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お食事中の方は、登場する地名について深く考えずスルーすることをおすすめします。※ばっちい表現ありm(_ _)m

 豪快に散財するには何をしたらいいのだろうか。


 シオンは一言「(いくさ)をすればよい」と答えをくれたが、それはダメだ。(あきな)いの道が使えなくなってしまうではないか。


 だとすれば?


「そうだ。土地を買いやしょう!」


 だだっ広い土地がいい。広い土地ならきっと高いから。


 そんなわけで購入したのは、辺境の荒れ地リューゲロッタである。それはもう見事な……それこそ絵に描いたような不毛の大地である。地平まで続く白くひび割れた土に、ポツン、ポツンと枯れた木や動物の白骨がさながらオブジェのように転がっている。ともかく広い土地を、と求めたら手に入ったのがここ、リューゲロッタの地であったのだ。


 見るからに何の作物も育ちそうにないカラッカラの大地だが、ネネはそのただっ広さにとても満足した。買い物の充足感、いや、達成感にエヘンと胸を張った。


「ところでネネ様、ワシらはここで何をしたらよがんすかね?」


 連れてきたお(とも)のオジジたちが問うた。


「ハッ! 何も考えておらんかった……」


 そうだ。買った後のことなんぞ、まったく考えていなかった。だってお金を使うことが目的だったのだから。


「よがんす、よがんす。とりあえずワシらで何ぞ探してみますけぇ」


 途方に暮れるネネに、オジジたちは優しく笑顔でとりなした。もとより峻険(しゅんけん)な山里で採れるものを賢く慎ましく使ってきた鬼族である。今回だってなんとかなるであろう。そもそも農業をほぼやらない彼らにとって、目の前に広がっているのが不毛の大地であることはさして嘆くことでもないのだ。


 そんなわけで、腰の曲がったオジジたちはひび割れた大地にしゃがみこんで、とりあえず土をすくい上げてみた。カラカラに乾いた土は、サラサラと細かな粒に砕けて指の間から落ちてしまったが。


「あんれまあ! こりゃ、ぶったまげたぁ!」


 ややあってオジジのひとりが頓狂(とんきょう)な声をあげた。


「こいつぁ龍焼陶砂だよぉ!」


 龍焼陶砂とは、王族などに珍重(ちんちょう)される朱磁の原料である。名の通り、龍が灼熱(しゃくねつ)の吐息で焼き払った大地でしか採れない陶砂で、主に龍の巣の周辺で採れる。よって本来なら採集に大変な危険が伴うものだ。いくら身体能力の高い鬼族でも、大量に採ってくることは叶わない代物だった。それが、どういうわけかこの不毛の大地に(あふ)れている。


「龍の巣には見えねぇけどなぁ」


「ンだなぁ。でも、間違いなく龍焼陶砂だべ。ワシの目に狂いはねぇべさ」


「姫様はどえらいお宝を買われたもんだ……」


 ちなみに、龍焼陶砂から作られる朱磁は、その透明感のある朱色が柔らかで高貴な風合いの磁器である。原料の希少さゆえに大変高価で、ぐい飲み一つがちょっとした邸宅と同じ値段で取り引きされるほどだ。つまり、この不毛のだだっ広い土地代など、あっという間に回収できてしまうほどの莫大な利を生む。


 のっけから、ネネの散財計画は暗礁(あんしょう)に乗り上げようとしていた。




◆◆◆




「ハァ。次は何に金子(きんす)を使えばよござんすかねぇ」


 ヤマーダ伯爵邸にて、ネネは本日何度目かのため息を吐いた。あまり時間はない。実はまた婿殿から夜会に来いと言われているのである。


(早よう素寒貧(すかんぴん)にならねば、あのボヨヨンを妹にせねばならなくなりんす……)


 あのボヨヨン……もとい男爵令嬢アンナを妹にしようものなら、また純朴なユーリに粉をかけるに決まっている。ネネは眉間を()んだ。


「夜会か? なら俺が礼装を(あつら)えてやるぞ」


 対面に座ったシオンが眼鏡をキラリと光らせて言ってきた。本日の彼は、紺地に(しま)半纏(はんてん)木賊(とくさ)猿股(さるまた)、黒無地の脚絆(きゃはん)という(くつろ)いだ(よそお)いである。(つや)やかな黒髪も、(まげ)にはせず麻紐で(しば)って流しているため、もっさり感が(ぬぐ)えない。が、これが本来のシオンである。


「『どぅれぇす』はありやんすから……ハッ!」


 なぜ、いままで思い至らなかったのだ。



「それ!! 夜会……『ぱぁりぃ』を開けばええんでやす!!」



 『ぱぁりぃ』とは貴族を大勢招いて開くお祭りである。祭りとは盛大にやるもの。金子(きんす)を飛ぶように使うわけだ。そうと気づけば話は早い。




「頼もおーー!!」


 馬車に乗る時間も惜しく、直接愛馬雷帝(らいてい)(また)がり、文字通り夜会に乗り込んだネネは、鬼気迫る顔で婿殿に突撃した。


「婿殿、此度(こたび)はネネめに『ぱぁりぃ』のイロハを教えてくだしゃんせぇ!!」


「…………へ?」


 婿殿……もといナルシスは、爆速で現れた婚約者と間近に迫る馬の顔に思わず()()った。え、馬?




◆◆◆




 『ぱぁりぃ』の極意、その(いち)――絢爛豪華な新しい『どぅれぇす』を着る。


 ボヨヨンによると、『ぱぁりぃ』には毎度新しい『どぅれぇす』を(あつら)えるものらしい。お(ふる)で参加すること自体禁忌だったのだ。そして、新しい『どぅれぇす』は流行の最先端のものではならない、と。


「そいでネネ様、流行とは何でやんしたか?」


「ボヨヨンは『れぇす』とか『てゅーる』とか言っておりましたねぇ」


「れぇす……らぇーしゅ、らーしゃ、()(しゃ)?」


「てゅーる……ちゅーる、しゅーす、繻子(しゅす)でやんすか?」


 いろいろ読み違えながらも、何とかかんとか新しい『どぅれぇす』の絵図が完成した。さて次は?



◆◆◆



 『ぱぁりぃ』の極意、その()――もの珍しい豪勢な料理と美酒をふるまう。


「祭りの醍醐味(だいごみ)ですなぁ」


 祭りにはご馳走(ちそう)とお神酒(みき)がつきものである。これには鬼族たちもストンと納得した。お神酒(みき)、という言葉に顔を(ほころ)ばせるオジジたち。


「して、もの珍しい料理は何にしますかの」


 ネネはふむと考えた。婿殿の『ぱぁりぃ』では、皿の真ん中にちょこんと乗っかった肉やおかずがテーブル一杯に並んでいたが。


「そっだらケチくせぇ。祭りは大盤振(おおばんぶ)()いするもんだべ」


「だべさ」


 会議を見物にきた鬼族の子供たちに却下された。


大盤振(おおばんぶ)()いといやぁ、やっぱし芋煮だな」


「ンだ。鍋いっぱいの芋煮だべ」


 料理は芋煮に決定……と、そこでネネは思い出した。


「あと、しゃんぱんたわあ、なるものが必須とボヨヨンが言うておりやんした!」


 しゃんぱんたわあ、もといシャンパンタワーである。しかし、婿殿の『ぱぁりぃ』に実物がなくてボヨヨンが残念がっていた。


「しゃんぱんたわあ……しゃ……しゃぱ? サッパたわあ?」


「なんでもテーブルにうずたかく積み上げるんだそうで」


「ほほう。サッパをだか?」


「ンダンダ」


 ともかく、料理のアイディアは出揃(でそろ)った。むしろ、親しみやすい料理に鬼族たちは胸をなで下ろした。なお、サッパとは魚の名前である。

 とそこで、鬼族の子供が手を挙げた。


「ネネ様ァ、神輿(みこし)はないんだべか?」




◆◆◆




 『ぱぁりぃ』の極意、その(さん)――有名な楽団を呼び、優雅なダンスタイムを作る。


「だんすとは何かね?」


「踊りのことでやんす」


「楽団とは?」


太鼓衆(たいこしゅう)のことやと思いやす」


 つまり。


「盆踊りか!」

猿股・・・わかりやすく言えば半ズボンみたいなものです。股引ももひきの短いやつ

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