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第十一話 地獄を見て、気づく。

――その日は、地獄だった。




「灯璃、行くぞ」


 寮の玄関で有明さんに声をかけられて、俺はおもむろに立ち上がった。

 今日は1月25日。昨日は影者ボスをあっさり倒して……シェルターに襲撃があった。


「今日は任務免除だそうだ」


 そう言う有明さんの、喪服の黒。大きな背中いっぱいのそれを見て、思わず下を向く。だけど視界に写るのはやっぱり同じく喪服の黒だ。

 さすがに討伐隊員の隊服で行くわけにはいかないからと、こういうときのために用意されている喪服。実際に使ったことはなかった。


「ですよね」


「まぁ、任務どころじゃないもんな」


「ですね」


「今日、なんでか影者が出ないのは幸いだったけどな」


「……ですね」


 はぁ、と有明さんがため息をついたタイミングで車のドアを開けた。


「落ち込むのは分かるが、いい加減にしろ? そりゃ、対応が遅れた一端にはお前の件が関与してるかもしれんが、1番悲しいのは遺族なんだからな……なんというか、シャンとしろ」


 運転席から後部席へと顔を向けつつ言う。有明さんの言葉は最もで、だからこそ胸に響いた。

 確かに今は猫背になっている自覚もあるし、ついでに有明さんをはじめ他の人からしたら、俺がこんなに落ち込んでる理由なんて分からないだろうから。やっぱり、しっかりしなきゃいけない。


「分かりました」


 顔を上げると、有明さんはもう前を向いていた。





 シェルターに着くと、まずは1番手前にある献花台へと向かった。大きな事件だっただけあって、もうたくさんの花が置いてある。

 ……影者による被害が大きすぎたせいで、こういう事件の処理は慣れているなんて、嫌な話だ。

 おそらくダンジョンができる前は何日もかかったであろう、遺体の照合、処置などは半日もかからずに終わった。


 今日の東京第1討伐隊の予定は、午前中と午後とで隊を半分に分け、それぞれシェルターに献花、あとは事件の片付けの手伝いだ。


 献花台の前で周りを見渡すと、喪服で泣き伏す女性や、まだなにが起こったのか分かっていないような顔をした小さな女の子。悔しそうな顔をした俺と同じ年くらいの少年や、制服を着たまま号泣する少女。


……地獄だった。


 込み上げるものがあって思わず駆けだすと、有明さんの慌てたような声が聞こえた。

 けれどそんなもの振り切るように走る。走り続ける。1番近くにあったトイレに駆け込むと、しばらくして有明さんが鍵を閉めたドアを叩く音が個室に響き出した。

 普段の彼では全く思いもつかないような慌てっぷり。そりゃそうだよな。だって


 俺を見張るよう言わてるんだもんな。


 俺は、要注意人物だから。昨日だってずっと、部屋に閉じ込められていた。


……地獄だった。

 けれどこの地獄は、俺が生み出したものなのだ。

 俺の計画が生み出したものなのだ。

 現実を突きつけられた気がした。

 今までずっと、きっと目を背けていた現実を。


 日本にダンジョンができたのを俺以外知らないのは、冗談でもなんでもなく、傲慢でもなんでもなく、俺の行動1つに、人の命がかかってるってことだ。


 しばらくして個室から出てきた俺を、有明さんは焦ったような顔で見つめた。


「その、大丈夫か……? とりあえず、今日は帰るか……?」


 ワタワタとそう言う有明さんに首を振る。


「せめて手伝いだけでもさせてください」


 有明さんがひゅっと息を飲むのをあとにして、俺は歩き始めた。

 きっと俺は、勘違いをしていた。途方もない勘違いをしていた。

 結局自分のことしか考えていなかったのだと、気づかされた。1人で抱え込んで、結局空回りしていた。


 ――その先になにがあるのかも考えないまま。


 魔王と出会って仲間を失ったときからずっと、なにも考えないようにしていた。気づかないふりを、した。


 仲間の死にはなにか意味があると考えて、死に囚われているのだと考えて。

 死から救うには、自分が頑張るしか、ダンジョンを終わらせるしかないのだと考えて。

 そう、自分を納得させて。


 ……だけど、どうだろう?


 先輩も圭も、もしダンジョンが終わらせられたとして、たくさんの人を救うことができたのだとしてそのとき――


 果たして、少しでも自分の死が無駄ではなかったと、思うだろうか?


 きっと誰もが、死にたくはなかったと、生きていたかったと、本音のところは自分も生きていたかったと、そう言うだろう。上辺じゃそ無駄にならなかったと言ったとしても、本音をたどれば、きっと。


 そもそもあのとき魔王が圭たちを殺したのは、ダンジョンのためでもなんでもなく、ただ生き残った者に魔法を与えるところを見られたくなかったとかそんなしょうもないものだろう。殺す以外になにか手段があったんじゃないかとか言いたいことはいっぱいあるけど、たぶんそんなところだ。


――だから俺あいつらのためにできるのは


 きっとなにもない。






 ――それから約1年。ボスが倒れてから1週間で影者は姿を消し、俺は事情聴取を終え、そして――


 影者討伐隊は、解散した。



 


 




第一章最終話です!

ここまで読んでいただいてありがとうございます!!

ちょっと消化不良的な感じかもしれませんが、第二章以降、めちゃくちゃ盛り上がるし、めちゃくちゃ個性的な登場人物出てきますし、恋愛とかもちょっと出てきたりなんかしちゃったりすると思います。もちろん、灯璃はこっそり無双を極めていきますし……

そんな第二章以降は、また明日から投稿しようと思います!

本当に、ここまで読んでくださってありがとうございました。


ここまで読んでくださった方、もしよろしければ、感想、評価、ブクマなどをいただければ、作者はロケットランチャーをぶっぱな……ぶっ放したらダメですね。でもそれくらいの勢いで喜んで頑張るので、是非ともよろしくお願いします!!

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