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桜色の帽子を被った少女

作者: ふーちゃん
掲載日:2023/12/11

線路を走る電車の音。

優しい日差しが駅前の広場を照らし、幾人かの男女が目の前を通り過ぎていく。

「寒い」

桜色の帽子をかぶった少女は、目の前を通り過ぎる大人達を見上げながら呟いた。

日曜日の早朝、平日は人々で溢れるこの場所も、この時間は人が疎らだ。

「雫、これで良いか?」

若い男性の声が聞こえた、

振り向くと、白いジャケットを羽織った背の高い青年が微笑んでいた。

「ありがとう兄さん」

手の平サイズの小さなスピーカーが二つ左右に置かれ、それに繋がれたスマホがブルーシートの上で転がっている。

「緊張する」

青年は膝を折り、少女と目線の高さを合わせ、背負っていたバックから少女に小さなそれを差し出した。

外国の舞踏会か何かで出てくるようなやつだ。

それをそっと付けてもらった少女は、彼を見た。

「少し見にくい」

「ごめん・・・痛くないか」

お面はプラスチック製で、両脇に空いた穴に太めの白いゴムが通っている。

「大丈夫だよ」

口元を僅かに綻ばせ、答える。

青年は、床に転がっていたスマホを手に取り、再び少女に目線を送る。

「準備はいい?」

「うん」

青年はスマホを操作し、画面上にあったひとつのアプリを起動させた

すると、床に設置してあった二つのスピーカーから静かに聴き慣れない音楽が流れた。

青年が先程起動させたアプリは、いま流行りの【曲製作アプリ】

自分が作った曲を動画へアップする事が今流行っている。

突然駅前に流れた音楽に、数少ない道行く人がこちらを見つめたが、すぐに興味を無くしたのか目的地である駅の改札へと視線を戻す。

いつもの日常。

いつもの景色。

少女は、ゆっくりと口を開いた。

瞬間。

ぴたりと、足が止まった。

近くを歩く『皆』の足が、である。

張り詰めたこの空気は、決して冬の寒さだけがそうさせているのではない。

皆の視線が、少女へと集まった。

明らかに、違う。

少女の口から流れるそれは、到底想像しうる少女のそれではなかった。

上手いとか、感動するとか、そんな類の言葉では表現できないもの。

あえて言葉にするなら、『揺さぶられる』そんな声。

時間にして、三分程度であったろうその曲は、その後にアップされた動画で、話題となった。

溢れるコメントの中で、誰かが呟いた一言に、皆が同意した。

沢山の人によって拡散されたその動画のタイトルに、皆が一様にこう名付けた。


『歌姫』と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 道行く人々が少女に惹きつけられる様子が目に浮かぶようでした。 『揺さぶられる』という表現も独特で、とてもいいですね。 寒い中駅前で歌う覆面の少女、画になるなぁと思いました。 ふーちゃんさん、…
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