところだが、君にはまだ説明すべきコトがあってね。ディナイアルについては今度にしよう。今は場所を移そうじゃないか。」

 サヴァンはネフティスを取り出した。

 時間を確認した様だ。

 端末の画面を見て、1人で頷き席を立つ。


「そうだ、2つ目の問いに応えてなかったね。君を採用した理由だが。単純に”感じた”からだよ。」

「感じた?」

 俺の問い返しにサヴァンは頷いた。

「君の思いを。君の恐ろしい程強い戦争根絶への渇望を。君の過去と現在の環境を見て、その思いの根源を知った。」

 ……書類とか、そういったモノがあるから俺のことを知ってても違和感は無いのか。

だとしても、俺は少々憤りを感じた。

あまり昔のことを知っていて欲しく無い。俺も思い出すからだ。


「”根源の存在する強い志を持つRoA”。素晴らしいじゃないか。私はね、ジン。君に可能性を感じたんだよ。だから君をRoAに採用した。理由はコレで十分だろう?」

 言葉を切り、サヴァンはすたすたと部屋の外へ歩き出した。

 部屋の入り口まで辿り着き、俺に手招きをする。


「君はいずれ”RoA”の言葉の意味を知る。そして君に課せられた期待と役割を知るコトになる。そうなった時、君がなにをどう選ぶのか。私はそれが知りたい。」

 ナゾナゾみたいな言葉を最後に、サヴァン大将は口を閉ざした。

 サヴァンは部屋の外へと消え、俺はそれに続いた。


《※1》専用端末

通称ネフティス。

少尉の階級取得者に与えられる情報デバイス。身分証にもなる。

所持していれば階級に応じて一定区画内の立ち入り禁止区域に立ち入れる様になる。

また、時計、通話機、メール、作戦指示書、地図、金銭管理機能等の一般デバイス機能も一括して兼ね備えている。


《※2》副総司令官

偉い人。司令官より偉く無いが、それ以外よりは偉い人。

総司令官は軍事的権力としては上から2番目だが、事実上の権力は部族長達が握っているためなんでも出来る訳では無い。

副総司令官の場合はもっと権限が小さい。

ちなみに族長を含めない場合、一番トップに権力を置くのは”艦長”である。

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