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第十四話 朝ごはん

 そもそも影者がいなくなったあと、影者討伐隊は解散した。

 ――解散したのだが、みんなそんな簡単に就職先が決まるわけではない……ということで、それぞれ寮、食堂、本部だけは解放されていた。もちろん、最低2年の猶予つきで。

 つまりシェルターの外だけど、備蓄食料などは困らない程度にはあるわけで。わりと早い段階で、俺たち以外はシェルターに戻ったし。


「たぶんここの食堂のいいとこってさぁ」


 向かい合わせで座る朔が、唐揚げを頬張りながら言う。

 料理が得意らしい咲夜が揚げたものなのだが……


「ご飯がおいしいとこだよね」


 ゴクリ、と飲み込んだ。



 朝、俺は身だしなみを整えてまっさきに食堂へと向かった。みんな同じことを考えていたらしく朔や咲夜はもうすでにいた。食堂の扉の前で、なにやら楽しそうに話している。

 咲夜にかぎっては、ストレートでしかも髪を下ろしてたから一瞬誰か分からなかったけど。いつもより、銀髪の光沢が目立つ。


「でかいからいいわね、ここの食堂。やっぱり朝といえば朝ごはんよね」


 透けた扉になっているそこを覗いて、咲夜はうっとりした様子だ。確か食べるのは好きだったんだっけ。


「それ、昼にも同じこと言ってるだろうね」


 最近分かったことだけど、朔は見た目に反して毒舌だ。


「人生の醍醐味と言えば、おいしいご飯食べて寝ることじゃない」


 なぜか胸を張った咲夜が顎に人差し指をあてて、なにか考えるような素振りをする。まさか、料理の献立考えてるとかじゃないよな。脳裏に蘇るのは、昨日のケーキ。ほんとに、舌が麻痺するんじゃないかと思うほどしょっぱかったけど……

……それにしても、醍醐味、か。

 ずっとダンジョンを終わらせることばかりを考えていて、最近、自分の将来について考えることはなかった。


「まぁ、ご飯食べるのも寝るのも楽しいけどさ」


 朔が後ろを向く。


「アトリとクロジも来たし、天明もものすごっい嫌そうな顔してつれて来られたし、朝ごはんの準備しようか」


 朔と同じ方を見ると、双子のクロジとアトリと、それからアトリに首根っこつかまれたゲーマー少年、東雲 天明がいた。



「朝ごはん、でしょ。どうしようかしら……今まで出されたもの食べてただけで献立考えたことないのよね」


 6人全員がそろったところで咲夜は厨房へと向かっていった。やっぱり咲夜が料理を作るつもりらしい。なんとなく言葉の響きから不安なものを感じるけど、気にしないことにしよう。


「僕ら、座ってていいかな。咲夜以外料理作れる人いないっぽいし、手伝っても足手まといになるだけだよね」


「朔さん、料理できないんっすね。なんか意外っす」


「だって今までずっとここで生活してきたからさ、食堂あるから作る習慣なんてなかったし。シェルター内では外食できるしさ」


 テーブルに座ると、アトリは目を見開いた。なんというか、表情が大きい。どちらかといえば、クロジはあまり表情を面に出さず、アトリの方がその分活発な印象だ


「僕としては、灯璃ができないことの方が意外だったけどね。なんかなんでもできそうな顔してるじゃん」


「料理はできないよ。訓練学校からする必要なかったから」


「やっぱそうなるよね」


 そっすよね、とアトリも頷いた。

 ただ視界の端で、天明だけは無言を貫いてる。


「いった!」


 不意に、厨房の方から咲夜の叫び声が聞こえてきた。包丁かなにかで手を切ったのだろうか。続いて、血出たの久しぶり……、という呟き。

 立ち上がりかけるが、それよりも早く、天明がため息をついて体を起こした。


「手伝ってきます」


「天明、料理できんの!?」


「別にできるほどじゃないですがね。レシピさえ見れば手伝えるくらいにはできると思います」


 天明が手伝いに行ってから数分、なにやら不審な音はなくなったけど、かわりに大量の唐揚げが出来上がった。


「作ってくれてありがとう。に、しても唐揚げかぁ」


 こんもりと積み上げられたそれを見て、お礼を言いつつ朔が目を丸くする。

 朝から揚げ物だけど、まだ少しだけジュっと音を上げる衣や、漂ってくるいい匂いに、おなかはぐう、と鳴った。唾を飲み込む。

 厨房からお箸やその他もろもろを取ってきて、いただきます、とみんなで手を合わせる。


 口に放りこんだそれは、サクッと衣が鳴り、肉汁があふれ出して。


「美味しい……」


「そりゃまぁ、あたしの手作りだから」


 咲夜は得意そうな顔をして微笑んだ。


「それに()()()()()を使ってるからね」


「確かにシェルターじゃダイズの人工肉っすからね」


「そうそう。ここだとそこそこ広いから動物飼えるし、捕まえられるし。野生のイノシシとかさ」


 シェルターは食料を賄えるほど広くないから、ほとんど肉が出てくることはない。ただ人工食の技術は発展してるからそこそこの味ではあるけど、やっぱり本物の肉には遠く及ばないのだ。


 久しぶりの肉だったのか、アトリは目を輝かせ、クロジは無表情ながら、おいしそうに。朔は野菜中心に、咲夜はとにかくご飯と唐揚げ、天明は小食なのか、少しづつ食べている。


 負けじと目の前の温かい味噌汁をかきこみ、ご飯と付け合わせのレタスを頬張る。唐揚げを5、6つ食べたところで、携帯が振動した。


「あ、ごめん。携帯鳴ったから、ちょっと見てくる。たぶん、有明さんだ」


 一言言って、食堂の外に出る。

 灯璃へ、重要なお知らせ、とまるでサイトかなにかのメールのような件名に首を傾げる。


 開くと、まず目に飛び込んできたのは、美少女、という文字だった。

 混乱して文面に目を走らせる。要約すると、新しくここに来たいと言っている少女がいるとのことだった。要するに、その子がとんでもない美少女らしい。


 名を彼誰 月華(かわたれ げっか)というその少女は、小柄ながらびっくりするくらいの技量を持っているとのことだった。

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