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【雪解け】

 両統迭立が始まった朝廷は、喜劇の舞台と化しつつあった。貴族達は、保身のため、今日は後深草上皇に伺候し、明日は亀山上皇に伺候する。その姿は、さながら道化であった。

一二七五年十一月、父帝の死後、仲違いしていた母大宮院と後深草が、珍しく対面した。

『今宵は珍しくなん。心とけてあそばせ給へ』(増鏡)

などと大宮院が後深草に語りかけ、宴がはじまる。名目は、伊勢に下向していた斎宮(後深草の異母妹)の帰京を祝う会。権大納言西園寺実兼らがこれに相伴した。

雰囲気は和やかで双方にこやかだったが、実兼達が飲む酒は、何故か美味くなかった。それでも、後深草が今様を謡ったりして、座が盛り上がってきた頃、大宮院曰く。

『天子には父母なしと申すなれど、十善の床を踏み給ふも、いやしき身の宮仕ひなりき。一言報い給ふべうや』

“天子に父母はいないと世間では申すそうですが、あなたが今あるのも、卑しい身の私が後嵯峨院にお仕えしたからです。もう一声謡ってくださいな”

この言葉に、座の歓声は掻き消され、貴族達は凍りついた。

『人々目をくはせつつ忍びてつきしろう』

“実兼達は、慌てて互いに目配せし、次々に大宮院の言葉に追従した”


また、亀山と後深草が、同じ牛車に乗って出かける姿も見られるようになった。

『御仲快からぬ事、悪しく東ざまに思い参らせたるといふ事聞えて』(とはずがたり)

“(但しそれは、)二人の不仲に幕府が難色を示しているからでした“

 そのため、宴席などでの二人の遣り取りは、何かと周囲の目を気にしたものが多い。

『故院の御時、定めおかれし上は、今更にやは』(増鏡)

“後嵯峨院の時に、(兄君が)上座と定めているのに、今更対座などとは”

『朱雀院の行幸には、あるじの座をこそなほされ侍りけるに』

“(源氏物語の)御幸の場面では、主人(亀山)の座を対座に直したものだ”


こうした状況に焦りを募らせたのが、亀山であった。

朝廷指導者として、実績を上げなければ、いつ兄に地位を奪われるか分からない。

亀山は、自ら評定(会議)を積極的に主宰し、政務に勤しんだ。

兄と結び付いた関白鷹司兼平が権威を強化した事にもめげず、亀山は「治天の君」(朝廷指導者)たる自らに貴族達を屈伏させ、権力の掌握を推し進めていくのである。

後世、亀山は、朝廷改革を進めた指導者として記憶されている。

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