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第十話 ① 第一ラウンド

 来る24日、俺は早朝に目覚めた。いや、緊張して寝られなかったのだ。


「とうとうこの日が来たな」


 真っ黒なクマが住みついた目を擦る。体調は万全じゃないけど、やらなきゃいけない。

 今日この日を逃したら、きっともう、気力を起こすことはできない。いや、できたとしても、条件の揃った日がそうそう来るとは思えない。


「とりあえず持ち物は、銃と、水筒と、簡単な手当てに必要なものでいいかな」


 あんまり多く持ちすぎるのは良くないだろう。戦闘のときに邪魔になったら嫌だし。

 念のためにと心配する頭を振って、簡単な荷物だけを詰める。最後に、1年の付き合いになる銃を持って、俺は寮を出た。



「ここ……だよな……」


 頭の中のレーダーに従って長いこと歩き、とうとうついた場所は、ずいぶんさびれたビルだった。

 ごくりと唾を飲み込む。

 なんてったって、この建物の地下に、影者の親分がいるのだ。どれだけ強いか分からない。ただ分かるのは、今まで闘ったどの影者よりも強くて、1人で相手しなきゃいけないということだけだ。


「集中しろ」


 自分に言い聞かせ、深呼吸する。


「行くか」


 たった数秒だったかもしれない。もしかしたら、数分もかかったかもしれない。

 どれだけかは分からないけど、ともかく俺は、しばらくしてからビルの中に入った。


「暗っ」


 入ってそうそう、思わず声を上げた。

 影者討伐隊の任務で暗いところには慣れてるはずだけど、それにしても暗い。周りは全く見えないし、足元さえおぼつかない。もちろんシェルター外のビルに電気なんて通ってないから、エレベーターなんて使えないし、こわごわ階段を下りた。


「地下なんだよな。どんどん影者の気配も濃くなってるし、間違いはないだろうけど……」


 間違いないのは、レーダーが告げている。

 一歩一歩階段を下りるごとに脳に神経を集中させ、それからはたと気づいた。


「電気、魔法でつけたらいいんじゃん」


 よく考えたら、ここには人はいない。魔法は使い放題なのだ。ずっと闘うことばっかり考えてたから、気づかなかったけど。


 すぐに魔法を手のひらの上に生み出す。影者にはすぐに見つからないくらいの明るさで。


「あと1つ、角曲がったところかな」


 レーダーは思ったよりも、正確に場所を告げた。

 ただ頭に導かれるまま影者ボスのいる場所へと向かうと――


「やっぱいたか……てか。でかすぎだろ」


 目の前には大きな、4~5mくらいの、大きな影者がいた。


 大きな影者に、顔があるかは分からない。黒すぎて、分からないのだ。

 ただはっきりと、見られている気配はした。なんていえばいいんだろう……とにかくどこかから見られてる気配に、ゴクリと唾を飲み込む。


「これが、影者のボス……」


 呟いて、ライフルを構える。

 影者から一定距離に入れば、爆発させられる。そのことを考えたら、逃げ場所に限りがある地下は俺にとって圧倒的に不利だ。けど、それでも闘うしかない。だってもし、影者ボスがシェルターの方に向かったら? 俺は倒せるだろうか。みんなを守りながら、ボスを。どんな力を持ってるかすら分からないのに。


 自然と、ライフルを持つ手に力がこもる。


「ここで、殺らなきゃ」


 絶対に、地上には行かせない。建物の中で、逝かせる。


「きあrvsjkなhkSあんjLんだSきえ]


 耳をつんざくほどの悲鳴。いろいろな不協和音を混ぜたような叫び声をボスが上げて,闘いの火蓋が切られた。


 爆発させられてはかなわないと、まずボスからできるだけ距離をとった。それから、頭をめがけて、銃を1発。命中。


「よしっ」


 さすがに1発では倒れない。続けざまに何発か撃ち込む。

 魔力をもらった力をフル活用して銃を撃ち込むが、影者ボスにはほとんど効果がないようだった。


「くそっ。さすがにだめか」


 やはりボスだけあって、最低でも2発の銃で倒れる普通の影者とは段違いだ。


「魔法、使うしかないかな」


 手に、火を灯そうとして、はっと気づいた。ここは、今にも朽ちそうな建物の中だ。


「火は、使えないか」


 あるいは電気も。建物自体が燃えて、俺もお陀仏になってしまう。


「どうしよう」


 でもどうにかして、ここでボスを足止め、いや、殺すしかない。


「魔法は使えないよな。詰みじゃん」


 下手に威力の強いものを使ったら、建物ごと崩れてしまうだろう。

 噛みしめた歯から、ギリギリと音がした。

 影者はといえば、ずっと大人しく銃弾を撃ち込まれていたが、俺が攻撃できないと踏んだのかのしのしと音を立ててこちらに向かってきた。

 すかさず避け、安全だろう距離をとる。避けつつ、体の中では比較的細い脚――ついでに、腱のありそうなところ――を狙って銃弾を撃ち込む。が、効果はなく。


 影者が1歩進むたびに、建物が揺れる。今にも崩れそうだ。


「さすがに影者が動くだけで崩れるってことはないよな」


 冷や汗が首をつたった。だって今まで、全く動かなったってことはないだろうし。

 それでもそう思うほど、影者ボスの1歩は質量があって、恐ろしかった。しかも、だんだん隅の方に追いやられている。


「くそっ。いったん地上に逃げるか」


 出直そう。そう判断して地上へと続く階段を上り始めるた瞬間だった。

 ガタッと小さな音がした。

 だけど十分な威力を持った音で、音がした方を顔を向けると――


 ガラガラと途端に音はでかくなって、建物は崩れ始めた。


「嘘だろ」


 すかさず走り出す。命からがら地上へと逃げ込むと、すぐ後ろで建物が崩れ落ちた。

 

「あhg;・。ぁえんヵ;brdsっら」


 再び、咆哮。第2ラウンドの始まりだ。


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