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グリム・ワールド・ウォーカー  作者: おな太郎
【第0章】プロローグ
1/20

プロローグ 「図書館の扉と歪んだ本」

それは、特別でもなんでもない、いつも通りの放課後だった。


 季節は春。

 千葉県柏市の市立図書館に、制服姿の俺――**周防辰樹すおう・たつき**は、ふらりと足を運んでいた。

挿絵(By みてみん)

 テスト前でもないし、特に読みたい本があったわけでもない。

 ただ何となく、本が読みたくなった。それだけの理由だった。


 「ラノベは昨日読み尽くしたし、ファンタジーって気分でもないし……」


 本棚を指先でなぞりながら、奥へ奥へと足を運ぶ。

 人影もまばらな図書館の一番奥――郷土資料や古書の並ぶエリアに、俺は足を踏み入れていた。

 埃っぽくて、静かで、時間の止まったような空間。

 そんな空気の中で、ある本が目に留まった。


 ――『グリム童話集(未分類)』


 黄ばんだ背表紙。黒ずんだ装丁。管理シールの貼られていない、異質な本だった。

 まるで、ここにあってはいけない本のように。


 「……変な本」

挿絵(By みてみん)


 呟きながら手を伸ばした瞬間、本がひとりでに開いた。

 ページが勝手にめくれ、風もないのに紙が舞い上がる。


 「なっ――」


 視界が白く弾けた。重力が消える。床が消える。

 浮遊感、耳鳴り、無音の世界。

 何かに吸い込まれるようにして、俺の身体は落下していった。


***


 ……気がつけば、そこは森だった。


 空は灰色の霧に覆われ、黒々とした木々が不気味に並ぶ。

 草の匂いに混じって血のような臭いが鼻を突き、風も音もなく、ただ獣の唸り声だけが遠くから聞こえてくる。


 「……どこだよ、ここ……」

挿絵(By みてみん)


 ぬかるんだ地面に手をつき、泥に汚れた制服で立ち上がる。

 あの図書館は消えた。街の喧騒も、スマホの電波も、すべてどこかへ消えた。


 見たことのない森。聞いたことのない獣の声。

 でも――なぜだろう。心の奥に、はっきりとした確信があった。


 俺は今、“グリム童話の世界”にいる。


 そしてこの場所で、すべての物語が始まる――

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