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第七話 超絶美少女

「ひっ」


「超絶美少女の顔見て、怯えた顔するなんて失礼極まりないわね」


 美少女は不服そうに言う。

 見たことはないけど、ここら辺にいるってことは、影者討伐隊の一員なんだろう。シェルターにいる人たちが、ここまで来られるわけがない。


「超絶美少女……」


「もしや自分で言うんだってちょっと引いてる? でもさでもさ、実際そうじゃない?」


 美少女は、そのサラッサラつやっつやの髪をなびかせた。

 暗いせいで詳しくは分からないけど、明るい髪色が月光に反射する。

 確かにそうだ。確かにそうだけれども。


「いや、別に引いてるわけじゃいけど、その、あまりにも突然で……それに自然体だったから。……こんなとこで会うわりには」


 普通規則やぶったとこで人に会ったら、もっと慌てるもんだと思う。

 けれどたじたじと言うと、目の前の美少女はまるで当然と言わんばかりに不思議そうな顔をした。


「だってそれを言ったら、貴方だってそうでしょう? お互いやぶってるんだし、わざわざ告げ口もしないでしょう? the same to youよ。the same to you」


 美少女はやったら発音よくそう言うと、急ににっこり微笑んだ。英語の部分はなに言ってるか全くわからなかったけど、たぶんお互い様、みたいなことを言ってるんだろう。


「ねぇ、貴方の名前はなに? 私は月影 朔(つきかげ さく)。こんなところで出会ったんだもの。ゆっくりお喋りでもして帰りましょうよ」


 月明かりに白く浮かび上がる美少女ーーもとい、月影 朔は、髪をかき上げると、寮に向かって歩き出した。白いワンピースが揺れる。慌てて、朔に着いていく。


「俺は、祈夜 灯璃です。第13期生です」


「あっ、じゃあ、私と同期じゃん」


 朔が目を見開く。

 それから驚きに満ちた表情で、感慨深げに頷いた。


「そっか、でも、同期かぁ……。まさかこんなところで同期の子に会うと思わなかった」

 

 確かに同期がまだ生き残ってると、朔は思わなかっただろう。だって。


「だって、同期の子たち、みんな死んじゃったと思ってたからさ……この前の事件のときに。ていうか、そう噂になってたし」


 顔を覗きこんでくる、俺の顔よりほんの少し下にある目。消えた笑顔と、色のないそれを見て、思わずひゅっ、と息を飲んだ。


「確か突然大量の影者に襲われたのよね。しかも全員死んじゃ……いや、1人だけ生き残ってたんだっけ? それにしても不運なこともあるものね。私は最大でも7体くらいの群れにしかあったことないのに。……まぁ、こんな風にしてよく脱走して散歩しちゃうから、同期の中で1番殺してる自信はあるけど!」


 相変わらず探るように見つめてくる。なにが言いたいんだ、この少女は。

 言いようのない不安に襲われる。

 なにもやましいところなんてないのに、手まで勝手に震えだした。生温かい夏の空気には似合わない、ひどい緊張感。でもそれは、目の前の少女から発せられているのだ。


「だね」


 どうにか1語だけ返すと、やっと朔は前を向いた。


「……生き残ったの、貴方なのよね」


 やはり、かなり詳しく知っているらしい。

 だって魔王と会ったときのことは、討伐隊の中でもそれほど詳しく情報公開されているわけではないから。不正確な情報が多すぎて、公開できないとも言えるけど。


「うん」


「影者が現われたとき、どう思った? 嬉しい、とか悲しい、とか、できれば感情で答えてもらえれば助かる。そういう場面にあったことないから、参考にさせてもらうわ」


「怖い、と生きたい……あとこんな異常事態を、どうやったら影者討伐隊の人たちに伝えられる――つまり、誰が生き残ったらそれができるか、かな……。結局、人を助ける時間も余裕もなかったけど。自分のことに精一杯で」


 本当に朔は、なにが言いたいんだろう。

 参考にしたいなんて言ってたけど、目的は絶対にそうじゃない。

 杞憂かもしれないけど、朔の言葉になんて答えたらいいか、それがいちいち怖い。

 だからあえて、正直に答えた。正直に答えたほうがちゃんと伝わる気がした。朔の求めている、なにかが。


「なるほどね」


 俺の不安をよそに朔は、うなずいた。

 それから確認するように何度もなにか呟く。ただそれは小さな小鳥のさえずりのようで、詳しくは聞こえなかった。


「分かった。あんたはきっと、悪い人じゃない」


 そう言ってもう一度頷くと、前を向く。

 寮はもうすぐだ。

 わずかに前を行く朔は、さっきとはまるで違う笑顔で、振り返って、一言。


「あぁあと、寮に着いたから言うけどさ、僕男だからね? その辺勘違いされるとめんどくさいんだよね。今日外うろついてたことには、目をつむったげる。じゃ」


  振り返ることもなく、ただ手を振って去っていく。男子寮へと消えていくその背中を見てしばらく呆然とし……


「ハァ!? えっ、ちょ、どういうこと!?」


 俺は思わず声を上げた。


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