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黒鴉戦記  作者: 雅木レキ
01-《研修生”ジン・サクヤ”》
14/17

010-夜間にて2/2

---010---

-夜間にて-(後)



 彼女の言っていた”時”ってコレなのか?

 だとしたら、今すぐ止めないとマズいんじゃないのか……?

 大通りの道路を舞台に、激しくも小規模な戦闘が行われていた。

 俺と少女はそれをビルの上から眺めていた。

 ビルは4階建てで、そんなに高くは無い建造物だった。

 しかし夜間の薄明かりでは地上からこの位置に居る俺達を見つける者はいないだろう。

 戦地になった大通りでは数人が入り交じって戦っている。

 高速度で行われるその戦闘で何人が戦っているのか、それを正確に数えることは出来なかったが……。

 しかし、絶対に言えることがある。

 アレはディナイアルと誰かが戦っているわけじゃない。

 戦闘している相手も”人間”だ。


 今更ながら、目が暗闇になれて来た。

 よく見ればだいたい半数程はガーデナーの制服を着用していた。

 ただ、全員サガ(一般兵)が着る赤色のソレではなく、もっと上等な少尉以上の人間が着用する”青色”の制服だ。

 なんなんだ? 上等戦力だけで作られた部隊? どういう戦いなんだ?

 ディナイアル討伐でも見かけない編成だぞ。

 戦場と化した大通りからはファルスの光が時々発せられる。

 ファルス同士がぶつかり合い、衝撃で光子が砕け散らばり、キラキラと光る。

 実体を持つエネルギー体は衝撃によりカタチを少しずつ崩す。

 ぶつかったり切り合ったりして削られたファルスは、細かな光子のカケラとして辺りに散らばる

 こうなったファルスは既に実体を持たない。砕けたファルスは、実体を持つことが出来る程に高密度な光子の塊ではないのだ。

 そして散らばった光子のカケラは、刹那の光を放った後に消える。

 こうしてファルスが削られ続けてリアクター内の光子が尽きれば、ファルスのカタチは崩壊し刃を形成出来なくなる。

 リアクタに入っている予備量子残量はかなり多めだが、それでも長期間戦闘をしていればいつか尽きる。


「さて、ちょっと出遅れたかな。」

 そう呟くと、少女は俺に手を差し出した。

 俺はそっと手を握った。

 ぷにっとした暖かい感覚が……。

「違う。」

 少女はもう一方の手で俺の顔面を(はた)いた。

 てか、叩くにしても勢いが強過ぎる。

 俺の身体は軽く宙を舞い、それから勢い良く地面に打ちのめされた。

 クソ、なんて馬鹿力だ!

 まず打ち付けられた身体よりも頬が痛い……。


「デバイスに入れておいただろう。ハンドガンとグレネイドを渡してくれ。」

「おぉ、俺は荷物持ちかよッ!?」

 打ちのめされた俺は地面に叩き付けられた腰を擦った。

 うぇ、こっちはこっちで痣とか出来ていそうな痛みだ……。

 ……っと、反射的にそんな抗議言葉が出たが。

 そうじゃない。それ以上に問題なのは……。


「……てか、君が戦うのか!?」

「多分キミよりはマシに戦えると思うけれどね。」

 別段からかう様子も無く、すんなりとそう述べられた。

 なんだろう、すぱっと言われ過ぎて咄嗟に反応出来なかった。

 女の子に煽られて口答え1つ出来ないのは哀しく無いか、俺よ。

「借りるぞ。」

 俺がソロパックを展開し、グレネイドとハンドガンを手にする。

 彼女は素早くそれを奪う様に持ち去った。

 そして流れる様にハンドガンを取り回し構える。


 彼女は一寸の狙いをつけて、撃った。

 要するに慎重に狙いをつける動作は見せず、ただ戦場に銃口を向けて撃った。

 ファルスを使う銃の銃声は小さい。弾丸の発射に火薬を使わないからだ。しかも弾丸が”カタチの決まってしまっている金属”では無いからだ。

 ただ、普通の銃よりは小さいが一応炸裂音の様な音がする。

 小規模の質量を持った光子同士(※1)の衝突が在る為だ。

 さて、光子の塊で成る弾丸は真っ直ぐに標的に向かった。

 その速度は通常の弾丸よりも早いらしい。

 どっちにしろ見切れる速度ではないのだから関係は無い様に思えるのだが……。

 いや、この際はそんなこと関係ない。

 なによりも重要なことに、弾丸はキッチリ着弾した。

 彼女の狙いった通りか、それは分からないが。


 とあるガーデナーと戦闘中の勢力の1人が持つ武器、槍のリアクター部分だけを打ち抜き破壊した。

 リアクターを失った光子系武器はファルスを展開出来ず無力となる。

 故に、槍はタダの鉄の棒になった。

 俺がそれに見惚れていると、少女は次々と引き金を引いた。

 今度は三連射。俺は銃口を見遣ってから戦場に目を戻すと、全部武器のリアクターだけを打ち抜いていた。

 とんでもない精度だ。あんな小さな標的を全て的確に撃抜くなんて、機械かなにかでも難しそうだ。


「お、い? 今のなんだよ?」

「厄介そうなヤツを先に片付けたのさ。ここから狙撃出来るならそれにこしたことはないだろう?」


 そうじゃなくて、そんな瞬間的な照準でなんであたるんだ?

 しかもビルの屋上から狙撃なんて。

 普通ハンドガンで出来ることじゃない。

 この娘は何者なんだ?

 ……ふと、脳裏に以前出会った教官少女(フレイヴ)が浮かんだ。

 あのフレイヴも結構な遠距離からハンドガンで狙撃したが、そんなのとは比べれない技量だ。

 動いているモノの持つ武器のある小さな一部分のみを、ハンドガンで狙撃したのだから。

「さて、行こうか。後は草刈りだ。」

「行く?」

 このとき俺は”何処に行くのか”を聞いたつもりだった。

 しかし彼女にその思いは伝わらなかった様で……。

「一方の戦力が無くなればもう一方の”殺戮”が始まる。戦いにならない戦いを許容することは出来ない。」

 少女は”理由”を言った。

 それから少女は、今度は俺の手を握った。

 屋上の縁に足を掛ける。

「ま、さか---?」

 俺は全力で抗ったが、抵抗虚しかった。

 少女は屋上から飛び立ち、手を握られている俺もまたそれに続いた。

《※1》銃(光子リアクター)

ファルスを作り出すリアクターと同じモノを搭載した銃。

弾丸も火薬もリアクター内の光子で補う為、総重量が軽い。

ファルスと同様に圧縮、原型を作った光子を、エネルギーとして発散させた光子をブツけて飛ばす。

リアクターは通常の銃と違い実弾を入れた弾倉では無いため、実弾よりもはるかに弾丸切れを起こし難い。

ただし、リアクターは充電式でその場で取り替える事が出来ないため弾丸切れ時の補給は手間がかかる。

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