運命の青い炎
会場にピアノの旋律が響く。僕、九重 湊が鍵盤を叩くと、音がそれに応えてくれる。僕はピアノが好きだ。努力すればするだけ上達し、それが音に現れるシステムが好きだ。
観客達の視線を感じる。僕の演奏は心に響いているだろうか?
やがて演奏が終わると、会場に拍手が響く。どうやら僕の演奏は、感傷に浸るに値したようだ。
これもピアノが好きな理由の一つだろう。努力を見てくれる人がいるのといないとでは、モチベーションに差が生まれる。これがあったから今まで努力できたと言っても過言では無いだろう。
観客達に礼をし、ステージを後にする。
コンクールが終わり、帰路に着く。随分と遅くなってしまった。現在の時刻は19時、家に妹の秋を待たせているので、急いで帰って夕飯の支度をしなくては。少しでも早く帰るため、普段通らない路地を通ることにする。自転車のサドルに跨り、ペダルを強く踏んだ。
しばらく自転車で走っていると、前方に人影が見えた。ロングコートを着てフードを被っている。ブレーキを軽く握りながら通り過ぎようとすると、フードの人が声をかけてきた。
「そこの青年、少し聞きたいことがある」
女性の声だった。
夜気に溶けるような、どこか透明な声。
「どうしましたか?」
自転車を止めて答えると、彼女はゆっくりとフードを外した。
綺麗な銀髪に、透き通るような青い瞳。
まるでこの世界の人間ではないような、非現実的な美しさだった。
「君、人生を懸けられるものはあるか?」
「……は?」
あまりに唐突な質問に、思わず声が裏返る。
「たとえば、誰にも奪われたくないもの。魂を削ってでも続けたいこと」
何を言っているのか分からない。それでも、口が勝手に答えていた。
「ピアノ、です。僕は、ピアノを弾くのが好きなんです」
「ピアノ…悪くない答えだ」
彼女は小さく笑う。その笑みには、冷たさと慈しみが同居していた。
「お前ならもしかしたら…成れるかもしれないな」
「……何に、ですか?」
その瞬間、空気が変わった。
風が止まり、街の灯が一つ、また一つと消えていく。
次の瞬間、僕の身体が青い炎に包まれる。
「な、なんだっ……!」
熱くない。痛くもない。
それでも、体がゆっくりと灰に変わっていくのが見える。
「青年、また会えるのを楽しみにしているよ」
薄れていく視界の中で、彼女の言った言葉がくっきりと頭に残っていた。
初投稿です!至らぬ点があると思いますが、暖かい目で見てください!




