17番線の秘密
みなさんこんにちは。蒼月トモカと申します。
うまくできているか分かりませんが、楽しく読んでいただければ幸いです。
※後書きにネタバレがあります。
駅―――それは、大勢の人が行き交う場所。そして、数多の出会いと別れの舞台。
光のさす所には、影がある。これは、そんな駅で起こった物語――――
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女子高生の少女は、電車に揺られながら、ぼんやりと考えていた。今日の宿題のこと。明日の授業のこと。家での過ごし方。… いつものことながら、つまらないことばかり考えている自分に呆れてしまう。でも、これぐらいしか考えることもない。今日も、明日も、その次も。いつも通りに、家を出て。いつも通りに、千葉行きか西船橋行きに乗って。授業を受けて。中野行きか三鷹行きで帰って。日常は変わらない。
「次は、新宿、新宿です。…」
もう次で降りるのか。何だかあっけなく、物足りない気がする。
ヒュー――――――ン プシュー―
ピンポーン ピンポーン
扉が開き、乗客が降りていく。流れに乗るようにして、少女も車両から降り、階段を下っていく。いつも通り左に曲がって。中央西改札から出て、その先へ進み、乗り換える。はずだった。
そこには、17番線があった。
たまたま、左の小田急線の改札を見やっただけだった。でも、記憶より5mほど離れたところにその改札はあって、その手前に、人ひとり通れるくらいの階段があった。そして、頭上には黒く塗られた看板があって。白く「17」と、ただそれだけ、書かれていたのだった。
いろいろと思考を巡らせて、少女は階段を上ってみることにした。階段の先に何があるのかは分からない。もしかしたら二度と戻ってこれないかもしれないと、頭の片隅では分かっていた。それでも、単調な毎日に与えられた刺激を、楽しまなきゃ損だと思ったのだ。
階段は、幅が狭い以外は、他のホームに向かう階段と変わらなかった。手すりもついている。
上りきったところは、ごく普通のホームに見えた。階段と同じく、幅は狭いけれど。左には、2本の線路を挟んで16番線のホームがあり、向こうまでホームが並んでいるのが見える。2本の線路のうち、手前が17番線のものなのだろう。右は…
何もなかった。本来なら、右には小田急や京王の線路やホームがあるはずだった。駅ビルやバスターミナルもあったはずだ。でも、それらは跡形もなく消え去っていて、それらの向こうにあるはずの、普段は見えない新宿中央公園やビルも、全てなかった。
その時、はたと気が付いた。右は、西だ。西にあるものがすべてないというのならば…
私には、帰る場所がない。家は、ここより西にあるのだ。友達の家も。小学校も。幼稚園も。公園も。自分の暮らしてきた場所が、全てなくなってしまった。
それに、日本中、ここより西がないのなら、日本は半分以上更地になってしまったことになる。親戚の家も、だいぶなくなってしまったのではないだろうか。
もし、物だけでなく、人もいなくなってしまったのなら。もっと大変なことになる…
そこまで考えたとき、大きな疑問が浮かんだ。
地球は、丸い。ならば、世界の西の端など、ないはずだ。日本はともかく、他の国はどうなっているのだろう。そもそも、この「17番線」はなぜ生まれたのだろう。階段を上る前に見た様子では、他の人は気づいていなかった。なら、西が更地なのは現実なのだろうか。夢でも見ているんじゃないだろうか。
その時、後ろから男の声がした。
「お嬢さん、貴女の思っている通りですよ」
思わず振り返ったが、そこには何もいなかった。
余計に怖くなる。今度は、若い女性のしゃべり声がする。
幼い子供。楽しそうな家族。気だるげな高校生。イチャイチャする恋人。のんびりしたお爺さん。…たくさんの人の声がする。でも、誰も見えない。
本をめくる音。鞄の開閉音。あくび。…音もする。でも、何も見えない。
気が付くと、左――東にあったはずのホームや建物も消えていて、荒野と化した一帯にあるのは、このホームだけとなっていた。この世界には、もう誰もいない。
少女の目は次第に霞み、混沌とした、色のついた霧が混ざったようなものしか見えなかった。もう音も聞こえない。匂いもしない。手に触れるものもない。自分の体すら、あるのかないのか分からなくなっていた。
意識が遠のいていく。自分がなぜ、こうなったのかを思い出すことさえできなかった。
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会社員の男は、一瞬違和感を感じて立ち止まった。さっきまで後ろからしていたはずの、足音が消えてしまったからだ。振り返ると、後ろにいたと思われる少女が、立ち止まって何か考えていた。
気を取り直して、男は歩き始めた。
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駅員の男は、驚くべき光景を見た。制服を着た、高校生と思われる少女が、壁に吸い込まれるようにして消えていったのだ。瞬きをすると、もういつものように戻っていた。最近寝不足だから、寝ぼけていたのかもしれない。道に迷った客がいたので、説明を始めた。
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霊媒師の男は、駅で不自然に笑った。彼の仕事は、未練がないはずなのに現世に残っている霊を、冥界に送り届けること。そういう霊は、単調な毎日を繰り返していて、それに飽き飽きしている。だから、日常に幻を生み出し、そこに誘い込むことで、成仏させることができるのだ。今日は、女子高生だったか。
未練がないのに現世にとどまることのメカニズムが分かれば、もう少し楽になるのに。いや、そうしたら自分の仕事がなくなるか。そんなことを考えながら、彼は帰途についた。
★ネタバレ
少女は、本当は死んでいました。そして、何故か現世に留まっていました。他者にも見えていました。
ある日、霊媒師の作戦通り、17番線に誘い出され、成仏しました。本人は状況を理解できませんでしたが…
という話です。
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