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【二条、頼綱夫妻に会う】

 久明親王が鎌倉に到着する前後の様子は、二条が記録している。“二条”は大納言久我雅忠の娘で、長じて後深草上皇の御所に女官として仕えた(【後嵯峨の死】参照)。その間、皇女を出産した事もある。しかしながら、彼女の名は後世に伝わっていない。

そこで、本人はこの呼ばれ方を嫌ったらしいが、便宜上「二条」と呼んでいる。

 一二八九年の時点で、二条は宮中の人ではない。しかし、“物事が見え過ぎる”彼女のような人にとっては、案外この方が幸せだったのかもしれない。

尼になった二条は、宮中で得た人脈を活かし、この頃全国の神社仏閣を精力的に回り、三月に鎌倉に到着していた。七月、病に倒れた事もあり、鎌倉滞在は長引いていた。


十月、久明親王が鎌倉に到着する前、二条は旧知の小野殿からある頼みを受けた。

平頼綱の奥方が、東二条院(後深草の皇后・二条とは犬猿の仲)から五つ衣を贈り下されたのだが、宮中風の縫い方が分からないので、教えに来て欲しいというのである。

二条は、出家の身でわずらわしいことは嫌だと断った。だが、小野殿が、終には執権北条貞時からの書状まで持ち出してきたので、“しぶしぶ”招きに応じた。


相模守邸に着いた二条の前に、まず現れたのは夫人だった。薄青の地に、濃い紫色の糸で紅葉を織り浮かした着物を二枚重ねで羽織っていて、気位が高そうで、背丈も高い。

『かく、いみじ』(とはずがたり)

“これはまた、何とも”

二条は、その派手な衣装に、半ばあきれつつも感心した。

 そうこうしていると、壮年の男が、向こうから小走りで部屋に入って来た。

『袖短かなる白き直垂姿にて馴れ顔に添ひゐたり』

“袖が短く白い直垂姿(腕がはみ出た姿)で現れ、馴れ顔で夫人の横に座った”

どうもこの男が平頼綱らしい。もっとましな人物を期待した二条は、感想をこう記す。

『やつるる心地し侍りし』

何だか二条は疲れたが、それでも気を取り直して、指導に当たった。

二条の適切な指導を頼綱夫妻は大いに喜び、この後、二条は貞時のお声掛かりで、将軍を迎える間の調度まで直す羽目になった。

二条がここまで歓迎されたのは、彼女が後深草上皇と深い係わりを持つ重要人物とみなされたからであろう。頼綱は、然るべき地位も持たず、幕府に君臨している。

そのきな臭さを隠すため、朝廷の権威が大いに利用されたのである。

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