小指の爪すら欠けないのね。
作者は、ビジュアルなら、白より紅派です。
絡んで来たイルドを尊敬している節がある男は、長剣を振り上げた時、キサラは、左手の小指だけを立てて魔力で少し発光していた。
「くたばれー!」
キィン!
「……え!?」
「この! おら! せい! はあっ!」
キィン! キィン! キィン! キキィン!
まあ、あの作品のリスペクトから来る入れ知恵で、キサラには、向こうの剣での攻撃は全て左手の小指だけで防ぐ様に、と言ってある。
「ふ、ふぁ~。其方からの攻撃はまだですか? 」
「……な! ふ、ふざけるなぁ!」
しかし、どんなに攻撃を繰り返そうとも、キサラは退屈そうに、左手の小指だけで捌く。
「其方からの攻撃が来ない以上は、私から攻めてもよろしいかしら?」
「……くっ。」
「行きますわよ。」
キサラがそう言った瞬間には既にお互いの距離は肉薄し、キサラはデコピンの要領で、左手の小指を弾く。
「がっ……」
「幾ら模擬戦用とはいえ、小指の爪すら欠けないのね。」
「……し、勝者キサラ!」
因みに、キサラが本気の左手小指デコピンをしたら、相手の頭がスイカ割りになります。
「お疲れ様、キサラ。」
「我が君、如何でしたか?」
「ああ。見事な演技だ。」
「ユーマ様、何故、あの様な対応を?」
「まともな対応をしたら、ただ純粋にキサラが強いだけで終わってしまう。だけど、周りは俺が耳打ちした所を見ている。
そして、キサラは俺の馬鹿馬鹿しい指示に従う。つまり、従うだけの力が俺にある、という事になる。」
「ユーマ殿、本音は?」
「気に入っている強者の真似を直接見たかった……。」
「そんな事だろうと思ったわ。」
イルドとデコピンされた男が近付いて来た。
「外見だけで、判断して悪かった。」
「謝罪を受け入れる。」
イルドはきちんと頭を下げて謝罪した。
デコピン男は、何をしに来たんだ?
「なあ、あんただけ、3人の中で奴隷じゃないな?」
「確かに、私は奴隷では無いわね。」
「それなら、もし、金で契約しているのなら、その2倍、いいや、3倍払う。ウチに来ないか?」
「御断りよ。」
「即答か。」
「私を従わせたいのなら、最低でも、私より強くないと話にならないわ。」
「……そうか。」
この後、都市の散策をする事にした。
……冒険者ギルドに売る安い装備品が10人分になった頃、目に付いた食堂で軽く食べる事にした。
「結構、繁盛しているな。」
「そうだな。」
「いらっしゃいませ。あちらの席へどうぞ。」
ウェイトレスに言われるまま席に着きメニュー表を見る。
「……ウソだろ!?」
「どうした、ユーマ殿?」
「どうかされましたか、ユーマ様?」
「我が君?」
食堂のメニュー表には、「オムライス」や「ハンバーグ」や「コンソメスープ」とかが、並んでいた。
……ああ、マジかよ!?
「ちょっと君。」
「はい。ご注文は決まりましたか?」
「このメニュー表のこれらは初めて見たんだけど、どんな料理なんだ?」
「はい。これらは……」
はい。そのまんまでした。
此処での生活が生き甲斐なら、それで良いけど、もし違っているのなら……
「この料理を考えた人に会いたいな。」
「……でもぅ……」
「お願いするよ。」
そう言いながら金貨1枚を握らす。
ウェイトレスの少女はチラリと自身の手に収まっているモノを確かめる。
「もう、今回だけですよ。」
「分かっているよ。」
見事に釣られたウェイトレスは、厨房の方に行った。
「ユーマ殿?」
「ユーマ様?」
「我が君?」
皆の疑惑というか不安も分かるけど、俺も不安なんだよ。
……どうか、乙女ゲーのピンク髪のヒロインちゃんじゃあ、ありませんように!
「ほら、来なさいよ。」
『痛い! 引っ張らないで!』
良かった! 黒髪黒眼だ!
ピンク髪のヒロインちゃんじゃなかったよ!
……まあ、後になったけど、それよりも重要なのが、彼女、日本語で喋っているな。
トリア姉さん!
(完全に偶然だよ! 正しく天文学的数字に因って、この世界に次元の間から落ちて来たんだと思うよ。)
トリア姉さんの我儘で、念話が出来る様になりました。
ただ、他の神々の努力の結果、俺からしか出来ない様になっている。
「この娘が?」
「ええ。異国の言葉を話すから大変だけど、ウチのお父さんが雇ってあげてるの。」
スラム街の住人の様な服に、痩せた身体、カサカサの手。
一応は確認するけど、まあ、予想通りの答えが帰ってくるだろうなぁ。
「この娘は、どういう扱いかな?」
「雇ってあげるだけでも感謝して欲しいね。」
「……そうか。店主を呼んで。」
「はあい。ほら、来なさいよ!」
『だから、引っ張らないで!』
ちょっと待っていると奥から、店主が出て来た。
「何か、ご用で?」
「あの黒髪の少女を俺に譲る気は無いか?」
「いえ、そんな奴隷みたいな事は出来ませんよ。」
「勿論、店に損失が出るだろうから金貨2枚でどうだ?」
「……その程度では話になりませんな。」
「それなら、金貨10枚でどうだ?」
「……その……」
いきなりの5倍に途端に揺らいだな、店主。
「ならば、大金貨5枚でどうだ?」
「……」
もうちょっとだな。
それなら、押して駄目なら、を行くか。
「そうか。それなら、この話は無かった事に……」
「待ってください。」
「どうする?」
「大金貨5枚で譲ります。」
「良い判断だ。受け取れ大金貨5枚だ。」
俺は、店主に大金貨5枚を渡す。
「おい! あいつを連れて来い!」
「分かったよ、お父さん。」
ウェイトレスの店主の娘がまた奥に行く。
「ほら、来なさいよ!」
『もう、なんなのよ!』
店主が、彼女の前で俺を指差し、次に店主の手元の大金貨5枚を指差し、最後に彼女を指差し、手のひらを彼女に向けて振る。
『私、売られたの?』
この食堂には食べに来たんだけど、まあ良いや。
「皆、悪いけど……」
「構わないよ、ユーマ殿。」
「構いません、ユーマ様。」
「我が君の意思に従います。」
「ありがとう。」
まあ、この3人なら良いか。
俺は、彼女の手を繋ぐと食堂から出て、ある場所に向かって歩く。
ある程度歩くと、目的地に到着した。
勿論、彼女は日本語で「何処に連れて行くの?」とか、「私をどうするつもりなの?」とか言っているが、悪いと思うが無視させて貰った。
目的地は、この都市レギンガラムのクランブルム商会だ。
「いらっしゃいませ、ようこ……、ユーマ様!」
「急で悪いけど、事務室に案内を頼めるかな?」
「はい、喜んで。」
いや、有名チェーン店の返事をしなくても良いんだよ?
暖かい応援メッセージと星の加点をお願いします。




