第五話 久しぶりの任務
窓から顔を出すと、景色が流れていった。青い空。白い雲。それに錆びたビルたち。
よく晴れてるけど、暑すぎるくらいだ。
「久しぶりだろ」
運転席にいる有明さんが振り返る。
「えぇ、ずっと部屋にこもっていたので。外はすごく、懐かしいです」
太陽が目に染みる。ほんとに久しぶりだ。季節はいつの間にか、夏になっている。
「今日の任務はそんなに大変じゃないそうだからな。たぶん大丈夫だと思う」
「任務、久しぶりですしね……。有明さんには本当に感謝しかないです」
「ははっ。礼なんていらないぞ。これでも情報部隊のエースだからな。任務のセッティングくらい朝飯前だよ」
「いっ……」
有明さんが笑った拍子にバシン、と背中を叩いてきた。痛い。影者討伐隊1の筋肉を舐めないでほしい。
「まぁそれはそうと、どうだ? 久しぶりの任務」
不安そうにこちらをうかがってくるボディービルダー。俺は少し口角を上げた。
「まだまだ緊張しますが、とりあえずは大丈夫です」
ーー長い休憩が急に終わりを告げたのは、昨日のことだった。
魔王と出会ってから約1か月。
すぐに復帰させてほしいと頼んでいたのに、実際に任務に関われるようになったのはずっと後になってからだった。関われる、と言っても、車の点検の補佐とかだけだったし。
影者は車の中から撃ち殺すことが多いから、重要な仕事ではあるんだけど。
ちなみに有明さんには目を覚ました3日後には働かせてほしいって言ってたんだけどな。上からのお許しが出なかったらしい。
任務の代わりに待っていたのは、1週間にわたる尋問だった。あれだけ大きくて、たくさん人が死んだ事件だったんだから、仕方ないかもしれないけど。
なにがあったのか。なんで俺だけ生き残ったのか
いろいろ聞かれたけど、全部適当に理由を作って喋った。魔王に出会ったなんて言うわけにもいかないし。突然影者が現れたことにして、それに合わせて考えて。
さすがに1週間も経てば、疑いとかその他が晴れたのか、終わったけど。
「灯璃、右前方から影者来てるぞ。いけるか?」
「はい」
有明さんの声で我に返る。なんだかんだ言って、久しぶりの任務だもんな。気を引き締めないと。
あとはただひたすら、有明さんの声に耳を傾けるべし。
有明さんは情報部隊の人だから機械には慣れていて、討伐専用の車についている対影者用のレーダーも簡単に操作することができるのだ。
影者討伐のときは、情報部隊の人に言われた影者の情報をもとに、討伐部隊の人間が撃ち殺すことになっている。
俺は肩にライフルをかけた。
「向かってきてる。撃てるか?」
「はいっ!」
言いつつも、有明さんもライフルを取り出した。緊急時でも対応できるように、情報部隊の人たちも銃の扱いには慣れている。
右の標的に的を絞った。一瞬が命取りになる。集中しなきゃ。
「あれっ?」
若干声を出しつつ、引き金を引く。有明さんは声には気づかなかった。
なんだかいつもと感覚が……まるで、心と切り離された体の部分が、勝手に意志を持ったみたいだ。
パン、と小気味いい音がして、俺が放った銃弾は、影者の頭を貫いた。影者が、黒い煙になって消える。
次は、道路真ん中から左端にかけている集団。影者は全部で5体、こちらに向かってきていた。
的を定めると、また変な感覚。
今度は、パンパンパンパン、と一気に4体仕留めた。
手が勝手に動いて銃を撃つような、そんな感覚だ。
しかも、狙ったところから寸分狂うことがない。
「今日調子いいな」
目を丸くして有明さんが言う。
そりゃそうだ。いつもの比じゃないくらい、今日は命中精度が良い。
「久しぶりで、集中してたからですかね……」
「そんなもんか」
「そんなもん、ですね……」
自分でも不思議に思いつつ答えると、有明さんは苦笑した。




