第九話 第1層攻略計画
本格的に魔法が使えるようになってから、約半年が経った。そもそもちゃんと魔法が使えるようになったのは魔王エンカウントから1年半だったから、年は変わって、今は2020年。
未だ俺の働く拠点――東京第一シェルター保護のための拠点――に補充の隊員は来てなくて、きりきり舞いしている。しかも俺は影者レーダーが備わったおかげで討伐数が跳ね上がり、結果討伐部隊の部隊長へと選抜されたから、余計忙しくなった。もちろん、その分自由もきくから、ダンジョン攻略のための活動がしやすくなったんだけど。
そして忙しくなっても、ボスの居場所は見つけた。俺らの拠点の保護区域である上野、その商店街の雑居ビルの地下。明らかに、他の影者と違う雰囲気を醸し出している。もし下手に接触して戦闘になってしまったら怖いから確認はしてないけど、ほぼ確実だと思う。
「それに、魔法が使えるようになったって言っても、ちゃんと練習したわけじゃないからな。やっぱりなかなか踏み込めないよな」
影者のボスともなれば強いだろうから、正直簡単に倒しにいけるような相手じゃない。といっても、そろそろ第1層を攻略しないと、ダンジョン攻略に何年かかるかわかったもんじゃない。俺が渋ってるうちに対応が遅れて、犠牲者が出るのは嫌だし。
「そろそろ、かぁ。1カ月のうちに攻略しなきゃかなぁ」
今日も今日とて自室で呟く。どうやら俺には、考え事をするとき独り言を言う癖があるらしいというのに気づいたのは最近のことだ。
朝、任務開始時間まで攻略方法について考えるのは、日課になった。
「1カ月……たぶんスケジュールに空きが空いて、討伐隊員が暇になるのは、1月24日。その日に攻略するか。その日だったら、確か影者討伐隊全体の公休日だったよな」
もちろん、影者のボスを攻略しには、俺だけで行くつもりだ。
周りの隊員や部下を巻き込むことはできない。
けれど、もし俺が殺られてしまったら? 影者のボスは、一体どういう状態で封印されてるか分からないけど、地下から抜け出して街を歩きだすに違いない。そんなとき、隊員たちが全員拠点にいたら、彼らが影者を倒すことができるだろう。24日は休みだから、隊員たちは、全員本部に併設された寮にいるはず。
そんな理由から、俺はあっさり、24日に討伐しにいくことに決めた。
半年悩んだわりに、だ。その半年、できるだけの努力は重ねたけど、それでも。
ただ、時間に背中を押されて。
後から考えたら、できるだけの努力、と、限界を超えた努力、は違ったし、それにこの時の自分は、ダンジョンの存在を日本でただ1人知る、ということの意味を分かってなかった。




