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入団2

 どうやら一次試験は合格らしい。


 ホッと一安心しながらアンジュの後に続いて王城を目指していると、斜め後ろを歩く父が不機嫌そうに口を開いた。


「……何故、私が教えた剣術を使わなかったのだ」


 その言葉にどう答えようかと悩んでいると、アンジュが歩きながら顔だけで振り返る。


「アンドール卿の剣術、ですか? 自らの流派を?」


 驚いて聞き返すアンジュに、父は鷹揚に頷いた。


「その通り。とはいえ、若い頃にアペラシオン流剣術を納めていた為、我流ではなくアペラシオン流剣術を改良した、という方が正しいだろうか」


 と、真面目な顔で自らの開発した剣術について語る。それにアンジュとミュスカが目を見開いてこちらを見る。


「で、では、本当ならばクロウ殿はもっと……?」


「……私、手加減された……?」


 やばい。父に余計なことを言わないように告げなければ……。


 そう思った矢先、父は深く頷いて答えていた。


「うむ。クロウが本来の剣術を用いたら倍以上は強くなるだろう。なにせ、本来の実力は私よりも僅かに上なのだから」


「父上、その辺で……」


 余計なことを口走る父の言葉を遮って止めたが、どうやら遅かったらしい。アンジュは驚愕の表情で私や父を見ているし、ミュスカは燃えるような目つきで私を見上げていた。


 どうしたものかと思っていると、アンジュが微笑みながら案内を再開する。


「そんなに強い方が入団されると心強いですね。是非、私達の騎士団に入って欲しいです」


「そうなると嬉しいですね」


 アンジュのおかげで形だけでも柔らかい雰囲気に戻すことが出来た。まだまだ話し足りない顔をする父と、今にも切り掛かってきそうな狂戦士(ミュスカ)がいるが、そちらには触れないでおこう。


 暫く大通りを進むと、遠くに屋根だけが見えていた王城が間近になってきた。美しい白い石造の城だ。ドイツのノイシュバンシュタイン城を左右に拡張したような雰囲気である。


 あまりに荘厳な光景に私は城を見上げたまま立ち止まり、言葉を失ってしまっていた。


 それに、アンジュが息を漏らすように笑う。


「ふふ、綺麗ですよね。この正面から見る城の姿が一番綺麗だと思いますよ。夕方、城壁の上から見る王都もすごく素敵ですけど」


「……凄い景色ですね。感動してしまいました。夕焼けに染まる王都の景色も是非見てみたいです」


 そう答えると、アンジュは僅かに頬を染めながら、歩み寄ってきた。


「で、では、また後日ご一緒しましょう。案内をしますので」


「本当ですか。ありがとうございます。その時は是非お願いしますね」


 そんなやり取りをして微笑み合っていると、ミュスカが私とアンジュの間を通り抜け、王城の入り口を指さす。


 王城の入り口は街の入り口と同様の巨大な両開き扉だった。門は開け放たれており、その前には隊列を作って行軍する鎧姿の騎士たちの姿がある。


「丁度、正午の行軍が終わったみたいですね」


「正午の行軍?」


 尋ねると、アンジュが頷いて答える。


「騎士団は中央と東西南北で合わせて五つあります。中央は近衛騎士団とも呼ばれる第一騎士団で、後は順番に第二、第三と番号が振られています。それら五つの騎士団が順番に午前と午後の行軍訓練として街の中を巡ります。今の第一騎士団団長が始めた訓練ですが、お陰で街の中での犯罪が劇的に減りました」


「成る程。ちなみに、あの騎士団は王城内に向かっているということは……」


 そう口にした時、行軍する騎士団の最後尾を歩いていた中年の男がこちらに気が付き、片手を上げながら立ち止まった。


「おぉ、アンジュではないか! む、ミュスカもいるな。第三騎士団の二花が揃ってどうしたのだ?」


「バルザック様」


 と、白髪を後ろに撫で付けた偉丈夫がこちらに歩いてくる。アンジュがバルザックと呼んだ男は、年季の入った銀色の鎧に黒いマントを羽織っていた。かなりの存在感だが、髭面に人懐こい笑みを浮かべている為、そこまで威圧感は無い。


 アンジュとミュスカが上官であるアルザスを前にした時よりも緊張した様子で背筋を伸ばし、返事をしている。その様子に、私と父も敬意を持って一礼した。


「む。もしや、入団希望者か。アンジュとミュスカを付けたということは、貴族の出だな? 吾輩はバルザック・ベアルヌ。ベアルヌ伯爵家の当主である。また、騎士見習いや他所から来た騎士の教官もやっておる」

 

 そう言って不敵に笑みを浮かべるバルザックに、父が前に出てきた。


「なんと、卿があのバルザック閣下でしたか。騎士団長であられると記憶していましたが……私はアンドール・コート・エルミタージュと申します。これは我が息子、クロウ・エ・ローヌ・エルミタージュです」


 父が名乗ると、バルザックは顎を指で摘むように撫でて唸る。


「ふむ……エルミタージュ男爵家は文官の出自だったと記憶していたが?」


 と、まるで先程の父の言葉を真似るように聞き返された。それに父は苦笑いを返す。


「いや、お恥ずかしい。我が家系はどうやら領地を豊かにする才能には欠けていたようです。故に、腕に覚えのある剣で、領地を支えようかと」


 本当に恥ずかしそうにそう言った父に、バルザックは面白そうに顔を突き出した。


「ほう! 文官の出自ながら腕に自信があるか! 面白い! 先程の問いに答えよう、アンドール卿。吾輩はもう四十になった。騎士団長の任は自ら降りたのだ。今は若人を育てる為に騎士団長の補佐と教官を兼任しておる。さぁ、入団試験ならば、今からやろうではないか。吾輩が自ら確認してやろうぞ」


 バルザックは怒涛の勢いでそう語ると、笑いながら前を歩き出す。マイペースな人物である。


「……まさか、バルザック様と剣を?」


 そうアンジュに尋ねると、アンジュは首を左右に振った。


「い、いえ、そんなことは無いと……バルザック様は現在の騎士団長であるリュベロン様を除いて、いまだに騎士団最強の一角と呼ばれています。まさか、試験官をなさるようなことは……」


 と、不安そうに答える。すると、ミュスカが胸の前で小さな拳を握り締め、私を見上げた。


「……リベンジ。私が試験官として立候補する」


「ミュスカはもう負けたからダメですよ」


「ぐぬ……っ」


 思ったよりエッジの効いたアンジュの一言に、ミュスカは眉根を寄せて口籠った。あまり刺激しないで欲しいものだ。


 そうこうしている内に、急に緊張し始めた父が先に歩き出した為、アンジュと共に慌てて後を追った。


 行軍訓練していた騎士達はとっくに城門を抜けており、王城の敷地内を城を回り込むように移動していた。それに付いていくようにして王城のすぐ傍を歩く。


 巨大な城を見上げながら、良く整備された通路を進む。騎士が四列縦隊で進むのにも余裕がある広い通路だ。地面はいざという時に雨で泥濘んでしまわないように石畳となっている。


 その通路を暫く進むと、急に開けた場所となった。


 騎士達も左右に分かれ、壁際にて各々楽な姿勢をとっている。


 そして、騎士達に囲まれるようにして、広場の中心にはバルザックが腕を組んで立っていた。


 こちらを見て獰猛な笑みを浮かべると、バルザックは肩を揺すって笑う。


「変則的だが、これより入団試験を行うぞ! 志願者はアンドール卿とその御子息! 特に、アンドール卿は王国法に基づき試験を合格すれば指揮官の一人となる。最低でも一般騎士よりも強くあってほしいものだ!」


 バルザックが大きな声でそう告げると、周囲に立つ騎士達が興味深そうに顔を上げて、こちらを見た。






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