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第一話 怖いほど、穏やかな午後

「いやー、今回はガチで手こずったなー」


「それなー。まじで死ぬかと思った」


「まぁ、まさかあんな数が出てくるとは思わなかったからな。誰も死ななくて本当良かったよ」


 ……ほんとに誰も死ななくて良かった。誰が死んでもおかしくない戦いで誰も死ななかったのは、奇跡に近かった。奇跡が起きて、良かった。


 すぐ隣で片付けをしつつ会話する先輩たちの言葉に内心頷く。


 空を見上げて、作業が終わって手を止めつつほっと息をつく。抜けるように青い空。穏やかな空気は、さっき訪れたばっかりの平和を象徴しているような気がした。これからは白い鳩と同じ扱いにしてもいいんじゃないかな。


「よっ、と」


「わっ」


 バシン、といきなり背中を叩かれて、意識が現実へと戻る。

 振り向くとそこには見知った顔。いや、見知ったってより、見慣れた、の方が近いかな。なんせルームメイトだ。毎日顔を合わせるし、なんなら兄弟よりお互いのことを知っている。

 

「ボーッとすんな。まだ危ないんだから。なんだサボりか?」


「あぁ、(けい)か。別に。気が抜けただけ」


「まぁな。今回は数も多いってか、異常だったし……俺も今回ばっかりは命の危険感じたわ」


「お前は毎回感じるべきだけどな」


「うるせーよ。あ、ちょっとこれ持ってて」


「持っててって……ライフルじゃねぇか!? まだ危ないんだから気をつけないといけないんじゃなかったのかよ」


「いやちょっとな。撤収の合図があるまでここらを散策しようと……」


「ハァ!?」


「大丈夫大丈夫」


 ルームメイトの圭は、親指を突き立ててにっこり笑うと、そのままどこかへと歩き出した。


「まじかよ……」


 彼のライフルを手元に、思わず呟く。

 今しがた去っていった圭の異名は、"影者討伐隊(かげものとうばつたい)1番の問題児"だ。まぁ、そう言われるのも分かるな。……いや、分かるなんてもんじゃないわ。骨の髄まで染みてるわ。寮でもいっつもうるさいし。


「まぁ大丈夫か。あれだけ殺したら、もう出てこないだろ。()()()()も」


 それに今は絵に描いたような()()()()午後だ。先輩たちの表情も柔らかいし、街は静かだし、空は抜けるように青いし。


――そう、怖いくらいに。


 これからなにか起こるんじゃないかってくらいに、穏やかだ。うすら寒いくらいに。こんなの勘でしかないけど。


「ま、考えすぎだよな。せめて武器くらいは持ってってほしかったけど……」


 ライフルを手に呟く。


「報告も終わりそうだし」


 先輩たちが作業する方へと顔を向けると、キビキビと報告する様子が見える。今日の任務の詳細を、上へと伝えるのだ。


「早く1人前になりたいなぁ」


 俺はまだ1年目の新人だ。任務も後ろで援助しているだけ。早く、早く先輩達みたいに活躍したい。


「報告できるようになるには……あと1年か。頑張らなきゃな」


 せめてなにか手伝おうと、圭のライフルを肩にかけようとしたその瞬間だった。


灯璃(とうり)、逃げろ!!」


 ひったくるようにしてライフルを取られて、ついでに手を引かれる。


「ハァ!?……って圭!?」


 珍しく焦った顔をしている。


「速く、逃げるぞ……」


「は……」


 声が漏れる。骨が折れそうなほど、右手が握られてそして、


 急に軽くなった。


「圭……!?」


 人が弾け飛ぶ音を、人生で初めて聞いた。

 吹き出した血が全身にかかる。


 今、なにが起こった……?

 

 相変わらずがっちりと握られた右手。その先は……。


 まさか、影者? まだ残ってたのか……?

 でもさすがにそんなことは……。


「みんな、逃げろ! もしかしたら影者が残ってるのかもしれない!」


「しかしレーダーは反応していませんっ!」


「なに!? だけど、でもこの弾け方は影者の仕業だろう!」


「しかしっ……!」


 途端に混乱する現場。それでも隊員たちは警戒態勢に入った。

 そんな先輩たちを横目で見つつ、右手を見つめる。


「圭は死んだんだよな……」


 呆然と呟いた。右手の先は空白だ。文字通り、何もない。

 全く動かない頭で、どうにかそれだけを噛みしめる。


「くそっ。あのとき止めときゃ良かった……!」


 唇から血が流れた。

 一瞬追悼するように目をつぶって、あたりを見回す。なにが起こってるのかはまったく分からないけど、きっと先輩たちは頼りになるはず……


「これからどうすれば……」


「影者だったら戦えるのでは!」


「でも姿が見えないんだ! どこに撃てばいいかも分からないのに、戦えるか!」


「しかし今は……」


 慌てた先輩たちはどうすることもできないみたいだった。こんな現場じゃ経験は頼りにならないのだと、頭をガツンと殴られたような気持ちになる。


「じゃあどうする……!」


 この班の班長をしている男――峰岸(みねぎし)――が叫んだ瞬間だった。班員はそれぞれ絶望したりライフルを構えたり、もしくは車へと走って行ったり、まるで統率が取れていない、そんな時を狙ったかのように、1つの影がぬっと現れた。


 すぐに誰もが静まった。視線がその男に釘付けになる。

 ダサいアロハシャツを着た中年男性。

 頭はハゲてるし、目も細くて消えてしまいそうなほど。


 強そうとかそんなでもないのに、誰も微動だにせず、逃げも隠れも、戦いもしない……否、できない。

 まるで体がその男に吸い寄せられるように、なにもできなくなった。体の自由が効かないわけじゃない。動けないわけじゃない。きっと動かそうと思えば動かせるし、攻撃しようと思えばできる。

 

 なのになにも、できなかった。


 しばらくして、目の端が誰かが動いたのが写った。


(班長か……)


 我先にと、車へと走り出す。どうやら自分だけでも逃げるつもりらしい。

 男を危険人物だと判断したのか、もしくはさっさと逃げるべきだと思ったのか……。


(そもそもあの男はなんなんだ……? 人間じゃないことは確かだけど)


 急な緊急事態に直面したからか、変に冷静になった頭で考える。もう誰も頼りにならない。ごくっと唾を飲み込む。

 

 なにが最適だ? 今はどうすれば生き残れる?

 どうすればいい……?


 班員の行動を全て視線で追う。逃げる者隠れる者ライフルを構える者。


 数秒の間に全てを視認する。どれが最適だ?


「なるほどなぁ……」


 不意に男が呟いた。顔を振り向けると、バッチリ目が合う。

 男がふっと笑ったその時、この場にいる俺以外の全ての人間が


――爆発した。


最後の改稿のつもりです……

矛盾点などが生じない限りは、改稿することはないと思います。

ゆっくり楽しんでいただければ、嬉しいです。

四話くらいに詳しい設定が書いてあります。

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