おめぇ、あの祠の封印解いたんか!?
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「――おめぇ、あの祠の封印解いたんか!?」
夏休み初日、田舎の爺ちゃん家の玄関を潜った瞬間に怒鳴られて、私は呆気にとられた。
「着くのが遅いと思ったら悪さしよって!」
電車が遅れただけです。
というか、
「あんた誰?」
玄関先で髪を乱暴に掻き上げる作務衣のお姉さんに質問する。
年に一度、夏休みぐらいしか来ない爺ちゃんの家だけど、こんなグラマラスねぇさんを見たことはない。なんだ、その胸。にわか雨が降ったらそこに避難してやろうか?
「誰じゃなかろうが。おめぇの爺ちゃんだろ」
「女じゃん」
「かー、なんも知らんで祠の封印を解いたんか!?」
解いてない。祠ってそもそもなんぞ?
自称爺ちゃんのグラマラスねぇさんは右手で作務衣をぐいっと脱いで右肩をはだけた。
――でっか。私の五割増しでは? ……五割でいいだろ、なんか文句あんのかよ。
「暑くて苦しくってどうにもならん。ったく、余計な事しくさって!」
「まったく状況が分からないんだけど?」
そもそも、このエロいグラマラスねぇさんはどこの誰で、お爺ちゃんはどこに行った?
手扇で首筋を仰ぎながら、グラマラスねぇさんが言う。
「祠の封印が解かれちまって、村の連中が全員、性転換するわ、超能力に目覚めるわ、相対性理論を無視して宇宙人と交信するわで、えれぇことになってんだ」
「普通、祠って悪霊とか祟り神とかを封じてるんじゃないの?」
「村のモンの力を封じとるんだ。政府に見つかって実験材料になんぞされたくなかろうが」
えっ、そんな物理的で現実的な危機なんです?
「……家を間違ったみたいです。帰りますね」
「待てぇ、逃がすかい」
回れ右をしたら首根っこを掴まれた。
「そも、おめぇが祠の封印を解いたんだろう。血が薄まってても、そろそろおめぇにも影響が出るはずだ。影響を見ねぇことには村から出すわけにゃいかん」
「えっ、私も!?」
このど・エロいグラマラスねぇさんが爺ちゃんなら、私も性転換するの?
私がド・えもイケメンにぃさんになるってコト?
――動画くらいは録っとくか。
意味もなく肩を回してスタンバって十数分。
「何も起きないんだけど」
「性転換ではねぇか。宇宙から何か聞こえてこねぇのか?」
「ないね」
帰ろうかな。電車の中でイケメンになるならそれはそれで面白いし。
グラマラスねぇさん爺ちゃんは首の根元を掻こうとして自分のバカでっかい胸に腕が当たり、顔をしかめる。
「いきなり膨らむと邪魔で仕方がねぇや」
「爺ちゃん、肩が上がらないもんね」
「やかまし、うわっ――出てけ!」
いきなり玄関から押し出されて面食らった矢先、ブブブと蜂の羽音が聞こえてきた。
本能的にゾッとして、閉められようとしている玄関扉を潜る。
「お爺ちゃんもどきさん酷い! 刺されるかもじゃん!」
「自業自得じゃい! おめぇは田舎に一番いちゃいけねぇ力が封印から解かれとる!」
「なに!? どんな力!?」
「動物を引き寄せる力! おめぇ、この家から一歩でも出たら山の方から虫だの獣だのが群れになって降りてくるぞ!?」
私を指差して玄関から動くなと命令しながら、お爺ちゃんもどきグラマラスねぇさんは家中の窓を閉めていく。普段は心の底から憎悪する地球温暖化が奇跡的に功を奏し、空調が利いた冷たい空気を逃がさないよう縁側の大きな窓も締め切られていたおかげで、閉める窓は少ない。
家の戸締りを終えて、私は爺ちゃんっぽい姉さんと台所で机を囲む。
「爺ちゃん? 私は祠の封印を解いた覚えがないんだけど」
「川んところにお地蔵さんがあるだろ?」
「……川に降りる階段の脇にあるお地蔵様? 川で溺れる子が減るようにって、祀られたって聞いたけど」
「あのお地蔵さんの目線の先に祠がある」
つまり、川に降りる階段の向かい側か。
でも、向こうは登るための階段もない、ただの斜面だったはず。
あれ? あちら側に行く道ってあったけ?
爺ちゃんっぽいさんが麦茶をグラスに注ぎながら眉を顰める。
「大昔からの言い伝えでな。あの祠に悪さをすっと、酷いことになる」
「聞いたことないけど?」
「おめぇらの世代は、言い伝えを全部が全部、迷信だと思って好き放題するだろうが。七十代の爺さんがこんなになるんだぞ? いーちぃーぶだので動画を流されたらたまらんわ」
「ちょっとごめん、ナウリアル来たから待って」
「カメラを向けるな!」
過去一蜂に襲われてて草っと。
いまの爺ちゃんを撮れれば面白かったんだけど。
「でさ、爺ちゃんもどきさん。祠はまじで知らないし、駅からメールしたでしょ? 電車の遅延情報もネットで調べれば、私のアリバイは証明できるよ」
「……ちょっと待ってろ」
私の言葉に一定の真実味を感じたのか、爺ちゃんもどきさんは以外と慣れた手つきでスマホを弄って眉をひそめた。
「すまん。おめぇじゃないんだな。てーことは、どこの悪ガキが悪さしたんだ?」
「知らないよ。とりあえず、私がここにいる限り、山の動物はこの家に集まるんだから祠は安全でしょ? 近所に電話して様子を見に行ってもらえば?」
「急に頼りがいがあるな。そういう能力も芽生えたか?」
状況に飽きただけ。ドパガキだからね。
なんか面白くできないかなぁ。
不純な動機でガラス窓の外に集まる蜂の羽音を聞きながらスマホを弄る。
「……へぇ」
自治体ホームページにこの騒ぎが載ってないかと思ってみてみれば、もっと面白いものを見つけてしまった。
「爺ちゃんもどきさん、祠の再封印ってどれくらいかかるの?」
「祠がどうなってるか次第だな。ただ、儀式で三日はかかるはずだ」
「へぇ……」
いまの私には動物が寄ってくる。
最短でも三日はこの状態。
自治体ホームページにはこう書かれていた。
特定外来生物駆除、報奨金千円から。対象生物次第では数万円。
この夏のアルバイトは決まったな。
ちなみに、祠は先日の台風で倒れた木に押し潰されていたらしい。




