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第六話 魔法の実験

「さすがに夜でも暑いな。……夏だから仕方ないか」


 煌々と輝く月に、手をかざす。

 今は7月。夜でもムシムシしていて、暑い。セミの鳴き声もうるさいし。

 それに影者討伐隊の中でも絶対の禁忌『勝手に拠点の敷地内から出る』というのをやって、俺の気分は高揚していた。


「でもこのタイミングで手続きを取っても、怪しれるだけだもんな」


 この前の事件があったばかりだ。

 なんだかんだ言って俺は未だ危険人物に認定されてるだろうし、そう許可は出ないだろう。最悪、また尋問が始まるなんてこともある。


「まぁ、首尾よくに抜けられたのは良かったけど。警備の人寝てたし」


 結局この脱走の収穫は、警備の手薄さだったかもしれない。だって本来影者の侵入や脱走犯を見張るはずの門の警備がぐっすりすやすやなんて、こっちがおちおち寝られたもんじゃない。


 誰もいないという解放感から、1人でぶつぶつ呟きながらひたすら道を進んでいく。


 影者が街を闊歩するようになってから、シェルター以外に、ほとんど、人はいなくなった。いるとしたら同じ影者討伐隊の誰かだけど、脱走は禁忌だしな。よっぽどの理由がないかぎり、俺以外にするやつもいないだろう。


「よっぽどの理由、か……」


 俺が外に出たのは、よっぽどの理由……ではあった。


「なにしろ魔法が使えるかどうかの確認なんて、この時間にしかできないからな」


 そういうことなのだ。

 俺が魔王から魔力とやらを授かったとき、人のいるところでは使えないなんて呪いまでもらった。

 ついでに、ここ数日間、如実に感じる体の変化まで調べたい。


「どこまでの精度なのか、ついでに魔法を使って、どうやってモンスターを倒すか考えないと」


 けど今日1番調べるべきはやっぱりそれだろう。

 いくら魔法が使えても、戦闘のときに役立たかったら意味がない。


「さすがにここくらいでいいか……」


 念には念を入れて歩き続けて、小1時間。少し拓けた場所に出た。

 ダンジョンができる前は、公園かなにかだったのかもしれない。奇妙なオブジェと、大きめの気が何本か。ちょうど周りの視線から逃れられそうだし、かなりいいところを見つけられたかも。


「まずはなにからしよう……」


 魔法といっても、そもそも使い方も分からない。‘‘使えるようになった‘‘という事実だけ、魔王からは教えられた。


「ゲームとかでは詠唱したら魔法が使えるやつがほとんどだよな……でも俺詠唱なんて教わってないし……」


 もしくはよくある詠唱なんてのを唱えたらいいのかもしれないけど、あいにくそんなものはいちいち覚えていない。ゲームにのめり込むような性格でもないし。


「他の可能性といえば、イメージがカギになってる、とか」


 イメージ。魔法の。

 そういや魔法ってどこから出すんだろう。普通に考えたら、手か?


 手に神経を集中させ、目をつぶる。

 火でも出して、火事になったら困る。だからここは、水で。


 水が手から出て、傍にあったベンチを破壊する。


 精密に、イメージを描く。


 しばらくして手に違和感が生まれ、目を開けると、手から出た水がベンチを破壊していた。


……成功だ。


「よしっ!!」


 思わず声が漏れた。

 これで魔王にも一歩近づいた。そんな気がする。実際はスタートラインに立っただけなんだけど。


「他のやつも、イメージでいけるかな」


 ごく少量で、火、電気、岩、と生み出していく。水と同じようにすれば、ごく簡単にできた。


「これで魔法は操れるようになった、か」


 何回か繰り返していくと、だいぶ慣れてきた。

 考え出せば魔法なんていくらでもできるだろう。その考え出すってことが難しいんだろうけど。


「今日みたいに、そう脱走もできないだろうし、とりあえずイメージの練習だけするか」


 影者討伐隊の拠点に人の全くいないところなんてそうない。寮の俺の部屋は基本誰も来ないけど、その前に失敗して黒焦げにするほうが怖い。


 完全に操れるようになるまで1時間ほど、ひたすら魔法を出し続けた。

 魔王が言っていた通り、魔力が無限にあるからか、疲れることはなかった。ゲームとかだったらMP切れよくとかあるもんな。それを考えたらありがたい話かも……ありがたい話なのか?


「まぁ慣れたし、帰るか」


 あんまり長いことしていたら、寝不足で明日の任務に差し障る。今もたぶん1時くらいだし、帰ったら2時。ただでさえ朝の6時に起きなきゃならないのに、睡眠時間が少なくなりすぎてしまう。


「あ、でも、魔法を使ったらいいのか」


 しばらく歩いてから気づいた。魔法を使えばいいんだ。

 自動運転の車みたいなのができて、寮まで乗せてってくれる、みたいな。


 頭の中で想像する。イメージもだいぶ上手くなって、目をつぶらないでもできるようになった。

 だけど、手からはなにも生み出されない。


「あれ、失敗……?」


 さすがに都合がよすぎたんだろうか。

 考えても分からず、諦めて寮まで帰ろうとして、気づいた。


「影者がいる……?」


 どういう仕組みかは分からないが、影者がいる場所がはっきり分かった。

 だいたい自分から5メートルくらいのところ。

 もしかしたら突然射撃がうまくなったのも、これが原因だったのかもしれない。


「まさかモンスターが近くにいたらできないとかそういうのじゃないよな……」


 そんなことを魔王は言ってなかった。むしろ、魔法を使って倒せとまで言っていた。だから、違うとは思うけど。


「それか、人がいるか……信じられないけど、そうとしか考えられないよな」

 

 たぶんこの辺をうろつけるとしたら、影者討伐隊の誰かしかないと思う。知り合いに、隊の規則をやぶるような人なんて思いつかないけど。


 パンッ!!


 不意に銃声が聞こえた。おそらく例の人が、影者を撃ち殺したんだろう。影者の気配もちょうど消えた。


「見に行くべきじゃない、かな」


 倒せたんだったら、手助けする必要もないだろう。たぶんこんなとこで人に会ったら、ロクなことにならない。

 そう判断し、影者のいなかった方から寮へと歩き出す。


 なのに、だ。


 5歩歩いて、気配を感じ顔を上げると鼻先に、超絶可憐な美少女の顔があった。


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