校内一の陰キャが学校のマドンナから専属騎士として直接指名!?
僕の名前は斎藤信士。地味で目立たず、どこにでもいる普通の高校生だ。いや、むしろ「陰キャ」と呼ばれても仕方ないくらい、クラスでは存在感が薄い方だと思う。
ある日の朝。いつものように教室で席についていると、隣の席のクラスメイトが鼻で笑いながら声を上げた。
「お前、またノート忘れたのかよ。マジで役立たずだな」
その言葉に続くように、別のクラスメイトまで加わってくる。
「そうだよ、陰キャは黙ってろって。空気読めないなぁ」
正直、もう慣れたものだ。僕は何も言い返さず、ただ机に向かってじっとやり過ごす。どうせ彼らは飽きるまでからかってくるだけ。目立たず静かに過ごせれば、それでいい――そんなふうに心の中でつぶやいて、小さくため息をついた。そのときだった。
突然、教室のドアが勢いよく開く音がして、クラスメイトの何人かがざわめいた。
「おい、神城さんだぞ!」 「今日もめっちゃ美人だな…」
視線の先には学園のマドンナ、神城亜美が立っていた。黒髪をなびかせ、凛とした表情で教室を見渡す彼女は、男子たちの視線を一身に集めている。そして、なぜかまっすぐ僕の席に向かって歩いてきた。
「……斎藤信士くん」
「えっ、俺?」
彼女の声に思わず顔を上げる。だって、僕と神城亜美にはこれまで接点なんて一つもなかったのだ。
「今日からあなたは、私の専属騎士よ!」
一瞬、教室が静まり返る。その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。周りのクラスメイトも驚きを隠せないようで、
「はぁ!? 斎藤が神城さんの騎士!? 冗談だろ!」 「意味不明だ…なんでこいつなんだよ!?」
と騒ぎ出す。僕のほうも困惑してしまい、
「ちょ、ちょっと待って…どういうこと?」
と口にしたが、彼女は軽く微笑んで、
「詳細はあとで説明するわ。それじゃ、放課後に校門で待っててね」
そう言い残して、さっさと教室を出ていってしまった。
「なんだあれ…斎藤が神城さんと!? 意味わかんねぇ」 「絶対何か裏があるだろ…」
周囲のざわめきをよそに、僕は胸に手を当て、小さく息を吐く。――僕が神城亜美の騎士? 一体どういうことなんだ。頭の中で疑問が渦巻くまま、放課後がやってきた。
放課後、いつもなら早々に帰宅するところだが、なぜか気になって校門で待つことにした。本当に神城亜美が来るのか、それともあれはただの冗談だったのか……。
すると、ほどなくして彼女が現れる。
「待たせたわね、信士くん」
まるで当然のように隣に立つと、その瞬間、まわりにいた生徒たちの視線が一斉にこちらへ集まった。僕は思わず彼女に問いかける。
「えっと…専属騎士って、どういう意味?」
神城亜美はどこか不安げな表情で口を開いた。
「信士くん、私、困っているの。最近、誰かに後をつけられているみたいで、夜道でも駅でも視線を感じるの。だから、誰か信頼できる人に守ってもらいたいと思ったの」
「…でも、なんで僕なんだ? クラスにはもっと頼りになりそうな人がたくさんいるだろ?」
そう尋ねると、彼女はまっすぐ僕を見つめて言う。
「信士くんが一番信用できるからよ。目立たないけど、いつも落ち着いていて優しい。そういう人に守ってほしいの」
その真剣な目に、僕は言葉を失う。そして、困っている人を見捨てるような性格でもない。
「…わかった。できる限り協力するよ」
「ありがとう! 信士くん、頼りにしてるからね!」
そう言って微笑む彼女を見たとき、なぜだか胸の奥が温かくなった。こんな僕でも、誰かの役に立てるのかもしれない――そんな気持ちが静かに湧き上がる。
その夜、さっそく僕は彼女の買い物に付き合うことになった。もし怪しい人物が現れたらすぐに対応できるよう、少し離れた位置から神城亜美の様子を見守る。
「信士くん、こっちのお店も見ていい?」
「ああ、好きなだけ見てきて」
そんなやり取りをしていると、明らかに不審な男が彼女をじっと追いかけるように歩いているのに気づいた。
(……来たか)
僕は気配を殺しながら距離を詰め、そっと亜美の背後に回った男の腕を掴む。
「おい、お前、何してる?」
「…くそっ、離せ!」
男は暴れようとしたが、幼い頃から身につけていた護身術で簡単に動きを封じる。すると、通りがかった警察官がやってきた。
「どうしました?」
「この男が彼女をつけていました」
警察官は男をしっかり取り押さえ、そのままパトカーへ連行していく。男は悔しそうに歯ぎしりしていたが、何も言わなかった。
「信士くん…本当にありがとう。警察まで来てくれたし、これで安心できるわ」
「よかった。何かあればすぐ知らせてくれ」
そう言い合いながら、彼女の目が少し潤んでいるのがわかった。その瞳を見つめながら、僕は自分の心臓が高鳴るのを感じた。
事件はあっけなく解決したが、その翌日、学校では「地味な斎藤信士が神城亜美を守った」という話題が一気に広まっていた。
「おい、聞いたか? 斎藤、あの神城さんを助けたらしいぞ」 「マジかよ…陰キャだと思ってたのに、意外とやるじゃん」
放課後、僕は再び校門で亜美を待つ。昨日の一件がまだ頭をよぎって落ち着かない中、彼女がゆっくり姿を見せた。昨日までの張り詰めた空気が嘘のように、どこか柔らかい表情をしている。
「信士くん、待たせたわね」
「いや、全然」
そう返すと、彼女はいきなり真剣な顔になって一歩近づき、声を落として言った。
「改めてありがとう。あなたがいなかったら、私はどうなってたかわからない。本当に…助けてくれてありがとう」
「そんな、大げさだよ。俺はただ…困ってる人を助けただけで」
「それでも、私にはすごく大きなことだったの」
彼女は一瞬視線をそらし、少し赤らんだ顔で続ける。
「私ね…信士くんのこと、もっと知りたいの。だから、これからも一緒にいてくれる?」
その言葉に、心の奥で大きな鐘が鳴ったような感覚が広がった。あのマドンナの神城亜美が、僕にそんなことを言ってくれるなんて……。
「俺でよければ…もちろん」
自然と口をついて出た返事に、彼女は満面の笑みを浮かべて僕の手をそっと握る。
「よかった…ありがとう、信士くん」
周囲がざわめいているのが耳に入るけれど、どうでもいい。この小さなつながりだけが、確かに僕の中で鼓動していた。
こうして、地味で目立たない僕と学園のマドンナとの不思議な関係が始まった。これから何が起こるのかはわからない。でも、今はただ、この瞬間を大事にしたい――そう思う。




