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ヴァージン・アンド・スクワッド

作者: 猫宮いたな


 「騎士決戦V」世界中で爆発的なヒットを記録した対戦型ゲーム。

 プロリーグの発足、世界規模のギルドの誕生。

 プレイ人口は世界約50万人。その中でプロリーグに入れるのはほんの一握り。

 これは、池谷修司(いけたにしゅうじ)がプロゲーマーになる話。


「今大会の優勝は星野光(ほしのらい)‼」


「星野選手の使用する槍の連撃が勝利を分けましたね」


 ネオンライトに包まれた世界、鼓膜を刺すオーディエンスの歓声。実況の解説。そのすべてが苦しかった。


 俺は、池谷修司。プロゲーマーを夢見る高校生だ。


「ありがとう、GG(グットゲーム)


 何がグットゲームだよ、あんたの圧勝だったじゃないか。

 俺は、焦っていた。この世界は弱肉強食の世界であり、才能の世界。

 だから、1年大会で優勝できなければ引退という条件を決めていた。


 引退まで残り、2か月。練習もしたいし、対策も練らないといけない。

なら、タイムリミットギリギリの大会に参加して、優勝するしかない。


 悔しさも、焦りも、怒りも、そのすべてを飲み込んで先の景色に目を向ける。今回の大会だって、準優勝。希望はある。

 ただ、それでも心のどこかではあきらめていたのかもしれない



「昨日の大会惜しかったね、、」


 そういって俺の肩をたたくのは相澤黒羽(あいざわくれは)、幼馴染で昔からよく絡んでくるやつだ。

 まあ、そうは言ってもこいつは俺をプロゲーマーの道を肯定してくれて、応援もしてくれる。本当にいいやつだ。


「でも、次の大会で負けたら俺は引退かな」


「ここのところ負け続きだしね。で、次に参加する大会はもう決めてるの?」


「まだ、決めてないけど練習とか対戦相手の研究したいから二か月後のやつに参加しようかなぐらいだな」


「本当にギリギリになるね」


「本当だよ。しかも大会で勝つには星野さんにかたないといけないしな、、」


「星野さんて、プロで上位ランカーの星野光さん?」


「そうそう、あの人ここら辺の大会に参加してはいろいろと荒らしているんだよ。でも、簡単な話だよな星野さんに勝てないならプロになれるはずがないし」


「そうだね~。でも、本当に勝てるの?」


「あと、一歩。届かないんだよね、毎回」


「今、調べていたんだけどこの大会に参加してみれば?」


 黒羽は俺と話をしている中で、今参加者を募っている大会を探してくれていたらしい。


 差し出されたスマホに映し出されているのは二対二のトーナメント形式の大会。俺は今まで一対一の大会ばかり参加していたから初めての挑戦になる。

 確かにプロになれば必ず一対一の大会だけ出る。なんてありえないだろうしな。


「これなら、1対1より勝ち目あるかもよ」


 本当に、黒羽は俺のために何でもしてくれる。こんなことも俺には思いつかなかっただろう。


「じゃあ、それに参加する。で、黒羽!俺と一緒に挑戦しよう‼」


「えぇ、私あんまり上手くないよ?」


「ご冗談を……ま、本番まで時間あるしある程度はうまくなるよ」



「ライくん。大会優勝おめでと~」


 彼の名前は星野光。騎士決戦というゲームでプロとして活躍している俺の先輩だ。確か、今ライくんは確か今日本ランク五位だったはず。さすがだよね。


「でもさ、わかりきった勝利なんて楽しい?」


「一人、すごいやつがいるんだ。開花すれば俺達でも負けるかもしれない。」


「へ~そんな子がいるんだ。俺も戦っていたいね~」


「なら、この大会とかどう?」


「二対二のトーナメントバトルねぇ。これにその子が来る確証あるの?」


「確証はないけど、あいつは来る。そんな気がするんだ。」


 でもなんで、ライくんは俺以外のやつに期待しているんだろう。俺より君を楽しませることができる人はいないのに。



 俺達は、早速、2か月後の大会にエントリーしてきた。そして、その帰り。


「黒羽、このゲームいままで俺のデータで一緒にやってたから、今から自分のデータでステータスの割り振りとかやろ。それをもとに作戦たてたいし」


 黒羽の家で練習を始めていた。


「とりあえず、黒羽はいつも俺とやってるからある程度知ってると、思うけど改めて説明するわ」


「うん。お願い」


「まず、このゲームは複数のルールのバトルがあって、今回は2対2のダブルバトル。勝利条件は相手の全滅か、相手より生存数が多いこと。まあ、後者は2対2だとそうそう起きないから気にしないで」


「なるほどね」


「で、次に、武器とステータスについてね。武器は剣、レイピア、メイス、槍、弓、盾の6つを、1つか2つ装備して戦う。で、ここから、面白いんだけど、武器の組み合わせ、ステータスの振り方で戦い方が変わってくる」


「例えば、どうなるの?」


「わかりやすいので言うと、槍だな。これは使用人口が少なくて、戦い方も基本的に、スピードとHPにステータスを振って、守りを捨てた連撃!って感じ」


「それともう一つ、武器を持てるってことはその連撃の中に重い一撃をドカン!ってこともできるの?」


「そういうこと。このゲームは武器ごとにステータスを振れるから、俺は重い一撃の剣と連撃のレイピアっていう風に使ってる」


「へぇ~。なんとなくわかったから、いろいろ試させて?」


そこから、1時間ほど黒羽の武器選びに付き合わされることになった……

楽しかったけどね?



 大会当日。会場は今まで参加してきた大会の中でも一番の盛り上がりを見せていた。理由は単純プロゲーマー二人がチームを組んで大会に参加したから。


 黒羽は、やる気十分。いつもは、下ろしている黄金色の髪をハーフアップでまとめて、メイクもばっちり。

 それに比べて、俺はというと、目の下には真っ黒な墨のようなクマにボサボサの痛みきった髪。朝一で黒羽に怒られた。あとでメイクとかしてくれるらしい。メイクなんて初めてだから少しドキドキする。


 こんな、能天気に話をしているが、俺は内心、緊張と焦りからかなりメンタルはややれている。基本的に学校が終わったら睡眠時間も削って練習してたしね。でも、安心してほしい。授業中寝てたから睡眠はちゃんととれている。


 問題は作戦がちゃんと通じるか、どうかだ。


「いま、そんな悩んでてもどうにもなんないよ。もしかしたら今日で最後なんだし、楽しも?」


 心でも読めるのだろうか……こいつは……

 こうも、タイミングよく言われると少し恐怖を感じるレベルだ。


「大会に参加する人はこちらにお願いします。」


 運営のアナウンスの元、俺たちは控室に入った。ただ、控室は2チームで一つの部屋と言われ同室にいたのは星野さんたちだった。


「久しぶりだね。修司くん。」


「ええ、お久しぶりです。」


 星野さんは優しく握手を求めてきた。

 この人はどの大会でもこうやって握手を求めてきてくれる。丁寧な人だ。


「君がライくんが話してた子か。本当に君つよいの?」


「大樹。当たるまでの楽しみだって言ったろ。」


「なんでよ~挨拶じゃんか。」


「それでもお前は圧すごいんだから。ごめんね修司くんこいつは湯沢(ゆざわ)大樹(だいき)今日の俺のペア。」


 湯沢大樹。おれも所属しているゲーム内ギルドのギルドマスターで日本ランク12位。この人もプロで、星野さんとはライバルで、同じチーム所属だ。

俺、大樹さんのギルドで幹部になってるんだけどな、覚えられていないみたいだ。


「いえ、これぐらいで臆していたら優勝できないんで」


ま。そんなことはどうでもいい。こいつは俺の敵なのだから。



 大会は予選と決勝リーグのトーナメント形式。俺たちと星野さんは別のブロック。つまり星野さんたちとは最後の最後、決勝戦で当たることになっている。


「修司、楽しみだね」


 俺と違って黒羽は緊張もせずにただ楽しそうに鼻歌を歌ってやがる。人の引退かかってるのにここまで能天気でいられるの才能だろ、、、


 そうは言いつつも予選リーグは相手に一ゲームも許さず圧倒的な差をつけて勝利。決勝リーグも何本か取られたが余裕をもって勝ち進んだ。


 そして今から最後の決勝戦が始まる。 



「それで大変長らくお待たせいたしました!決勝戦で戦う4人の選手の登場です!」


「まずは!予選リーグ決勝リーグでその高い連携で多くのプレイヤーを沈めた修司、黒羽チーム!」


 歓声がこの空間を熱くしていく。黒羽がきれいにしてくれたこの顔にはもう、無駄な感情はもうない。あるのは、楽しさと嬉しさ。それと、殺意。


「つづいて!日本ランク上位の二人が手を組み王者となった!光、大樹チーム!」


 俺達の歓声をかき消すほどの歓声が会場を包む。会場はやっぱり星野さんたちの空気に支配されている。


「改めて、よろしく。修司くん黒羽ちゃん」


「「よろしくお願いします」」


「会場の盛り上がりも最高潮!熱が冷めないうちに行きましょう‼」


「……それでは、ゲームスタート‼」


「黒羽。作戦通りにいこう」


「おっけ~」


 俺たちの作戦は俺がメインの攻め。黒羽がサポートする。予選と同じ動きだ。ただ、作戦通りいくとも思えないからそこらへんは臨機応変に。


「ライくん。悪いけど俺は好き勝手やるよ」


「ご勝手に~」



ゲーム開始約一分。


「みっけ」


「修司!止まって‼」


 黒羽の声を聞き俺は足を止めた。そして次の瞬間俺がいたであろう場所に矢が刺さっていた。


「大樹さんだ」


 大樹さんの使用武器は弓。|攻撃力にしかステータスを振らない《・・・・・・・・・・・・・・・・》。という超尖ったステータスから放たれる攻撃は盾の防御以外ワンパン。FPS経験者の大樹さんだから扱えるスナイパーライフルのような弓。

 もちろん、こうなることは予想していたが、放置はかなりできない。 


「私が大樹さんの相手するから修司は星野さんをお願い。」


しかし、これは作戦通り、黒羽が大樹さんのもとに向かう。


「わかった。まかせる。」


 黒羽はこの二か月の練習でかなりデス数を減らしている。

この大会では星野さんの次にデス数が少なく全試合で1デスしかしていない。

そして、黒羽はこの大会中|一度も攻撃をしていない《・・・・・・・・・・・》。黒羽が盾で守って俺が攻撃。そのフォーメーションがうまく刺さったこともあるが、向こうは黒羽の対策はほとんどできていないはずだ。


 黒羽が大樹さんのもとへ向かったと同時、俺の目の前には星野さんが現れた。


「わざわざ待ってましたね。」


「大樹には申し訳ないが君は僕が倒したいからね。」


 独占欲にも似たその感情が画面越しからも伝わってくる。

冷や汗が止まんない……怖い…………

 俺は剣とレイピアを強く握る。呼応するように星野さんはメイスとレイピアを装備した。


「じゃあ、行こうか」


 それは一瞬1Fにも満たない本当に一瞬の出来事。俺と星野さんの距離は限りなくゼロへと近づいた。お互いに制空権。攻撃の嵐だ。


 星野さんの攻撃は重いメイスの一撃とレイピアの連撃。どちらかに気を取られればもう片方に殺される。かと言って守りを固めても削りきられてゲームオーバーだ。


 なら、やることは一つ。こっちが死ぬ前に殺しきる‼


 俺のステータスはスピードと攻撃特化。怯んだら、俺に勝ち目はない!


 けど、向こうはプロだ。俺の攻撃を受けつつも、メイスを俺に当ててきた。俺は、その攻撃を喰らい後方に吹き飛ぶ。次の攻撃が来る!そう、身構えたが、それは杞憂だった。


「やめた。君、強くなってないじゃん」


「は?」


「君と最後に戦ったのは、確か2か月前だよね。君、その時から何にも成長してないよ」


「……君にプロの世界で戦う実力はないよ。諦めな」


 腹が立った。でも、それ以上に。怒りよりも先に沸いたのは殺意だった。

俺のことも知らずに、こいつは、俺を否定した。


 冷静な判断なんて、できなかった。ギリギリと歯ぎしりをする。

 コントローラーを握る手に、力が入る。


「お前だけは許さない」


 もう一度、激しい攻撃の嵐。星野さんは喜々として攻撃をすべて捌いていく。


「なんだよ! できるじゃん‼」


「俺が欲しいのはその殺意だよ‼」


だんだん、星野さんの攻撃が激しくなる。それに伴うように、俺のHPが削れている。

 

 それは、ほとんどの人にとっては気づくことのないほどのほんの少しの動作。星野さんが一瞬後ろに下がる動作を取った。俺はそれに合わせて前に出た。ただ、それは罠だった。星野さんはその行動を誘発させた。


 放たれたのはメイスの一撃。星野さんの得意技、システムが反応するギリギリのわずか数フレームの連撃。


 それを、受けることは必然だった。


「俺の勝ち。」


 勝負はもう決まっていたんだ。俺達の勝ち(・・・・・)と。

 星野さんのとどめ攻撃が落ちる前に星野さんを一つの槍が貫いた。黒羽の槍だ。


 黒羽の槍は攻撃全振りの大樹さんと同じステータスの振り方をしてある。ほとんどのプレイヤーはHPマックスの状態でも一撃で8割くらい喰らう。そんなのHPのけずれた星野さんと攻撃力にしか振ってない大樹さんが死なないわけがない。

 このゲームのプレイヤーに焼き付いた、槍は連撃が強い。というイメージ。

 ほかの武器と合わせて使うことが難しく、武器自体の強さも微妙。

 だからこそ、俺はそこに目を付けた。

 俺は最初から星野さんとまともにやりあう気はなかった。俺は囮だから。


「決まった‼今大会の優勝は修司、黒羽ペア!」


「黒羽‼」「修司‼」


俺たちは抱き合って嬉しさを分かち合った。



「二人とも優勝おめでとう。僕たちの完敗だよ。」


「「ありがとうございます!」」


大会が終わり控室で星野さんが声をかけてきた。


「それでまず、修司くん。途中ひどいことを言って悪かったね。ああでもしないと負けそうだったから」


「いえ、気にしてませんよ」


「そう言ってもらえるとありがたいよ。で、あれは全部作戦だったのかな?」


「ええ。2か月前の大会、あの時、星野さん、槍を使ってましたよね?」


「うん。確かに使ってたね」


「そのとき、星野さんは槍を連撃用の武器として使ってて、疑問に思ったんです。槍の使い方ってこれが正しいのかなって」


「それで、私と二人で、ずっと槍の研究をしていたんです。もしかしたら、槍の使い方は別にあるんじゃないかなと」


「それで、思いついたのが、それだったの?」


「まあ、そうですね。槍なら遠距離攻撃が来るって警戒されにくいし、初見殺しにちょうどいいって」


「そっか……」


「結果として、完璧に決まってよかったです」


「それはよかった。じゃあ、話も聞けたし、本題に入らせてもらうよ。…実は二人をプロとして招待したくてね、どうかな」


 それは俺が昔から夢見ていた世界。それも黒羽と一緒に。


「聞いたか!黒羽!」


「うん。修司一緒にプロの世界に挑戦してみようよ」


「それ、俺のセリフ!」


「ふふっ。私、修司の事好きだから。一緒にいれるなら、望んで地獄でも行くよ」


「え。」


「これから、よろしくね相棒」


「え、まあ。よろしくお願いします?」


 白い壁に囲まれた小さな空間に三人の笑い声が響く。

 これが終わりじゃない。これはやっとスタート地点に立つことができただけ。でも黒羽とならきっと大丈夫だ。俺たちは最強だから。


 これは、池谷修司が、恋人で相棒の相澤黒羽とともに世界一のプロゲーマーを目指す話。



「クソッ!俺があんなガキに負けるなんて!光だって、、俺がいなきゃダメなのに‼」


「いや、でも。奴らはこれから俺たちと同じ世界の人間だ」


「あんな、初見殺し。二度は使えない」


「なら、もう二度と俺たちに勝とうと思えなくしてやるよ」


俺の名前は湯沢大樹。

大好きな星野光のライバルでいつか彼を殺す男。

そして、俺に屈辱という初めての感情を与えた修司と黒羽を殺す男だ。


「覚悟しとけよ池谷修司。相澤黒羽。」


物語は始まったばかりだ

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