010-夜間にて1/2
ちょっとした諸事情で2分割させて頂きます。
ご迷惑おかけします…
---010---
-夜間にて-
「おい、起きないか。」
---ふと、耳元で声がした。
……その声で眠りから醒める。
目が覚めた時点で、俺はベッドに横になっていた。
……なんだか寝苦しい。
強く起こされた訳じゃないからか、まだ頭がぼうっとする。
……まだ眠い。眠気に勝てない。
もう一度寝るべく、俺は体を丸めた。
「寝るな。キミは起きるべきだ。」
……また声がする。
だけど、この声は俺を完全に目覚めさせる刺激としてはちょっとだけ役不足だった。
起こそうとするこの声よりも、眠気の方が全然勝っている。
寝苦しさに抗うべく、俺は寝返りをうった。
「んぅぅ……。んぁぁ……。」
声が鬱陶しくてヘンな返事が出た。
寝返りを打った俺はもう一度体を丸めようともぞもぞした。
そしたらだが、垂らした手が何かに触れた。
「ん、ぅぅ……!? ど、何処、触ってんのさ……。」
先程と同じ声が聞こえた。
声の調子が先程とはちょっと違った気がしたが。
なんだか甘えた様な、恥ずかしげな、ちょっとだけ上擦った声だった。
まだはっきりとしない頭で認識したのだが、確かにそんな気がしたのだ。
「ん……? 硬~い~?」
ふと、俺は反射的に”硬い”と口にした。
触れた物が”硬かった”からつい、反射的に。
要するに、それは必然だった。
「かた、い?」
それは同じ声。
しかし、今度は声の調子が違った。
なんだか低く、恐ろしげな印象が……。
---ハッと覚醒した俺はベッドから出ようとして藻掻いた。
しかし、瞬間的に手首を掴まれる。
凄いチカラでベッドに引き戻される。
ヤバい、これディナイアルよりヤバい気がする……!
強い生命の危機を感じて、俺は目を強く瞑った。
「硬い?」
ベッドに引き戻され、先程と同じ体勢に戻った。
急に頭がはっきりして来た。
今どういう状況なのか一瞬で把握出来た。
そっと目を開ければ、そこには”少女”の顔があった。
少女は俺と添い寝するカタチでベッドに潜り込んでいた。
たった今にそうなったわけではなく、多分さっきからこうなっていたのだ。
じゃなければこの状況に説明がつかない。
……どうりで寝苦しいわけだ。1人用のベッドに2人寝たらそりゃ寝苦しい。
こんな時は”何でお前が!?”とか、気の聞いた台詞が言えれば良かったんだろう。
けど俺は、パニックで頭が真っ白になって対処など考えも出来なかった。
ふと、少女が口を開いた。
「何が、硬いって?」
……声の音程を変えた訳でもないのに、威圧感溢れる雰囲気を醸し出している。
元から彼女はツリ目気味ではあったのが、今は特にそれが強く印象強い。
生存本能からだろうか。俺は彼女に強い恐怖心を抱いた。
「い、いえ。なんでもないです。多分気のせいです。」
俺は早口に述べた。
少女の表情がいつになく恐い。
……気にしてたのか? やっぱり気にしてたのか?
先程、俺の手に当たったモノの正体はなんとなく予想がつく。
女性のそれとは思えない程に硬く抵抗が無かったが、多分間違いない。
ふくらみの無さはちょっと前から感づいていたが、やっぱり地雷ワードだったのか!?
「しらばっくれても、もう遅いんだよね。」
少女は空いている方の手で肩を掴み、俺の体をベッドに押し付け動けない様にした------…。
……===
…------同日、2分後。生存だけ確認しておいてくれ。
俺は赤く腫れ上がった両頬とひりひりと痛む額を擦りながら、少女と向き合い座っていた。
命拾いした。命乞いが功を奏したのだ。
「それでだ。ソロパックの中身は既に確認しているね?」
彼女の問いに頷いて答える。
口を開くと頬がひりひりする。
今更、”どうしてベッドにまで入って来たのか”とかは聞けなかった。
話しを掘り返すのが恐かったのだ。また痛い目に遭うかも。
凄く気になったが、仕方なく俺は保留した。
「確認はしたが、どれも俺には扱えない武器ばかり……。」
「よし、今から出るぞ。」
彼女は言いつつ、俺の手を取った。
有無を言わさない感じだ。俺が反論する隙は無かった。
「出る?どこかに行くのか?」
壁に掛かった時計を見るが、深夜じゃないか。
こんな時間に出歩くのか?
不信には思ったが、俺はソロパックを用意し、着替えを出した。
寝間着のままだったのだ。
「あぁ、あまり猶予はない。ちょっと遊び過ぎたからね。」
「いや、それは……。」
”アンタのせいでしょ”
咄嗟に一言呟きかけたが、俺は慌てて言葉を引っ込めた。
危ない。掘り返すところだった。
「ボクは表に出ているから、終わったら来ると良い。ボクが居る前では着替えもままならないだろうからね。ただ、なるべく早くしてくれ。」
〈---5分後、Bブロック大通り〉
先行する彼女の後を必至に付いて行く。
走る彼女はなんとか全力疾走で付いて行けるレベルの早さだったが、文字通り常に全力だからかなり厳しい。
足が吊りそうになる程に必至になることでやっとついていけてる。
それに対して彼女は呼吸も全く乱れず、またペースは常に一定で保たれていた。
家を出るなり駆け出した彼女はずっと振り向きもせず走り続けていた。
夜の町は人が少ない。
しかし、今日はそれにしたって少な過ぎる気がする。
家を出てからまだ誰ともすれ違わないし、他に誰も見ていない。
夜の町の雰囲気を楽しみたい等と惚気た雰囲気のカップルを見ることは少なく無いはずなのだが。
少女は一切迷わずに町を駆ける。
既に目的地を把握しているかの様だ。
大通りを走り、時々道を逸れて細道に。そしてまた大通りに出る。
正直付いて行くのも疲れて来ていた。
そんなとき、彼女はふと突然立ち止まった。
若干引き離されかけていた俺もそれで追いつけた。
息を切らしながら彼女の様子を見ると、少女は道端のビルを見上げていた。
そして何を思ったか、唐突にそのビルに入って行く。
俺は躊躇ったが、彼女に続いた。
---電気も付いていないビルの中、彼女は迷わず駆ける。
若干窓や隙間から差し込む、夜間を照らす微量の疑似日光の光(月の光とほぼ同質の光を出している)を頼りに彼女の姿を追う。
……とはいえ、見失ってもどうということは無い。
彼女も俺もただ階段を上っているだけなのだ。目的地ははっきりしていた。見失ってもどの階層で降りたかだけは、足音で把握出来る。
なんだかんだで俺達は2人揃って、屋上まで一気に駆け上がった。
---屋上まで辿り着いて、俺は一度身を倒した。
限界だった。脳に酸素が行き届いてない様で、視界が揺らぎ吐き気がする。
四脚を大の字に広げ、胸いっぱい酸素を吸い込み呼吸を落ち着けようと試みる。
「何を寝てるんだ? ここからがキミの仕事だ。」
俺は声の主を睨んだ。
見上げると少女は呼吸1つ乱さず、仰向けになっている俺を見下ろしていた。
「ちょ、ちょっとまて……。頭が痛い……。」
「甘えるな。男の子だろう。」
言うなり少女は俺に背を向けた。
クソ、女の子に体力負けしてんのか?
あの娘が異常なだけだと信じたい。
少なくともレミはあんなに体力無かったぞ……。
……あ、判った。彼女の身体はきっと走るのに適した体なんだ。
『ぺたんこ』だから重く無いんだ。運動の阻害にならないんだ。
ナルホド、そういうカラクリがあったのか。
……そう言うことにして納得しておこう。
「さぁ、キミも見ると良い。」
屋上端まで歩んだ少女は、下を見下ろしながら俺を手招きした。
ったく。まだ息も整ってないってのに。
頑張って体を起こし、少女の傍らに寄った。
そして彼女の視線を辿って、その先に在るものを見遣った。
俺は、ただ絶句する。
……なんだこれ。
ビルのほぼ真下、先程歩いていたのとは隣に位置するもう1つの大通りで……。
……なんであんなところで戦闘が行われてるんだ?