U.5「沈黙にもう一度灯が燈るまで。」
「かつて世界を救ったものがいる」
超越的な声の説明を聞きながら、上太郎とイーコは同時に思った。
(あれ、これデジャヴだぜ)
声は続ける。
「数百年の平和を壊したのは、一冊の写本だ。
その本は、とあるものによって切り取られたページから能力を奪い取り、新しい本を作り出した。
その能力は――世界のあらゆるものを“上書き”する能力だ」
上太郎は息をのむ。
「上太郎は私が召喚した。
上書きが通用しないお前は、唯一この異世界を救う救世主なのだ」
(やっぱり異世界だったのかここ)
上太郎は心の中でつぶやいた。
イーコは目玉が飛び出そうな顔で上太郎を見ている。
上太郎は照れくさそうに言った。
「やれやれだぜ。いっちょ異世界救っちゃうぜ」
しかし、返ってきた声は冷静だった。
「いや、お前はこのままでは平和を取り戻せない」
理由はこうだ。
――同じ世界で作られたものは、同じ世界のものでしか壊せない。
――写本によって、その“上書きルール”が世界に刻まれてしまった。
だから対抗するには、新しい魔具人形が必要。
そしてそれを作る機械技師と魔術師が必要だという。
上太郎は横を見る。
イーコは首を横に振った。
「俺、機械しか弄れないよ」
その瞬間、祭壇が明滅した。
そこには不思議な杖が置かれていた。
超越的な声が説明する。
「その杖は、機械に埋め込めば簡単な魔術が扱えるようになる」
見た目は頼りなさそうな杖だったが、イーコは目を輝かせた。
「これで最高の魔具人形が作れる」
そしてイーコは尋ねた。
「老人の技術のすべては、どこにあるんだ?」
祭壇が再び明滅する。
そこに現れたのは――
マントをつけた巨大なロボットだった。
「この魔具人形の名前は“勇者の化身”。
かつての救世主がそう呼んでいた。
今となっては、ただの置物だ。
イーコよ。これからお前が、これを超える魔具人形を作るのだ」
イーコは“勇者の化身”に見とれたあと、強くうなずいた。
「絶対にこれを超えてみせる」
それから数日が過ぎた。
祭壇には定時になると衣食住に必要な物資が出てくる。
これは超越的な声の能力で、上書きされない力のひとつらしい。
上太郎は思った。
(ここでの暮らし、案外悪くないぜ)
そんなことを考え始めた頃――
「できた」
イーコの声が響いた。
巨大だった“勇者の化身”は、いつの間にか人間と同じくらいの大きさになっていた。
白く輝く人型の甲冑のような、スーツのような、なんかカッコいい見た目だ。
上太郎の第一声はこれだった。
「ちっちゃくなってるぜ」




