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20 激励会

 ファルダとの面会も済ませ、エルーシアは大神殿に帰ってきた。緑の聖女と面会したことを大神官に話しに行くエルーシアの表情は冴えない。

 大神官に緑の聖女と面会したことを告げる。


「どうしたのじゃ? 緑の聖女に会いに行くと息巻いておったのに、元気がないのぅ」

「女神様は、私では力不足だと思われて緑の聖女が誕生したように思いました。私は植物関係に干渉ができませんので……」


 大神殿に帰る道すがら、地平線の下に沈みかけた太陽に照らされて黄金に輝く一面の麦畑に、エルーシアは言葉を失った。

 ファルダの聖女の力で育った麦が風に吹かれ(さざなみ)が起こると、麦畑はところどころ色を変えた。

 その様が美しく、エルーシアの心を囚えて離さない。ファルダのおかげで、どの作物も豊作と聞いた。

 豊作であれば飢えで苦しむこともない。ファルダは王国の危機を救ったのだ。


(私は……)


 ファルダの力を見せつけられ、胸が苦しく、焦燥感にかられる。


「エルーシア」


 大神官の凛とした声に、エルーシアは顔を上げた。


「そなたと緑の聖女を比べても、意味がなかろう。人には得手不得手がある。聖女と呼ばれる存在でも同じことじゃ。できることに、最善をつくせばいいだけじゃろう?」


 大神官は慈悲深い眼差しをエルーシアに注ぐ。胸に巣くう焦燥感が霧散し、消えていくのがわかる。

 エルーシアの一度目の人生が、無意識に二度目の人生を歩むエルーシアの足を引っ張る。

 もう、過去の出来事に振り回されてはならないと、気合を入れるためにエルーシアは両手で頬を叩いた。


 バチンと小気味よい音が部屋に響く。頬を叩く様子を目の当たりにした大神官はギョッとしてエルーシアを見守る。


「いったぁ〜 ちょっと強く叩きすぎちゃった」


 頬が赤くなるほどの力で叩いたのは己に喝を入れるためだったようだ。目の前にいるエルーシアは頬が赤くなってもスッキリとした表情になっている。


「吹っ切れたようじゃの」

「はい。私は私にしか出来ないことを、全うするだけです」

「うむ、それでいい。間もなく討伐の旅に出るじゃろう。陛下は勇者一行のためにパーティーを開くそうじゃ」


 出発の三日前に勇者一行のためにパーティーが開かれる。なぜ三日前なのかと疑問に思ったが、パーティーで羽目を外しても体調を整えるのに十分な時間をとったそうだ。

 王都の人々が目覚める前の早朝に出発することになっている。


 エルーシアは大神官に暇を告げ、部屋に帰りベッドに横たわる。


(私も土地や水や空気を浄化することはできる。でもそれだけだ。私が浄化した土地は草木を育む力まではない。数年は荒地のままだ)


 そして緑の聖女が荒れた大地を緑に変えていく。草木が生い茂り、多くの命があふれる森へと姿を変えてゆくのだろう。


(私は魔王と向き合わなければならない)


 エルーシアはそれを漠然と理解していた。







 普段は舞踏会が催される会場で、勇者一行を激励するためのパーティーが催された。


 高い天井は黄金色に輝く大きなシャンデリアがいくつも吊り下がり、ロウソクの炎の形に作られた魔石はまばゆい光を放つ。

魔石の下に連ねられたクリスタルは空気の振動で揺れ、チリチリと煌めく。

 壁に取り付けられたシャンデリアが繊細な光を(またた)かせ、会場内は淑女がまとう色とりどりのドレスを幻想的に浮かび上がらせる。


「国王陛下、王妃殿下、第一王子殿下、第二王子殿下の御成りー」


 会場に王族の登場を告げる声が上がる。

 やや間が空き、会場に王族が現れた。国王陛下、王妃、第一王子、第二王子が一列に並ぶ。


「皆、勇者一行のためのパーティーに来てくれたことを嬉しく思う。この場は魔王討伐という使命を課せられた彼らに敬意を表するものである」


 陛下の言葉に続き、扉付近に待機していた近衛騎士が声を上げた。


「勇者一行、ご入場ー」


 扉が開かれ、勇者を先頭に魔術師、槍使い、弓使い、剣士、聖女と入場する。一行は王族に挨拶をし、第二王子の隣に並んだ。


「勇者、ジークヴァルト・ノルデン」


 ジークヴァルトは一歩前に出て一礼すると拍手が湧き起こる。


「魔術師、ベルトラート」

「槍使い、エドガルト」

「弓使い、トルディラ・アインホルン」


 王女が弓使いとして討伐に行くと知り、会場内はざわめき割れんばかりの拍手と歓声が会場内に響く。


「剣士、ジークリンデ・ノルデン」

「聖女エルーシア」


 勇者一行の名前を読み上げたのは宰相だ。一行が紹介された後は楽団が音楽を奏で、招待客は歓談や食事を始めた。


 エルーシアはきらびやかな会場と貴族たちの華々しさに冷静を装うが、内心は場違いすぎて会場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


 勇者一行はそれぞれ家族や知り合いと談笑したり食事を楽しんでいる。場慣れしていないエルーシアは気配を消して壁の花になっていた。


「エルーシア」


 名前を呼ばれ振り向くと、レイノルドが立っていた。


「旦那様」


 エルーシアは王弟であり、かつて仕えていたリンデンベルク領主レイノルド・リンデンベルクに挨拶をする。


「元気だったか? そなたの母を連れてきたかったのだが、頑なに拒まれてな」


 レイノルドは申し訳無さそうにしている。


「いいんです。母も平民ですし、来ても戸惑うだけです。私もどうしていいのか……」


 身の置き所がないと、エルーシアは苦笑を浮かべた。


「そうか……エルーシア、リンデンベルクを出てから忙しい日々を送っていたそうだが、立派になったな」


 レイノルドは感慨深げに目を細める。エルーシアが女神の聖紋が発現したと告げに来たときの面影は残っていない。

 乳母の娘は神殿に行く前はおっとりとしていて、あどけなさを残していた少女だった。


 二年という月日が聖女らしく、清楚で芯の強い女性へと変貌をとげた。


「エルーシア、どうか無事に戻ってきてほしい」


 レイノルドは祈るような心持ちでエルーシアを見つめる。


「はい、旦那様」


 心配をかけまいと笑顔で返す。二人の様子を遠巻きに見つめる人物に、エルーシアは気づくことはなかった。

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