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12 お茶会

 ステンドグラスからしばらく歩いた先の部屋の前で、侍女は足を止めた。扉をノックすると、扉が開かれた。王女と伯爵令嬢が笑顔でエルーシアを迎えてくれた。


「お茶会にお招きいただき、ありがとうございます」

「来てくれて嬉しいわ。さぁ、こちらにいらっしゃい」


 案内してくれた侍女の姿はすでになく、エルーシアは一人で部屋の中に入っていった。


 テーブルの上にはケーキスタンドが置かれており、白い皿にはカラフルで可愛らしいスイーツが乗せられている。

 座るように促され、エルーシアは椅子に座った。


(どうしよう、ものすごく緊張してきたわ)


 華やかな雰囲気のなか、紅茶が置かれ、お茶会が始まった。


「勇者一行の女子会ね。これからは身分を忘れて、仲間としてよろしくね。わたくしは弓使いのトルディラよ」

「わたしは剣士のジークリンデよ」

「聖女のエルーシアです。よ、よろしくお願いします」


 緊張で自己紹介もたどたどしく、恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じた。素朴なエルーシアを二人は好ましく思う。


「エルーシアのドレス、素敵ね! あなたの雰囲気にピッタリだわ」


 ジークリンデがドレスを褒めてくれた。


「あ、ありがとうございます。お披露目のときに着ていた神殿服を、お針子たちがドレスに仕立て直してくれました」

「まぁ、あのときの服がこんなに可愛らしくリメイクされたの? 神殿のお針子たちは優秀ね」


 トルディラにお針子たちを褒められて、エルーシアは嬉しくて笑顔で何度も頷いた。


「ねぇ、お披露目って?」


 ジークリンデが不思議そうに呟いた。トルディラとエルーシアは顔を見合わせ、トルディラが口を開いた。


「王族に聖紋を見せて、聖女と認める儀式……かしら? わたくしには、陛下が誰よりも先に聖女が見たいがために作った儀式に思えたわ」


 頬杖をついて話すトルディラは無表情だった。


「お披露目が終わるまで、神殿を出るときはストールで顔を隠していました。神殿関係者には素顔で接していましたが……」


 エルーシアも言葉を濁す。

 関係者以外で、陛下は一番に聖女を見たかったんだなと、ジークリンデは理解した。


 紅茶をおかわりしたあたりから勇者一行の男性陣の話題になった。


「なんでわたしに勝てないジークヴァルトが勇者なのよ!」


 ジークリンデは双子の弟が聖剣に選ばれたことが気に入らないようだ。


「仕方がないわ、女神様の思し召しだもの。リンデには剣士としての使命があるから、勇者に負けない活躍をすればいいのよ」

「もちろん、ヴァルトになんて負けないんだから!」


 ジークリンデの威勢の良さに、エルーシアも同調する。魔王と戦う前に、魔王の魔力に当てられ、魔獣と化した獣や魔物をせん滅しながらの旅になるだろう。


 魔王が復活する前なら、封印を強化し、復活を阻止できれば、自分たちが(いにしえ)の勇者一行と呼ばれる位は平和な世界が続くだろう。

 もし、封印が弱まってしまったなら、その時代の聖女に任せなければいけないが、エルーシアは全魔力を注いで封印をする覚悟でいるので、未来永劫封印されたままでいてほしいと願う。





 ケーキスタンドの皿の白さが目立つようになった頃、トルディラが侍女に指示を出した。


 洗練された歩きかたに、優雅な振る舞いをする侍女は貴族の娘なのだろう。

 指示を受けて間もなく、ドレスと宝飾品に化粧品が並べられた。

 次から次へと運ばれてくるドレスに、エルーシアの表情はこわばっている。可愛らしい雰囲気のドレスからしなやかな女性を思わせるドレスまでそろっている。


(……見たこともない景色が目の前に広がっている……って、今から何が起こるというの!?)


 トルディラとジークリンデに視線を向ければ、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「じゃーん! エルーシアに着せたいドレスを用意してみたの。エルーシアはどのドレスがいいか、選んでね! その後にわたくしたちが選んだドレスを着てちょうだい」


 突然のことで呆気にとられたエルーシアはジークリンデに手を引かれ、ドレスの前まで連れられてきた。

 左端からゆっくりとドレスを視界に入れ、右端のドレスまで堪能する。見ているだけで、着た気分になり、十分満足した。


「どれか、気になるドレスはあるかしら?」

「え……見せてもらえただけで、満足です。きらびやかで、美しいドレスですね」


 エルーシアも年頃の娘だ。美しいドレスに、興味がないわけはない。しかし、着せてもらって、万が一汚してしまったら、大変申し訳なくて。


「遠慮しないで。せっかく侍女たちが持ってきてくれたのよ。ドレスを着たエルーシアを侍女たちにも見せてあげて?」


 トルディラの後ろに控えていた侍女たちも、笑顔を浮かべていたり、頷いている。そこまで言われたら、遠慮するのは失礼にあたる。エルーシアはドレスを丁寧に見て回り、一着のドレスに目を留めた。

 藤色の生地に水色のレースがあしらわれたドレスを手に取る。


「このドレスに決めました」


 エルーシアは気づいていないようだが、ドレスを手にしたその顔は、つぼみがほころぶように初々しい笑みをたたえていた。

 トルディラやジークリンデ、侍女たちは言葉を無くし、エルーシアの笑みに見惚れてしまう。侍女の一人が我に返る。


「エルーシア様、ドレスを着てみましょう」


 エルーシアは隣の部屋に案内されてドレスを着せてもらう。


「エルーシアって、あんな表情をするのね。あまり感情を出さないようだから、驚いたわ」

「思わず惹き込まれてしまったわ。わたしが男だったら、一目惚れしていたわ」

「ふふふっ、わたくしたち、女の身であってもエルーシアに見惚れてしまったじゃない」


 トルディラが扇で口もとを隠しながら笑う。


「装飾品はどれが似合うかしら? タンザナイトがいいかしら? バイオレットサファイアも似合いそうね」

「髪には真珠をあしらったらどうかしら?」

「いいわね! 清楚な雰囲気にぴったりだわ」


 宝石箱を開けて、エルーシアに似合いそうな宝石を二人で選び始めた。 

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