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【過去】男爵家の次期当主

 物心ついた頃、私はあることを思い出した。


 自分が、この世界の住人ではないことをである。


 昔、私は歴史好きのOLであった。本当は博物館などで働きたかったが、興味を持ち出したのが遅かった為進路の修正は難しかった。


 とはいえ、趣味は仕事にすると良くないという。私は開き直って映画や漫画をメインに歴史系ジャンルにどっぷりハマった。


 新選組から入ったのだが、幕末から遡って戦国時代に足を踏み入れ、平安時代まで走破する。ついでに陰陽師までちょこちょこ読み漁り、気付けば海を渡って三国志にハマる。


 三国志にハマれば項羽と劉邦、始皇帝と遡っていき、最後には脳内で大陸を超えて欧州にまで足を伸ばす。


 ローマ帝国って凄い! でも屑な皇帝多すぎ!


 そんな平々凡々とした感想を抱きつつ、映画で剣闘士だったりエジプトとの戦いを観てみたり、古代にタイムスリップした若い女性の生活を見て、充実してるけど超大変そう、なんてことを思ったりした。


 そうやって歴史を楽しんでいると、ちらちらと垣間見える神話の不思議さに心惹かれ、そちらにも手が伸びてしまう。


 日本神話やギリシャ神話からキリスト教神話、北欧神話辺りからインドの神話まで。


 後ろから目を隠したら世界は暗闇に包まれるのか。ラブコメの1シーン1つで世界は大混乱だな。


 そんなことを思いつつ、私は毎日趣味に没頭していた。


 非生産的かもしれないが、充実した毎日である。


 さぁ、今度は大河ドラマで久しぶりに戦国時代の王道である太原雪斎が主役だ。今川家を中心に戦国時代の裏側が描かれるに違いない。


 今から楽しみである。


 そう思ってベッドで横になり、眠った。






 気が付いたら男爵家の一室で妹の生誕を祝っていた。


 あれ? なに? 何処ここ? わ、赤ちゃん可愛い。


 パニックになりながらも、泣いて喜ぶ両親に合わせて私も大いに喜んだ。


 数日して、生まれたばかりのターシュの面倒を見ながら状況を把握する。


 当時の私は五歳になったばかりだったが、それでも違和感に気が付いていたようだ。


 なにせ、スカートを履いたことも無く、貴族の娘が学ぶようなことは教えられず、父や母からは文字や四則演算の他には領主としての仕事に剣、魔術などを習っていた。


 貴族の振る舞いや礼儀作法も男らしい内容であり、気が付けば私は女としての自分を忘れていた。


 剣を持てば、エルミタージュ男爵領では負けなしとなり、妹からも兄様兄様と懐かれているほどだ。


 残念ながら、魔術の才能はあるのに魔術を発現出来ないという事態となり、もっぱら剣ばかり学んだ。


 歴史好きは変わらなかった為、この国の歴史を学べたのは楽しかった。近世ヨーロッパみたいだと思っていたのだが、歴史を学んでいく内に現実を突き付けられてしまう。


 大陸の形や各国の情報、世界情勢や生態系、魔術という存在。


 学べば学ぶほど、この世界が別世界だと気付いてしまう。


 正直、平安時代や近世ヨーロッパに戻って姫、貴族生活なんて妄想もしたことはある。


 しかし、こんな魔術なんてある世界で貧乏貴族の、しかも息子として育てられるなんて思いもしなかった。


 これはあれだ。凄い魔術の才能があって、大魔法使いとして大成するに違いない。魔王なんてのはいないようだから、世界を世直しの旅で救うのだ。


 そして、イケメンの騎士様と一緒に……。


「まぁ、クロウちゃん。ターシュちゃんも魔術の才能がありますよ。クロウちゃんほど魔力量はないようですけど、十分過ぎるくらいです」


 不意に、母が嬉しそうにそう言った。嬉しそうに妹の頭を撫でる母を見ながら私も微笑む。


 やはりか。私と妹は賢者の道を歩くのか。困ったな。空とか飛んで雷を降らせたり出来るのか。


 そう思っていたが、次の父の台詞で現実を知る。


「ターシュは、クロウのように魔術が発現出来ないなんてことが無いと良いが……」


 ポツリと呟かれた言葉に、私は父と母の顔を見る。すると、母は眉をハの字にして悲しそうに微笑み、私の頭を優しく撫でた。


「大丈夫ですよ、クロウちゃん。殆どの人は魔術を使えません。大体の人は魔術とは無縁の生活を送ります。それに、クロウちゃんは魔術師以上の魔力を持っているのだから、もしかしたら、いつか魔術が使えるようになるかもしれません」


 優しく声をかけられ、私は悟る。魔術師になれるかもしれない。そう思って両親は大いに期待したのだろう。だが、なんらかの理由で私は魔術が使えなかったようだ。両親は落胆したが、それでも私を大切に育てた。


 何故か、男として。


 なんだ。ぬか喜びさせた罰として嫌がらせを受けているのか、私は。


 そう思ったこともあったが、これも違うらしい。どうやら、貴族の当主になれるのは男だけであり、娘しかいない家は養子をもらって次期当主を育てるとのこと。


 だが、その養子が問題となる。養子はやはり貴族の子か、または利益が約束される大商人の子などから貰うのが通例だ。しかし、その場合、養子を出したところに家を乗っ取られてしまうパターンが酷く多い。


 一代前の国王が領地を広げられない代わりに爵位で褒美としたらしく、貴族が多くなり過ぎてしまった為、今は余程のことが無い限り貴族にはなれないという。


 だから、養子として我が子を送り込み、最終的には自らの一族もその家に入って貴族の姓を名乗る。


 そんなやり口が富豪の間で流行っているのだ。


 仮にも三代続く男爵家として、そのような事態は避けねばならん。


 アンドールパパはそう考えた。


 娘が二人しかいないのならば、長女は長男として育てる。


 一見すると狂気の沙汰だが、何故か上手くいった。私はすくすくと育ち、剣の腕は十歳を過ぎた段階で男爵領内で一番となった。人数が少ないのと過疎化の影響は大きい。


 しかし、我が母は大いに喜び、クロウちゃんは英雄になるに違いないと自慢していた。その頃からターシュも兄さま兄さまと私の後ばかり追うようになった。


 別に前世で剣道を嗜んでいたわけでも無いので、自分の実力を過大評価したりはしない。


 一応、中学、高校ではダンスと武道を選ぶ場面では柔道を選んだ。剣道と空手も選べたが、何となく掴んで投げる方が簡単そうだと感じた。怪我もしなさそうだし。


 実際は全くそんなことはなく、柔道経験者の先生に思い切りしごかれたが。


 話は逸れたが、とりあえず剣を握ることもなかった私が英雄など夢のまた夢である。


 家が極貧なのは分かっていたので、一応学べることは必死に学んでおいたが、私が剣で大成することはないだろう。


 幼い私は既に悟りの境地にあった。


 そうして、私は年齢よりも遥かに大人びた子供らしくない子供として毎日を過ごし、めでたく十八歳となったのだった。







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