U.8「宿命」
イーコは考えていた。
今にも上太郎へ襲いかかろうとするカオスの姿を見つめながら、わずかな可能性を探すように。
そして――ひらめいた。
「採掘現場に走れ!」
短い指示。しかし、その声には確かな確信があった。
魔力を蓄えた鉱石をエネルギーとして吸収できれば、この絶望的な状況を覆せるかもしれない。
イーコはそう読んだのだ。
上太郎は迷わず走り出した。
イーコの言葉を信じて。
カオスは余裕の笑みを浮かべ、ゆっくりとその後を追う。
採掘現場にたどり着いた上太郎は、立ち尽くした。
「どうすればいいんだぜ……」
焦りが声に滲む。
その背後に、ゆっくりと影が迫った。
「鬼ごっこは終わりですね」
カオスが追いついた。
ケタケタと笑うような表情で、上太郎を見下ろす。
「採掘現場に逃げ込むのは賢い選択だったが……お友達を置いていったらダメじゃないか」
その腕に捕まれていたのは――イーコだった。
「ごめん上太郎。でも俺のことは気にするな」
それは覚悟を決めた者の声だった。
「ごめんじょうたろう。おれにょことはきにするな。おっつー。残念だったね。君たちはこの私、イーブン・カオスが仲良く葬ってあげるからね」
カオスが茶化すように水を差す。
物語がここで終わる――作者ですらそう思った、その瞬間だった。
勇者の化身が赤白く光りはじめた。
周囲の鉱石から、魔力を吸い上げている。
「なっ……魔力の抽出が魔具人形自身でできるだと? そんな馬鹿な」
カオスが目を見開く。
魔力鉱石から魔力を抽出できるのは、特殊な装置だけ――それが常識だった。
その常識が、今、目の前で覆されている。
イーコは息を呑みながら言った。
「死んだ爺さんの話で聞いたことがあるぞ。大昔の一部の魔具人形は、超越的な技術で魔力鉱物から直接補充できたって。
でも、オーバーテクノロジー過ぎて今はもう使われていない……」
勇者の化身は、規格外の魔具人形だったのだ。
上太郎は力が戻ってくる感覚を得ていた。
アナウンスもノリノリで響く。
「チャージングバッテリー」
カオスは腕を引き、力を溜める。
「早めにケリをつけましょう」
その直後、アナウンスが告げた。
「バッテリーfull」
イーコが上太郎に叫ぶ。
「上太郎、必殺技を叫べ! その必殺技は――」
だが、カオスが遮る。
「馬鹿な。見方も犠牲になるというのに……こちらも出すぞ。必殺、NEOオレハイーンダヨ!」
同時に、上太郎の頭の中へ“存在しない記憶”が流れ込んだ。
そこに刻まれていたのは――必殺技の呪文。
カオスが腕を突き出す。
今までとは桁違いの威力が上太郎を襲う。
イーコと上太郎は、同じ呪文を叫んだ。
それは“カオスだけを倒す呪文”。
「必殺、ロケットパンチ!」
勇者の化身から魔法陣が飛び出し、影の分身が現れる。
その影はスーパーヒーローのように拳を構え、体ごとカオスへ突進した。
カオスのNEO必殺技と、上太郎のロケットパンチが激突する。
だが、決着は一瞬だった。
勇者の化身の影は、火の粉を払うようにカオスの攻撃をかわし、そのまま炎となってカオスを包み込む。
その衝撃で、カオスの腕からイーコが振りほどかれた。
カオスは悶絶しながらも、最後の力を振り絞り呪文を唱える。
「ギフトドレイン……!」
魔具人形の機能を劣化させる呪いの呪文。
カオスは息絶える直前、言い残した。
「これでその魔具人形は使い物にならない……いずれ他の企業戦士たちがお前らを処刑しに来るだろう……」
炎が消えると同時に、カオスの存在も消えた。
周囲に隠れていた作業員たちに掛けられていた魔法も解ける。
勝利したはずの二人だったが、カオスの意味深な予言が胸に重く残った。
つかぬ間に、上太郎の体がぐらりと傾いた。
「上太郎!」
イーコが慌てて駆け寄る。
上太郎は苦笑しながら言った。
「体がボロボロだぜ……」




