U.4「この異世界でとても役に立たないシステム」
崖の下で、誰かがつぶやいた。
「……やれやれだぜ」
チュ・コイノは確かに崖から突き落とされ、大破していた。
だが、チュ・コイノ成分の半分は“やさしさ”。
搭乗者を守るクッションが作動し、運よく上太郎とイーコは生き延びていた。
壊れた操縦席から、小さな手鏡のようなものが転がり落ちていた。
裏には文字が彫られている。
イーコはそれを拾い上げる。
「これも持っていこう」
そう言ってポケットにしまった。
今、二人は洞窟の中で雨風をしのいでいる。
暗い中、イーコは手鏡を地面に置いた。
「それ、いったい何の役に立つの」
上太郎が聞くと、イーコは少しだけ笑って言った。
「まあ、見てて」
次の瞬間、手鏡からメカメカしい爺さんがホログラムで現れた。
「これを再生しておるということは、この異世界に再び危機が訪れたということじゃな」
爺さんは語り始める。
「かつて世界を救った者がいる。
それは人間の形をした“何か”じゃった。
わしらの理解を超えた存在じゃ」
上太郎は「なんか余計な話が始まったぞ」と退屈していたが、次の言葉で目が覚めた。
「その救世主は異世界から来た。
皆そいつを――“微熱の道化師”と呼ぶようになった」
上太郎は思った。
(……もしかして、俺、異世界にいる?)
そして、この話が自分に関係しているのではないかと耳を傾けた。
「今はまだ平和じゃが、いつか来る危機のために、わしは“終わりと始まりの場所”に技術のすべてを置いておる。
場所はこの手鏡の“テクマクマヤ”で行けるようになっておる。
世界を平和にしてこい」
ホログラムは一度消えた。
だがすぐに再び現れる。
「いかんいかん、呪文を忘れるところじゃった。よく聞け。“デ・キールジャンプ”じゃ」
今度こそホログラムは消えた。
手鏡から冷たい女性の声が流れる。
「メッセージは2件です」
上太郎とイーコは顔を見合わせた。
「……とりあえず、言ってみるか」
二人はうなずき、声をそろえた。
「デ・キールジャンプ」
視界が一気に変わった。
少し暗いが、壁が鏡のように澄んでいる場所に立っていた。
「ここは……?」
イーコが周囲を見回す。
そのとき、どこからともなく超越的な声が響いた。
「人の子よ。なぜここに来た」
上太郎とイーコは驚きつつも、目的を伝えた。
しばらくして返事が返ってくる。
「……ついに来たか」
悟ったような声だった。
周囲が少しずつ明るくなる。
もっとも明るい場所には、祭壇が置かれていた。
まるで「ここに座れ」と言わんばかりだ。
「話をしよう。世界の危機だ」
静かに、しかし確かに、声が響いた。




